【短編】夏休みを満喫したい俺は、無理ゲー試験を剣一本でクリアしたい。
水定ゆう
三分以内にヒドラを倒せとか無理ゲーだろ。
魔法使いの俺には三分以内にやらなければならないことがあった。
「はぁはぁ、ざけんなよ。この野郎!」
俺は息も絶え絶えで、肩で呼吸をしていた。
張り詰めた胸が痛い。手の中に収まった剣すら重い。
「チッ。後三分しかねぇのかよ! やっとここまで来たってのに、武器も剣って。ふざけんなよな!」
俺は今、魔法学校の試験の真っ最中。そう、あの忌々しい前期期末試験って奴だ。
当然この試験をクリアしなければ、夏休みは補習地獄だ。
そんなのは絶対に嫌だ。夏休みは休むためにあるんだ。
こんなに苦労したにもかかわらず、通らないなんてごめんだ。
だから絶対に勝ちたい。そう思っていたのだが、目の前には魔法使いの天敵の姿。
魔法耐性でコーティングされた巨大な竜。
幾つもの頭を持つ青紫色をしたモンスターで、名前をヒドラと言う。口から毒液を吐きかけて攻撃して来るアレだ。
正直残り時間の関係でヒドラはヤバい。
明らかにクリアさせる気が感じられない。
俺はそう思い、今もピンピンしていることから、きっとほとんどの同級生はやられてリタイアしたらしい。
「ヒドラなんかに負ける気はねぇけどよ。俺は魔法使いだぞ? 魔法使っちゃいけねぇのかよ!」
俺が不満タラタラな理由。それは魔法を使っちゃいけない試験だからだ。
魔法使いにとって、それはあまりにも酷。
おまけに相手はヒドラ。魔法耐性が強固で、仮に魔法が使えても倒せる保証は何処にも無い。
一体全体なにが正解なのか。
果たして学校側が用意したボロボロの錆びついた剣で倒せるのか。正直倒せる気は全くせず、俺は苦渋を舐めた。
「ったくよ。どうしろって……」
俺は地面を蹴ると、ヒドラが長い首を伸ばして、俺のことを襲う。
鋭い牙がスレスレの所で俺の肌を狙う。
「危ねぇな! こっちはまだ話してる最中だろ!」
俺はヒドラに剣を突き付けた。
ここまでの試験で疲労困憊。そのせいもあり、カッコ付けようにも格好が付かない。
ヒドラの姿すら正直涙でボヤける。
遅くまで起きていたことが祟っている。
さっさと終わらせて帰りたい。
クリアしてパーッと遊びたい。
その気持ちが俺のことを突き動かすと、ヒドラの毒液をすんなり避けた。
「そんな攻撃喰らうと思うな!」
俺は虚勢ではない威勢をぶちまけた。
こっちはここまでの試験で相当心身を削り、魔力も底を尽きそうになっているんだ。
どのみち魔法が使えないなら、魔法使いとしての命もない。
そう思われているから、今回の試験があるんだ。
「ざけんなよ。んなもん、こっちからぶち壊してやらぁ!」
俺は殺気を剥き出しにすると、目の前のヒドラに近付く。
魔法なんて当に使えない。ここに来るまでに掛けておいた、なけなしの身体強化魔法で特攻すると、鈍に錆びた剣を叩き付ける。
ガキーン!
しかしヒドラには当然通用しない。
簡単に弾かれてしまい、その瞬間毒液を吐き掛けられる。
「うぜぇ!」
俺は毒液を剣で弾いた。錆びついた剣の錆が取れる。
同時に剣の寿命も後僅かになる。ここは正念場。俺は死ぬ気で突撃し、切れないならばと最後に足掻く。
「こんちくしょう! 俺は、俺は……」
そう、俺には壮大な目的がある。
だからこんな所で止まってられない。
特に目の前の魔法耐性付きのヒドラなんかには負けない。何故なら俺は……
「夏休みは自然公園に行くんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
モンスターが好きだから。
「ったくよ。ギリギリだったぜ!」
俺は試験時間ギリギリ、残り一秒の所で決着を付けた。
ヒドラの目にはバッテンが付き横たわっている。
全身がボロボロ、当然俺もボロボロ。だけど生きていた。
「全くな、魔法使いに魔法使わせろよ。剣なんかで相手して勝てる奴、そうそういねぇだろーが」
俺は勝ったからには悪態を付く。
意地悪を通り越し、試験をクリアさせる気もない学校側がイカれていると思う。
それもそのはず、ヒドラの毒液は掠ったらアウト。
きっと弱めに設定はしていただろうが、それでも死人が出かけない。現に俺が視線を飛ばすと、数時間前にできたと思しき髑髏がこちらを覗いている。
「悪ぃな。俺は死ぬ気ねぇんだ。なんたってよ、俺は剣がめちゃ得意な魔法使いなんだぜ。まあ、専門はモンスターテイマーなんだけどな。あはは、思い知ったか!」
俺はヒドラの背に乗り高笑いを始めた。
時刻は夕方。もうクタクタ。
残響のようにこだまするせせら笑いに観察しているであろう、先生方試験官は幻滅な目を浮かべている。なんたって今回の試験、誰も剣を使える奴が居るなんて、知らなかったのだから。
そう、特技に剣を書いていなかった俺一人を除いてな。
【短編】夏休みを満喫したい俺は、無理ゲー試験を剣一本でクリアしたい。 水定ゆう @mizusadayou
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