イセテン動物園バッファロー

蟹味噌ガロン

第1話 異世界転移を阻止せよ

 バッファローこと俺には三分以内にやらなければならないことがあった。


 俺は三分後に"俺の異世界転移"を阻止しなければならないのだ。



***



 何かにタックルされた衝撃で、ハッと目が覚めた。


 ここはどこだ?


 クリアになった頭で目の前をみる。


 バッファローが居た。


 こんな近くでバッファローを見るのは初めてだー……じゃない。バッファローと俺の間には柵で隔てられていないぞ。何がどうなっている?


 近くに柵は……あった。

 柵の外では賑やかに会話する家族連れ、手を繋いでいる2人組みなどで賑わっている。

 彼らは柵の中のバッファローを眺めて楽しんでいる様子だ。


 柵から見える景色、そして彼らが手に持つパンフレットに見覚えがある。


 ここはイセテン動物園だ。のびのびとした野生動物を見る事が出来るという普通の動物園とは違う少しばかり特殊な動物園である。


 珍しい動物がいる為、良い教材になると毎日通い詰め、動物達をスケッチしていた日々を思い出す。見慣れた場所だ。


 けれど今現在、俺がいるのは柵の中だ。俺の居る柵の中にはバッファローが10頭も居る。イセテン動物園の七不思議のひとつ、やたらと数の多いバッファローじゃないか。


 柵の向こうでは一人の子供が興奮しながら俺を指差した。


「見てみてバッファローだって!」


 俺を指差してバッファローだとそう言った。

 目を輝かせ、間違いなくそう言った。


『……え、俺がバッファロー!? ……じゃなくて、俺はさっき仲間に……仲間だった奴らに殺された筈……』


 魔王を倒した後……いや、思い出すのはよしておこう。


 俺はこのイセテン動物園で異世界へ転移したのだ。転移された時間は確か……。


 柵の向こう側には時計台が見えている。シンプルかつ見やすいデザインだ。表示される日時は……、


 まて、待て待て待て。

 今日は俺が召喚された日じゃないか?!


 しかも召喚されるまで後三分しかなかった。


 俺が召喚された場所は覚えてる。あの日はコアラをスケッチしていた最中だった。水筒のお茶を飲み干し、自販機に飲み物を買いに立ったその瞬間に召喚された。時間はちょうど15時時計台の音楽が鳴り響いたその瞬間、召喚されたのだった。


 召喚後は確か……クソッ、あんな地獄の生活は回避してやる……!


 俺は勢いをつけて柵の向こう側へ、俺の居る方へを走り出す。


『何してるんだ待て!』

『楽しそう! 行くー!』


 背後からは俺以外のバッファローが次々と着いて来ていた。


 俺が一度柵を飛び越えて仕舞えば後続バッファローも次々と飛び越えていく。


『俺は絶対に転移を阻止してやる!』


 間に合え……!


 イセテン動物園の客が悲鳴をあげて俺たちを避けて逃げ惑う。


 スケッチをしていた転移前の俺は既に立ち上がっていた。騒ぎに気づき俺たちバッファローの群れを見ているようだ。


『おい俺! 足元光ってんぞ!? 早く逃げろよ!』


 俺たちバッファローの群れを見て固まる俺。


『ちっ、仕方ない! 受け身取れよ!!』


 固まる俺に向かって俺は突進していく。


 俺は俺を頭で掬い上げるようにして跳ね飛ばし放り投げる。

 俺が吹っ飛ばされ、何の変哲もない植木に落下したのを見届ける。


 その直後、俺の目の前が白く光った。

 眩い光が収まり、目の前を見ると見覚えのある神官が立っていた。


「ようこそ、勇者……さ、ま????」


 俺を見て固まる神官。


 今居る風景も見た事がある。

 ……また俺が異世界転移してる!?


 俺の周囲ではブルルンと鼻音を鳴らすバッファローの群れ。


『何ここどこ?』

『草が無い』

『飯まだか?』


 異世界転移したのは俺だけじゃなかったらしい。


『今度はあいつらを跳ね飛ばすんだな!』

『任せろ!』

『行くー!』


 バッファロー達はやる気満々で脚を踏み締めて今にも飛び出しそうだ。

 今は頼もしい仲間が居るじゃないか。


 今度は俺の、俺たちの力で魔王も俺を嵌めた奴らも何もかも全てを跳ね飛ばしてやる……!


 俺は脚を踏み締めて手始めに目の前の神官を跳ね飛ばした。


 俺たちは全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イセテン動物園バッファロー 蟹味噌ガロン @kanimiso-gallon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ