おそらく、那由他に近い三分

 主人公であるナユタは憎からず思っているモコに対し告白した結果、満更でもないはにかみと共に「本当に私のことが好きだったら、三分以内にもう一度告ってよ」という言葉を返されることになった。

 この物語は、ナユタが再び告白するまでの逡巡の話である。

 さて、好きな相手に告白するというのは二度目であってもドキドキすることだろうが、相手も自分のことを憎からず思っている。三分以内にもう一度告白するというのは我々にとっては大して難しいことではない。

 ところが、ナユタにとっては非常に難しいことなのである。

 と言っても、ナユタとモコの距離が三分ではとても会えないほど離れているわけではないし、ナユタの三分以内の告白を妨害しようとする敵がいるわけでもない。

 しかし、三分という時間は日常で平然とフェムト秒(千兆分の一)単位が使われるこの作品内ではとんでもなく長い時間であるのだ。

 〇〇には三分以内にやらなければならないことがあったという制限時間の短さを強調するお題において、敢えて三分という時間を長く捉えてみせた発想の大胆さに驚くと共に、我々では想像できないような時間の感覚に恋愛という要素を重ねることで、待つ苦しみを身近なものとして書いた技巧に唸った。

 突飛な発想で日常を描く、親しみやすくて面白いSF小説であったと思う。


(KAC第1回アンバサダー企画お題「書き出しが『〇〇には三分以内にやらなければならないことがあった」/文=春海水亭)