カタログ・ギフト

ひぐらし ちまよったか

破壊神

 異世界へ行くには三分以内にやらなければならないことがあった。


 〇 〇 〇


 ――ある日、ひぐらしは死んでしまう。


 車の接近に気付かず、道路へ飛び出しそうになる猫を見付け、駆け出した。

 が、普段使わないシナプスは、なまった体を狼狽うろたえさせる。

 人は左右の足を同時に出しても、速くは走れないらしい。

 目の前で無様に転がり「びてッ!」っと叫ぶ、やけにヒョロ長いダメおやじ。

 猫は短い悲鳴を上げて飛び退いた。


 そのおかげで車も猫を轢かずに無事通過したが、歩道でド派手に転んだひぐらしは、すでに虫の息だ。

 ひぐらし、だけに。


「き……君が、ぶじで……よかった」

「しゃ~っ!!」

「つ……強く……生きろよ……」

「しゃ~っ!! と・と(やんのか? ステップ)」


「お……恩返し、してくれる気なら……『やなぎ屋』の……どらやき……を、墓前に……」


 ひぐらし最後の言葉である。


 〇 〇 〇


 ――出血大サービスとの事だ。


「転生特典のスキルを、ひとつ選んで下さい。三分以内で」


 貧困なイメージそのままの、ゆったりとした白衣の有翼女性が事務的だ。


「大サービスと言うのなら『金髪ストレートのゴスロリ・メイド服』なのでは?」

「二分五十秒」


 事務的だ。くそお。


「この『ニコちゃん動画』みたいに流れてくる中から選ぶのか?」

「二分四十秒」

「だいたい三分って何だ? 分や秒ってのは地球の自転速度を元にして作られた時間の単位だろ? 神様的に……」

「二分三十秒」


 くそお。


 しかたない、まじめに考えるか。

 大サービスと言うだけあって、なかなかチートなモノも混ざっているようだ。


「ふむ? 魔力無限……限界突破……重力制御」

「あと二分です」


「焦らすなっ! ええっと……剣聖……賢者……魔王・四天王の一人……」

「一分三十秒」

「……金髪碧眼・第二王子……」

「あと一分……」



 ――残り二秒になって、決断を下す。



「……も……モザイク破壊……で……」




 ――なお、転生先の中世ナーロッパに魔法は有ったが『AV』は、無い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カタログ・ギフト ひぐらし ちまよったか @ZOOJON

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説