女王と英雄達のバッファロー討伐

孤兎葉野 あや

女王と英雄達のバッファロー討伐

その日アオバの砦に集った女王と英雄達には三分以内にやらなければならないことがあった。前方から土煙と共に近付いてくる、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを排除することだ。


バッファロー種が新たな縄張りを求めて移動すること自体は珍しくないが、この規模で大移動が起こるのは現女王の即位以降初、過去の記録でも数十年前に遡る。

当時の記録に残るのは、進行方向にあった二つの砦の壊滅。前方に何が存在しようと、多少の犠牲が出ようと、本能のままに突き進むバッファローの群れが『全てを破壊する』と形容されたのも無理からぬことだろう。


そして今、到着して間もない英雄の一人『賢者』が遠見の兵と共に予測した、バッファローの群れが砦に到達するまでの推定時間は三分。並の軍勢なら動揺するところであるが、ここにいるのは各地で名を知られた英雄達である。


「行くわよ!」

城壁の上から『指揮者』が巨大な炎の塊を群れの先頭へと落とす。


「~~~~!!!」

どれほど強力なバッファロー種といえども熱さには弱い。直撃を受けた数頭はのたうち回り、そこに衝突した群れの後続は混乱し、やがて左右に分かれた。



「『剣士』と『賢者』は右へ! 『射手』と『刃』は左へ! 『護り手』はここで非常時に備えて!」

「「了解!!」」

そして『指揮者』の声に英雄達は散開し、それぞれの技を奮ってゆく。


「行くよ。」

「はい!」

『剣士』と『賢者』が寄り添うように飛び出せば、『賢者』の魔法を乗せた『剣士』の宝剣が鋭く振り抜かれ、その斬撃がバッファローを切り裂いてゆく。

魔法で宙に浮いたまま、幾度もそれを振るう様はまさしく各地に名を轟かす『英雄』だ。



「まずは私がやる!」

「後始末は任せて。」

『射手』が狙いを定めた先に光の線が放たれ、直撃したバッファローを貫き、その付近にいた者も負傷させる。そこに『刃』がゆらりと近付くと、止めを刺していった。


「私も見てばかりはいられませんね。」

女王が国に伝わる魔法の弓矢を手に取り、中央から屍を乗り越えてこようとする一頭に放てば、その眉間へと真っ直ぐに突き立った一射が標的の動きを止める。


「~~~!!」

「『護り手』、女王様へと向かおうとするバッファローを止めて。」

「うん!」

そして、放たれる矢の中を砦へと向かおうとする数頭も、突如として現れた輝く壁に阻まれ、狼狽える間に『剣士』と『刃』が切り裂く。


やがて、三分が経つよりも少し早く、現れたバッファローの群れは全滅し、砦の兵や近隣の住民達は女王と英雄達に止むことの無い感謝の声を響かせた。



******



「待って。確かにあの時は皆で対応したけど、何で国が発行する書物になって、人気まで出ちゃってるの?」

「砦の守りを増強したり、倒したバッファローの後処理をするのもお金がかかるのよ。こうしてでも回収しないと。」

招かれた貴賓室で、この国で大人から子供まで人気の物語『女王と英雄達のバッファロー討伐』を手に取り、書物の中の『剣士』が軽く抗議の声を上げ、『女王』が微笑んで答える。


「記録として残したり、公表することもあるとは聞きましたが、これは・・・『剣士』とか『指揮者』とか、名前を出さないように配慮してくれたのは分かりますけど・・・」

『賢者』も『剣士』のすぐ傍で、微妙そうな顔をしている。二人の前にいるのはこの国を統べる人物であるのだが、ここまで気安いのは王女時代に周辺国家全体の危機で共に戦った仲であり、遠縁でもあるからだろう。そして、縁という意味で最も近いのは・・・


「私も確かに護りの魔法は使ったけど、皆のためにしたことが『女王様』相手と強調されてるのはどうして?」

「それは、国が発行するものだから多少の配慮というものをね・・・?」

女王様、一番親近感を覚えている相手に守られたかったのだろうか。


「そもそも、弓矢で攻撃したことになってるのがね・・・」

「貴女が強いのは知っていますが、近接武器でバッファローの群れに飛び込んでゆく女王様の姿は、さすがに公には出来ないですか・・・」

「うん、兵士さん達がすごい顔してた。だからすぐ守るようにしたんだけど。」

「うううう・・・私だってたまには暴れてもいいでしょう? あなた達も国を継ごうと思えば、同じ立場になるのに・・・!」

『剣士』と『賢者』と『護り手』の集中砲火に、女王様が叫び声を上げる。一応、ここは貴賓室なのだけど・・・これは少しはしたない。


後ろで『指揮者』が笑いをこらえている。『射手』と『刃』はどっか行った。いや、ふらふらと散歩する『射手』に、『刃』が保護者のように付いているのだろう。いつものことだけど、お疲れ様だ。


「・・・まあ、それには全く同情しないわけではないけど、今の発言で最愛の従者様がお怒りみたいだよ。」

「彼女も大変ですね。私達も皆知っているんですから、普通に会話に加わっても良いのに。」

「暴言吐いたから、今夜は一緒に寝てもらえないんじゃない?」

おっと、いけない。『剣士』と『賢者』はこういうことを察するのが得意だ。いや、『護り手』さん、そこまで怒ってはいないからね? そんなことをしたら、私が淋し・・・いや、なんでもない。


「ま、待って! 今のは少し言い過ぎたかもしれないけど・・・!」

女王様がこちらに走ってくる。これでは警護の意味があったものではないけれど、外で聞き耳を立てる者はいないようだし、この面々なら構わないか・・・陰で記録を取る手を止め、飛び込んでくる幼馴染を受け止めた。

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女王と英雄達のバッファロー討伐 孤兎葉野 あや @mizumori_aya

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