第32話 寝起き

 珍しく、朝早く目覚めると隣で七瀬が気持ちよさそうに寝ていた。


 一瞬思考が停止したがすぐに昨日七瀬が自分の部屋にきて一緒に寝て欲しいと言ってきたのを思い出した。


 いつもは俺より七瀬の方が早く起きているので何だか新鮮な気分だ。


「にしても無防備すぎるな……」


 目の前で眠る七瀬は完全に安心しきったような表情をしていて何とも心臓に悪い。


 しかもパジャマが少しズレてその隙間から、昨日買って俺に見せてくれた純白の下着が覗いていたので俺は慌てて起こさないようにそっとパジャマを元に戻した。


「……本当に無防備すぎる」


 絶対に手を出さないと信頼されているのだとしたら正解だが……なんだか少し複雑だな。


 信頼されていると同時に自分から何も出来ないヘタレと思われているとも理解できる。よく七瀬にはヘタレと言われているので全然ありそうだ。


 まぁ、確かにそうかと言われるとそうかもしれないが……俺は一条家次期当主であって……だから紳士的に接しているだけだし……


 そんな言い訳を心の中で述てみるがどれも七瀬にはバッサリきられそうだったので俺は考えるのをやめ、寝ている七瀬の顔を見つめる。


「相変わらず綺麗だな」


 まるでこの世に降り立った天使のような整った顔立ちにいつも見惚れてしまう。


 白く美しい肌は恐らく日々の手入れの賜物なのだろう。


 安心しきって寝ている七瀬を見ているとふと触れてみたいという衝動にかられた。


 いやいや、流石に駄目だろう……婚約者といえど節度は弁えるべき———


 その時微かに七瀬の口が動いた。


「……ん……湊……もっと……」


 眠りながら俺の名前を呟いた七瀬は嬉しそうに微笑んでいた。


 どんな夢を見ているんだ……

 

 そんな七瀬が愛おしくて再び触れてみたいと強く思った。


 触れていい……よな?


 まぁ、最悪怒られても嫌われるなんてことはないだろうし少しくらいなら許してくれるだろう。


 そう決心した俺は恐る恐るそーっと頬に手を伸ばす。


 こんなにもちもちしているのか……


 触り心地が良くてついしばらく触れていると心地よかったのか俺の手にすりすりと頬擦りしてきた。


「ふっ、本当に猫みたいだ」


 普段は少し強がっていても甘える時は思い切り甘えるところがそっくりで俺はそのまま頭を撫でた。


「……むぅ……私は猫じゃないのだけれど?」


 いつの間にか目を覚ましていた七瀬と目があった。


 頬を少し膨らませながら可愛らしく怒ったフリをして見せる七瀬だが全然怒ってる風には見えない。


「おはよう、起きてたのか」


「おはよう、今起きた所よ」


「よく眠れたか?」


「ええ、お陰様でよく眠れたわ。」


 そう冷静に返す七瀬だが耳が紅くなっていた。


「そ、それより……私寝言何もいってなかったわよね?」


「寝言? ああ———」


 確かに言ってたな。


 でも聞いてたと言ったら面倒そうだからここは白を切っておこう。


「———いや、特に何も言ってなかったぞ」


 俺がそう返すと七瀬は安心したようにそっと胸を撫で下ろした。


「そ、そうならいいのだけれど……」


「ちなみに何でそんなこと聞くんだ?」


「そ、それは……」


 少し恥ずかしそうに視線を逸らす七瀬。


 そして少し悩んだ末に口を開く。


「それは……あなたが夢で私に……」


「夢で?」


「ッ〜!!」


 その瞬間七瀬の顔がボッと朱色に染まった。


「い、言わせないで!」


 そう言って布団を頭から被りうずくまってしまう。


 夢の中の俺は七瀬に一体何をしたんだ……


 七瀬は結局俺がご飯を作り終えるまで布団から出てこなかった。



 






 

 

 

 


 

 



 

 

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