第31話 添い寝
「いやいや、なんでそうなるんだ」
「だ、だって……昼間怖い動画みちゃって……」
まぁ、確かに俺でも怖い動画を見た後は風呂とかでもついつい振り返ってしまうしな。
「……仕方ないな、もう昼間に怖い動画を見るのはやめておけよ? 俺は床で寝るから七瀬はベットで寝てくれ」
流石に今七瀬と一緒のベットで寝るのはかなりまずい。
もし俺の理性が崩壊して間違いを起こしてしまったら松代まで語られる一条家の恥になるだろう。
そんなことは家の名誉の為にも絶対にあってはならない。
「何言ってるの? あなたも一緒にベットで寝るのよ」
「いや、それは……」
「あなたの両親に初日にベットに押し倒されたって報告するわよ?」
「くっ……わ、わかったから、それだけはやめてくれ」
「ふふ、わかってくれればいいのよ」
あの二人にそんなことが知られれば半年はそのことをいじられそうだ。いや、最悪一生言われるかもしれん。
にしても七瀬、なんか俺の扱いに慣れてきたような……
少々複雑な気持ちだが一条家の人間になるのに相応しい存在になってきたと思っておこう。
「じゃあ電気消していいか?」
「ええ」
既にベットの上で待機している七瀬に確認をとってから電気を消す。
「ふふ、暗い中で二人きりってなんかいいわね」
「全然よくないと思うんだが……」
「さ、あなたもベットに入って」
「ああ」
七瀬が布団を持ち上げスペースを作ってくれていたので俺はそこに入った。
俺のベットは元々一人用なので二人で使うにはかなり狭く、お互いの肩と肩がぶつかってしまうほどだ。
「七瀬、狭くないか?」
「大丈夫よ、むしろあなたの存在を近くに感じられていいわ」
「……ならいい」
「あなたももっとくっついてもいいのよ?」
「遠慮しておく」
丁重にお断りさせてもらうと七瀬は「あなたらしいわね」と言って嬉しそうに笑う。
だが七瀬が言う通り寝る時に人が側にいるというのはこうも落ち着くものなんだな。誰かと一緒になるなんて子供の時以来だ。
「夫婦らしいことようやく出来たわね」
「前に一緒に料理しただろ?」
「料理はカップルでもよくやるじゃない。でも添い寝は違う。心を許し合った夫婦だからこそできる……」
「……確かにそうかもな」
信頼出来ない人との添い寝など落ち着いてねれたものではなさそうだ。
まぁ、この状況も状況で心臓がうるさくて落ち着かないがな。
「……湊、少しあっち向いてくれない」
「ん? ああ」
言われた通り俺は外側を向く。
すると七瀬は俺の背中に手と顔を当てた。
「あなたの背中大きく、頼り甲斐がある」
「一応鍛えているからな」
帰宅部だが日々のトレーニングは欠かさず行っているため体つきには結構自信がある。
「……さっきの……昼間怖い動画をみたっていの、あれ実は嘘なの。」
「ん? そうだったのか?」
確かに怖いと言っていた割には全然怖がってないと思ったら。
「今日は何だか一人で寝るのが寂しくて、あなたの体温をかんじていたくなったの」
本当にこの密着状態で何故俺の気持ちを惑わすような言葉をかけてくれるんだこの子は。
「こうしてるとなんだかとても落ち着くの」
「俺の背中なんかでよければいつでも貸すぞ」
「ありがと、疲れた時は借りさせてもらうわ」
「さて、そろそろ寝よう。明日も早いしな」
「ええ、おやすみ」
俺たちはお互いの体温を確かに感じながら眠りに着いた。
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