第29話 我慢しなくてもいいのよ?

「……どう、似合ってる?」


 七瀬はかなり恥ずかしそうにしながらも俺にそう聞いてきた。


 ん? んん!?


 え、これどういう状況だ?


 あまりの事態に考えが追いつかない。


「な、何で下着姿なんだ……?」


「どうしてもあなたに見て欲しかったの」


「だ、だからっていきなり……」


 俺はあまり七瀬の下着姿を見ないように視線をずらす。


 直視ししていたらとてもじゃないが理性を抑え込めそうにない。


「ねぇ、何で見てくれないの?」


「いや……」

 

「私の体そんなに魅力ない?」


「いや、そんなわけはない……すごく、魅力的だと……思う……」


「じゃあこっち見て」


 七瀬に顔を掴まれ、強制的に正面を向かされ、彼女の下着姿が視界に映る。


 白く滑らかな肌に白い純白の下着を身につけた姿は本当に美しく、空から降りてきた天使のような神々しさだ。


「綺麗だ……」


 そう自然と言葉が漏れた。


「そ、そう?」


 彼女は嬉しそうに頬を朱色に染め、照れているのだろうか長い黒髪をくるくると巻いていた。


 そんな仕草も相待って余計に可愛さが増していくの反則だろ……


「じゃあ……もう少し近くで見る?」


 最早彼女は完全に暴走状態に入ってしまっているのかもとんでもない提案をしてくる。


「も、もう大丈夫だ。早く七瀬も服を来た方がいい」


 俺が説得を試みるも彼女は少しずつ俺との距離を詰めようと近づいてくる。


「ねぇ、何で逃げるの?」


「別に逃げてないぞ」


「むぅ……逃げてるじゃない」


 これ以上近づかれると俺がどんな行動に出るか俺自身もわからない。


 俺は近づいてくる七瀬と後退りしながら距離を取る。


 しかし少し進んだところで壁にぶつかりあっけなく七瀬においつかれてしまった。


「えいっ!」


「おおっと」


「ふふ、捕まえた」

 

 七瀬が俺の顔を見上げながら微笑んだ。


 彼女との距離はゼロ。七瀬の肌が俺の体に触れ、なんともいたたまれない気持ちが押し寄せてくる。


 くっ、なんかすごく柔らかいものが当たってる感触が……!


 よし、とりあえず落ち着け、落ち着いてまずは七瀬を離れさせ———

 

「ん、こうしてると落ち着く……」


 七瀬は猫のように俺の胸に顔を埋め、気持ち良さそうに目を閉じている。


 俺は口の中を少し噛み、痛みで何とか理性を保つ。


「湊の匂い……好き……」


「お、おい……そろそろ」


「湊は私に触らないの?」


「……触らない」


 俺は一線だけは超えまいと触ることは絶対しない。


「……本当は触りたいんでしょ?」


「……いや」


『我慢しなくてもいいのよ?』


 耳元で囁かれ全身に電流が流れるような感覚がした。


 直後体が熱くなり、七瀬を見るとやけに心臓が跳ねる。


 もう欲望正直になってもいいんじゃないか?


 七瀬もいいと言ってくれているし、すこしくらいなら———


 ……いや、駄目だ。これでも俺は一条家時期当主一条湊。こんな歳で間違いを起こすわけには行かない。

 

 七瀬の体に伸びかけた手を俺は頭に持っていき猫を撫でるような感覚で優しさをこめて撫でる。


「触ったぞ」


「……ヘタレ」


「……すまんな、俺はヘタレなんだよ。今はこれで満足していてくれ」


「……大事にしてくれるのね」


「当然だ。七瀬は俺の大事な大事な婚約者だからな」


「ん、今はこれで満足しておくわ」


 七瀬はそう言いつつも気持ちよさそうに撫でられていた。


 しばらく七瀬を撫でた後やることがあると言って部屋に戻った俺はベットに倒れ込むように横になった。


 何だったんだ七瀬を見るとやけに胸が高鳴るあの感覚は……


「風呂、入るか……」


 俺は未だ治らぬ胸の高鳴りを落ち着かせるため風呂場に向かった。




 




 


 


 



 


 

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