第26話 専属使用人

 昼食をすませ、俺と七瀬はお茶をするために俺達が働いている店と同じ系列店に足を運んだ。


 同じ系列店と言えど店内は俺達が働いている所とはかなり違う。暖かな色の木材がとても心を落ち着かせるはずなんだが……


 この店に入ってからというもの、周囲の視線が俺達に集中している。まぁ、七瀬の容姿は自然と人目を惹きつけてしまうものだしな。


 そんな視線を七瀬は気にした様子もなく、優雅にコーヒーを飲んでいる。


「視線、気にならないんだな」


「まぁ、あまり気持ちの良いものじゃないけど気にしないようにしてるわ」


 確かに普段学校でも男子からは美術品を見るかのような目で見られている。


 誰にでも冷たく、誰とも馴れ合わず、ただひたすらに孤高を貫く冷酷美少女、それが学校での七瀬玲だ。


「それにこの視線は私だけに向けられたものじゃないと思うわよ?」


「ん、そうなのか?」


「あなた、自分が思っている以上に人気があるのよ? いつも怖い顔してるから誰も話しかけないだけで」


 それは七瀬にも言えることだと思うが……


 というか俺が人気なんて聞いたことないぞ。


「他の子に靡かないでね、私すごく悲しむから」


「ああ」


「絶対だからね」


「……ああ」


 何かすごい圧のようなものを感じた。


 怖い……気をつけよう。


 そう心に誓った直後、誰かに声を掛けられた。


「湊様?」


 コーヒーのカップを持ちこちらを見つめる少女に俺は見覚えがあった。


「まさかこんなところで会うとは……奇遇だね、結衣ちゃん」


 桐生彼方の専属使用人である月霜結衣。彼女からは主人の友人として何故か敬称をつけられている。


「お久しぶりぶりです、湊様。いつも主人がお世話になっております」


「俺の方こそ彼方には何かと世話になってるよ。」


 七瀬からすごいオーラのようなものが出ている。


『あなた、さっきの約束を速攻で破ったわね?』と言ってそうだ。


 怖いから早く終わらせよう。


「彼方はいないのか?」


「はい、今日は私一人です。ご主人様は……いつものお出かけです」


 そう話す彼女の表情は何処か暗く、寂しそうだった。


 あいつのことだ。また彼女とデートだろう。


「ところで湊様、どうして七瀬さんと一緒に?」


 まぁ、流石に聞かれるよな。


 だがまだこのことを公にするのは良くない。ここは適当に誤魔化そう。


「ああ、彼女は偶々そこで———」


 俺が適当に言い訳をしようとした時七瀬が俺より先に言葉を発した。



「私は彼の……、一条湊の婚約者です」



 堂々と彼女に向かって宣言した、


 もうどうすればいいんだこの状況……


 





   【あとがき】


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