第25話 黒髪清楚

「ふふ、嘘よ。流石にあなたに下着を選んでもらうのはまだ恥ずかしいわ。」


「……そうか」


 正直、俺は心の底から安心した。


 婚約者という間柄とはいえ、女子の下着を選ぶことにはかなり抵抗がある。普通の彼氏彼女の間柄でもしないんじゃないだろうか?


 まぁなんにせよ選ぶことにならないでよかった。


「なら俺は外で待っててもいいか?」


 そうなると最早俺の役目があるとしたら荷物持ちくらいだろう。

 

 それにここはどうにも落ち着かず、できることなら早くここを出たい。


「仕方ないわね、あなたも居心地悪そうだし」


「すまんな」


 俺は出口へと歩みを始める。


「……ねぇ、やっぱりちょっと待って」


 3歩進んだくらいで声をかけられ、振り返る。


 七瀬は視線を迷わせ、落ち着かないように髪をくるくると弄る。その頬は少し朱色を帯びていた。

 

「何だ?」

 

 問いかけても返事はない。何か言い出しずらいような話かもしれないので俺は七瀬を見つめ少し待つ。


 少しの沈黙の後、七瀬が口を開いた。


「……あなたの……好きな色は?」


「色?」


「ええ」


「強いて言うなら……黒だな」


 黒といえば何色にも負けない強い色。俺はそんな強い黒色が好きだ。


 あとシンプルにかっこいい。


「く、黒ッ!?」


 俺の答えを聞いた七瀬はさらに顔を赤色に染め、びっくりしたような声を上げた。


 黒が好きなやつは結構多いと思うから不思議でもないと思うが……


「変だったか?」


「い、いや別に……変、じゃない……そ、そう黒が好きなのね……案外スケベなところもあるのね」


 スケベ? 何故色を答えただけでそうなるんだ……いや、もしかしてこれは……


「俺の勘違いなら申し訳ないがもしかして俺の答えた色の下着を選ぶつもりか?」


「え? 逆にそれ以外なんだと思ってたの?」


 七瀬は逆にこちらに何を言ってるの? というような視線を送ってくる。


 そんな意味が隠されていたとは……全くわからなかった。


「あなたって女心に関してたまに抜けてるとこあるわよね」


「すまん、俺もまだまだなようだな……」


「まぁ、いいわ。それであなたが私に似合うと思う色は黒でいいの?」


「……それは誤解を生みそうなのでやめておこう。そうだな……七瀬なら俺はシンプルに白が似合うと思うぞ」


 七瀬との黒髪清楚のイメージとよくあってあるしな。


「白……あなたは白が好きなの?」


「昔は普通だったが今は七瀬の綺麗な髪を表す黒と清楚な雰囲気を表す白が好きだな。飽くまで俺の意見だから別に参考にする必要はない。」


「そ、そう……ありがと、参考にさせてもらうわね」


「……そうか。じゃあ俺は外で待ってるぞ」


 俺は再び出口に向かって歩き始めた。


 それから20分後、買い物を終えた七瀬がランジェリーショップから出てきた。


「いい買い物はできたか?」


「あなたのお陰ですごくいいものが買えたわ。」


「それは何よりだ」


 こちらも意見を出した甲斐がある。


「さて、行くか」


「ええ、またエスコートお願いね」


「任せてくれ」


 俺たちは再び街中を歩き始めた。

















 

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