第22話 デートの誘い
「はぁ、どうしたものかな……」
俺は自室の机で頭を抱えていた。
先程父さんに電話で今週末はふたりでどこかに出かけてこいと言われてしまったのだ。父さんに言われてしまった以上、行かないわけにも行かないが……一つ問題があった。
(デートの誘い方ってどうやればいいんだ?)
今まで女性付き合ったことのない俺にとって、デートなど未知のものであり、関わるものでもないと思っていた。
まさかこんなところその知識が必要になるとは……もっと知っておくべきだったな……。
たがこんなことを考えていてもどんどんやる気が失せていくだけだ。やるなら今やるべきだろう。
「……よし、行くか」
覚悟を決め、自室を出て七瀬の部屋へと向かい、ドアをノックすると「入って」と帰ってきたので俺は扉を開けた。
「すまん、もう寝るところだったか?」
「いえ、少しストレッチしてだけよ。珍しいわね、あなたが私の部屋に来るなんて。」
「ああ、少し話したいことがあってな。」
ここまでの流れは完璧だ、あとは上手くデートに誘うだけ。
俺は考えたセリフを頭の中で復唱する。
「話?」
「ああ、大事な話だ。」
緊張で少し硬い表情になってしまっていた俺を見てかなり大事な話だと思ったのか七瀬の表情も凛としたものになった。
違う、そうじゃない。そこまで真面目に聞かなくていい。もっと優しい顔で聞いてくれ。
そう願うが七瀬には届かず彼女も少し緊張した面持ちで聞き返す。
「……話って何?」
「ああ、実は———」
あ、やばいセリフ全部飛んだ……
必死にセリフを考えるが思いつかず結局黙り込むしかなかった。
「……」
「……」
そして訪れる沈黙。
……どうしよう、この雰囲気……気まずいにも程がある。
俺が必死に思考を回していると段々と七瀬の表情が暗くなっていく。
「もしかして……嫌になった? 私といるの……」
ん? 嫌とはどう言う意味だ?
俺が疑問に思うも彼女は続ける。
「この生活は私の我儘で実現したもの……あなたは私のことなんて好きじゃないのはわかってる……でもお願い……見捨てないで……駄目なところは治すから……だから……お願い……!」
七瀬の瞳からは涙が流れていた。
俺は気づかない内に七瀬を不安にさせてしまったのか……
思えば今まで彼女に対して俺は向き合えていなかった。ずっと逃げていたんだ。この年で婚約というあまりにも非現実的な現実から。
……俺は七瀬の婚約者として失格だな。
だが彼女が俺を求めてくれるのなら俺はそれに全力で応えなければならない。
それが俺、湊という男にできる最低限のことだ。
「七瀬、顔を上げてくれ。」
なるべく優しく声をかけると七瀬はゆっくりと顔を上げた。
七瀬の涙を手で拭い、俺は彼女を落ち着かせるように抱きしめる。
「嫌なんかじゃない、俺はこの生活が好きだ。当然七瀬にダメなところなんかない。どこに出しても恥ずかしくない俺の自慢の……嫁だ。」
彼女がよく俺を旦那様というのを真似して行ってみたがこれはなかなか恥ずかしいな……
俺が優しく彼女の頭を撫でていると彼女の瞳に光が戻り始めた。
「本当に……? 嘘じゃない……?」
「ああ、本当だ。だから———玲、俺の婚約者でいてくれ」
「うん!」
そして再び俺たちは抱き合った。
初めてした時のようにとても幸せな気分だった。
「じゃあ大事な話ってなんだったの?」
しばらくして落ち着いた彼女が聞いてきた。
この流れだと言いづらいな……
「その……なんというか……週末、遊びに行かないか?」
緊張しつつも言うと彼女は不思議そうな表情でこちらを見ていた。
「え? それだけ?」
「あ、ああ……それだけだ。」
すると七瀬が可笑しそうに笑った。
「ふっ、ふふっ、あなたってほんと不器用ね」
「わ、悪かったな! 不器用で! それで返事はどうなんだ……」
「もちろんOKよ、あなたの誘いならどこへでもいくわ。」
「そ、そうか……ありがとう。」
よかった、断られなくて。
俺は心の中で安堵した。
実は初めてのことだったのでかなり不安だったのだ。
「ふふっ、週末が楽しみになったわ。」
「ああ、俺もだ。」
本当に楽しみだ。
【あとがき】
最後までお読みいただきありがとうございます!
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