第15話 寝不足

「……眠い」

 

 朝学校に登校した俺はあまりの眠さに机に突っ伏した。


 昨日七瀬に「行かないで」と言われ、自分の部屋に行くに行けず結局朝まで一睡も眠ることができなかったため猛烈に眠い。


 まぁ別に悪いことばかりじゃなかったけどな。


 朝起きた時の心から驚いたような七瀬のあの表情は実に面白かった。


「よぉ———って朝からどした?」


「ん……ああ、彼方か……どうした」


「げっ……なんだか今日は機嫌悪そうだな」


 人の顔を見てげっ……とは相変わらず失礼なやつだ。

 いつもだったら返してやるところだが今日はその元気すらない。


「おい、まじで大丈夫か? 具合悪いなら保健室まで連れてってやるぞ」


「いや具合が悪いわけじゃない」


「じゃあなんだ?」


「寝不足だ」


「なんだ、寝不足かよ。昨日何してたんだ?」


「新作のゲーム」


 流石に寝てる婚約者の側にずっと居ましたとはいえないからな。


「はぁ……お前アホだな」


「……」


 こればかりはぐうの音がでない。


 まさか彼方に呆れられるとはな。


「お前もよくやってただろ」


「俺は一人暮らしになってからはあんまできてないんだよ。結衣が口うるさいからな」


「なるほどな」


 彼女の几帳面な性格が彼方の怠惰な生活を許さないんだろうな。


 ほんといいお世話があるのになぁ……


「まぁ、あんま夜更かしすんなよ。これ飲もうと思ってたけどやる」


 彼方は手に持っていた缶コーヒーを机に置いた。


「いいのか?」


「困っていたらお互い様だろ」


「すまんな、助かる」


 彼方は根はかなり優しい。だから俺もこいつと仲良くやっていける。


 今度、飯奢ってやるか。


「1500円な」


「おい」


「冗談だって」


 前言撤回、やっぱり性格悪いわ。



 ◇



「ねぇ、大丈夫?」


 家に帰ると七瀬から心配そうに尋ねられた。


「何がだ?」


「寝不足に決まってるじゃない、今日全然集中できてなかったわよ」


 七瀬の言う通り今日の授業は内容が全然入ってこなかった。

 かろうじて起きてはいたがノートは撮れてなかったところがある。


「ノートは後で私の写して」


「……悪い」


「謝るのはこっちよ、昨日はあなたに迷惑かけてしまったみたいだし……」


「いや、七瀬は何も悪くない。俺が勝手に側にいただけだ。」


 彼女の寝言を俺が放っておかなかっただけ。彼女には何一つとして悲はない。


 七瀬が暗いと俺まで気分悪くなるからな。


「でも———」


「いいから、俺は……大丈……夫……だ……」


 急に猛烈な眠気が襲い思考が鈍る。


 体を動かそうにも怠くて動かない。


「大丈夫じゃないわよ」


「いや、問題ない」


「強がらないの。目閉じかかってるじゃない」


 言われてみれば瞼がやけに重い。


 やばいな……この眠気は……


 俺が必死に起きようと顔をパチパチと叩いているとその様子見た七瀬がはぁ……と呆れたようなため息を溢した。


 そして自身の膝をポンポンと叩く。


「早く横になって。膝枕、してあげるから」





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