第11話 冷酷美少女とテニス

 二限目の体育。


 俺たちのクラスはテニスコートに集まっていた。


「じゃあ、それぞれペアを作ってくれ」


 教師が指示を出すとスクラスメイト達は仲がいい友人とペアを組んでいく。


 ……参ったな。


 俺はクラスに友達がいない。しかも怖がられているとなれば誰も俺とペアを組みたがらない。


 はぁ……今日はベンチに座ってサボるか。

 

 そう思い見学席の方へと行こうとしたところ、誰かに肩を叩かれた。


 振り向くとそこには七瀬が立っていた。


「ねぇ、一条くんペアいないんでしょ? 私とくんでよ」


 そう言う七瀬の顔は家にいる時よりも冷たく、まさに冷酷姫だった。


「……ああ、そうしよう」


 一瞬、家での態度と違いすぎて七瀬だとわからなかった……家の方が素だよな?


 そう思うほど家での彼女とは性格がかけ離れていた。


「お、おい冷酷姫と一条がペア組んでるぞ」


「まじだ……クラスのクール系代表同士が組むなんて」


「俺、冷酷姫とペア組みたかったのにー! でも一条に文句なんか言えねぇよ……」


 いつから俺達はクール系代表になったんだか……


 そんなクラスメイト達の会話を聞いていると体育教師がボールをもってきた。


「ペアは決まったな。よし、ではさっそく試合をはじめよう! それぞれ対戦相手を決めてくれ」


 対戦相手か……


 一応テニスは出来るが、あんまり上手い奴とはやりたくない。


 そう思っていたが俺のそんな考えはこちらに来た女子テニス部の二人組によって打ち砕かれた。


「七瀬さんと一条くん、よかったら私達と試合やらない?」


 話しかけてきたのは女子テニス部の安藤と菊池。どちらも現テニス部の主戦力でかなり手強い。


 この二人とやるのは避けたいな……


 俺が七瀬の様子を見ると彼女も同じ意見なのか軽く頷いていた。


「ごめん、俺たちじゃ二人の相手は出来ないよ」


 実際俺たちでは部活動でテニスをやっている二人には敵わないだろう。


「もしかして私達とやるのそんな怖かった?」


 菊池が挑発的に言った。


 七瀬の顔が少し怖くなる。


 あ、これまずいやつだ……


「菊池ちゃん、駄目だよそんなこと言ったら」


「……やりましょう」


「え?」


「やってあげます、早く準備してください」


「いいね、そうこなくちゃ面白くない」


「おい、七瀬流石にテニス部とは———」

 

 俺が説得しようと試みるも七瀬は完全に殺気立っていて止めようものならこっちまで殺られそうな雰囲気だ。


 はぁ、何故こうなるのか……



 ◇



「よし、準備も整ったし始めようか!」


 菊池が高らかに宣言するとラケットを握る七瀬の手に手に力が込められる。


 急遽始まることになったテニス部対冷酷美少女とペアの男の対戦にクラスメイト達が皆注目していた。


「七瀬、テニス経験あるのか?」


「昔ちょっとだけテニス部に入ってたの。少しは出来ると思うわ。」


「そうか、ならいいんだが」


 これで初心者ですとか言われたら流石に苦笑いをせざるを得ないからな。


「そう言うあなたはどうなの?」


「テニスくらいなら出来るぞ」

 

「そう、ならいいけど私の足引っ張らないでよね」


「誰に言ってるんだ」


 そして菊池が宙にボールを投げ、それを打ったことで試合は始まった。


 最初は相手も様子見なのか緩いボールばかりで攻める様子はないのでこちらもとりあえずは相手に合わせてボールを返していく。


 このまま緩やかな感じで終わってくれるのが一番平和的でいいんだけどな……


 だがそんな俺の願いも虚しく、楽しいテニスの時間は終わりを告げる。目つきが変わった菊池が勢いよくボールを打った。


 そのボールの勢いは速く普通の人では絶対に会えないであろう速度だ。


 しかしそのボールが地面につくことはなく、七瀬によって塞がれた。


「へぇ、やるね」


「舐めないでほしいわね」


 次は七瀬が勢いよくボールを相手陣地に打ち込む。なんとか相手も返せはしたが苦悶の表情を浮かべている。


 そこからはもはや別次元の戦いだった。


 速く、鋭い至高の打ち合い。


 俺と安藤さんも二人のフォローには回っていたがほとんど二人の試合だった。


 だがその戦いも七瀬の速すぎるスマッシュによって収束を迎えた。


「はぁ!」


「なぁっ!」


 相手陣地に見事に打ち込んで見せた七瀬はとても満足そうだった。


「私達の勝ちね」


「はぁ、はぁ……負けたよ、強い……」


「でもあなたも強かったわ。いい試合だった。」


「こちらこそ」


 二人は厚い握手を交わし笑い合う。


 なんとも素晴らしい光景だ。


「お疲れ、七瀬。」


 俺は買ってきたペットボトルの水をベンチで休んでいる七瀬に差し出した。


「ありがと」


 俺から水を受け取ると七瀬はそれを上品に飲む。


 美少女が水を読む様子はどうしてこうも映えるのだろうか。


 俺が七瀬の横に腰を下ろすと七瀬が俺から少し距離をとった。


「すまん、嫌だったか?」


「いや、そうじゃなくて……その……さっき動いて汗かいたから」


「そういうことか、わかった。」


「でも、あなたといるのが嫌ってわけじゃないから……家に帰ったら近くに行ってもいい?」


「……今日は頑張ってたからな、それくらい構わないぞ」


「ふふ、ありがと」


 七瀬は嬉しそうに微笑んだ。






【あとがき】


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