第10話 話し相手
翌日、俺が学校の席でスマホをいじっていると一人の派手な男が近づいてきた。
「よぉ、湊」
「……彼方か」
この男は桐生彼方、この高校でのちょっとした話相手だ。
ちなみにこんな風貌をしているがこいつの家も立派な名家である。
「珍しく機嫌がよさそうだな」
「……そう見えるか?」
「ああ、いつもより口元が緩んでるぞ。何か楽しいことでもあったか?」
「……特にない」
俺は指摘され自分の少しだけ緩んでいるのに気づきし表情を正した。
多分原因は昨日のことだろう。昨日、七瀬と過ごした時間は色々なことがあったがなんやかんやで楽しかった。それを思い出してついニヤけてしまった。
「結衣ちゃんはどうした?」
「クラスで友達と話してるよ、俺と違ってあいつは人気者だからな。」
「誰にでも優しいからな、当然だろう」
「なんだ? お前結衣のことが好きなのか?」
「そんなわけないだろう。」
「だろうな、お前が女を好きになるイメージが湧かん」
彼方は可笑しそうに笑う。
実際そうだがこいつに言われるとムカつくな。
「というかお前、彼女ばっかりじゃなくて結衣ちゃんのことも気遣ってやれよ?」
「なんでだ?」
「なんでって、おまえが彼女を取っ替え引っ替えしてるから言ってるんだ」
「あいつだってよく告白されてるだろう、同じようなもんさ」
こいつは……
結衣ちゃんは彼方の専属使用人だ。彼女は告白こそされてはいるが全て断っている。それも彼女が彼方のことを好きだからだ。
なのにこいつと来たら……何人もの女と付き合っては別れの繰り返し。毎回自分の思い人と女がくっついているのを見なければならないなんて本当に結衣ちゃんが不憫でならない。
「てかお前のクラスはいいよな、冷酷姫様がいて」
「結衣ちゃんだって天使とか言われてるだろ」
「結衣はもう見飽きてんだよ、毎日一緒にいるんだぞ? それに比べてべて七瀬さんはクールでかっこいいじゃん。どうしよっかなー、一回告白してみよっかなぁー」
「駄目だ。」
「え?」
「あ……」
だ、駄目ってなんだよ! なんで俺はそんなことを!
俺は内心かなり取り乱しつつもがなんとか取り繕る。
「べ、別にいいんじゃないか」
「おい、誤魔化すな。今なんで駄目って言ったんだ?」
「どうせ振られるからやめておいた方がいいと思ってな」
「……なんか違う気がするが……まぁそうだな断られそうだしやめとく。」
ちょうど時計を見るとそろそろ授業が始まる時間だった。
「おい、そろそろ始まるぞ。」
「ん? ほんとだ。じゃまたな湊。」
「ああ」
俺は自分の教室へと戻っていく彼方の背を見送った。
ふと視線を感じ、その方向を見ると七瀬がこちらを見つめて満足そうに微笑んでい た。
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