第6話 婚約者


 金曜日の夜。


 俺は高級ホテルのレストランに来ていた。


 なんか怖いな……こういういい店で食べる時って大体面倒ごとが多いんだよなー


 店員に案内され席に着くとそこには黒いスーツに身を包んだ男。俺の父親、一条伸弥が夜景を見ながらすでにワインを嗜んでいた。


「よくきたな」


「父さん久しぶり。」


「ああ、久しぶりだな。さぁ、とりあえず座れ」


 父さんに言われた通り席に着くと、グラスにリンゴジュースが注がれた。


「俺、ノンアルコールのシャンパンが良かった」


「そういうな、とりあえず乾杯しよう。」


 グラスを軽くぶつけるとリーンと軽快な音が鳴り響いた。


 うん、美味しい! いいリンゴ使ってるな。


 そんなことを脳内で言って現実逃避していたが父さんの言葉によって現実に戻された。


「さて」


 その一言で場の空気が変わった。


 ああ、やっぱりかぁ……


 少しだけただの親子の食事だと思っていた俺の思考は砕かれた。


「本題に入らせて貰おう。お前にも婚約者ができたぞ。おめでとう」


「……まじで?」


「ああ、相手の家格も申し分ないしな。受けることにしたんだ。良かったな」


 父さんが愉快そうに笑いながらパチパチと拍手をする。


 俺からしたら全然嬉しくなどない。


「あとすごく可愛かったぞ」


「何故それを……」


「お前が一番気になるところかと思ってな」


 鋭い、実はそこのところがかなり気になっていたのだ。


 だがまさか昨日聞いた話が自分にも降りかかってくるとは……明日は我が身とはこのことだな。


「明日、顔合わせを行う予定だから忘れずにくるように。」


「え!? 明日かよ!」


「ああ、しっかり頼んだよ。」


 現当主である父さんにここまで言われてしまってはもう断ることなど出来はしない。


「わかった。」


 俺は渋々了承した。



 ◇



 翌日、会場である高級料亭についた俺は強制的に袴に着替えさせられていた。


「なんで袴なんだよ」


「当たり前だろう、相手も着物なんだから。あと一条家の人間として恥をかいてほしくないからな。」


 なんとか袴に着替え終わった俺は父さんに案内され、婚約者になる予定の相手がいる部屋の前まで来た。


「さぁ、相手はもうすでに待機しているぞ、早く入れ」


「ちょっと待って」


 俺も将来を共に過ごすこととなるであろう相手との初顔合わせともなればかなり緊張する。


 どんな相手だろう……父さんが許可を出したくらいだから大丈夫だとは思いたいが……やっぱり不安だ。


 いや、大丈夫。きっと大丈夫だ。


 俺は自分にそう言い聞かせて襖を開けた。


 広々とした部屋の中央にはテーブルと座布団が置いてあり、そこに綺麗な着物をきた女性が座っていた。隣には父親と思しき男の人がいる。


 問題はその着物を着た女性にものすごく見覚えがあることだ。


 長い黒髪と透き通るような碧眼が美しいその女性、七瀬玲はこちらに向かって頭を下げた。


「初めまして、七瀬家長女の七瀬玲です。これからよろしくお願いいたします、旦那様。」


 七瀬は嬉しそうに微笑んだ。


 



 【あとがき】


 最後までお読みいただきありがとうございます!


 ここで一つお伝えしたいことがあります。


 感想などで主人公の名前が読みづらいと多くの指摘をいただいたため、次回から雨宮結絆改め、一条湊いちじょうみなとに変更しようと思います。


 苗字まで変えるのはせっかくだから苗字も名家らしいものにしたかったからです。


 名前と苗字が変わっても主人公の性格や考え、物語は変わりませんのでこれからもどうかよろしくお願いします。


 面白いと思ったら、下からできる作品の☆評価、感想をいただけるととても励みになりますのでよろしくお願いします!







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