第5話 冷酷美少女と婚約者

 学校終わり、俺はいつも通りバイトに来ていた。


「お疲れ湊くん。玲ちゃんもお疲れ。今日お客さん多かったから助かったよ。なんか飲んでく? 今日は新発売のスイーツもつけておくよ」


「ありがとうございます、いただきます」


 このバイトのいいところは高いコーヒーをこうして仕事終わりにタダで飲めることだ。


 今日は何にしようか? 新しく出たスイーツに合うコーヒーがいいな。


「玲ちゃんはどうする?」


 店長は一様七瀬にも声をかけた。


 毎回店長が聞いているが今までその答えがイエスだったことはなく、店長も断られると分かっていてやっているのだ。


 どうせ今日も断るんだろうな。


 と思っていたのだが七瀬の答えは違った。

 

「じゃあ今日は私もいただきます。」


「え? 珍しいね、玲ちゃんが仕事終わりに飲むのなんて。初めてじゃない?」


「私も新作スイーツが気になりまして」

 

「やっぱり玲ちゃんも気になる? あれ美味しそうだもんね〜。コーヒーはどうする?」


「ブラックでお願いします」


「りょーかい、ちょっと待っててね。」


 店長はコーヒーを入れるべくカウンターの方へと向かって行った。


 俺はそんな二人の様子を見終え、スマホを見ていると隣に正面に誰かが立つ気配がした。


「前座っていいかしら?」

 

「ああ、別にいいぞ」


 俺が了承すると七瀬が俺の正面に座った。


 俺もスマホをポケットにしまい彼女と向かい合う。


「今日はなんだ?」


「今日もあなたに用があって話しかけてるわ」


「その用とはなんだ?」


「……昨日の話覚えてる?」


「ん? ああ確か……婚約者のことについてだったか?」


 俺と七瀬の家は古い歴史を持つ名家なため、婚約者が決められる。


 相手も当然名家の子息、令嬢。だがそこに愛はなく、ただただ家のために結婚するのだ。それが俺たちに与えられた運命だ。


「そう、そのことなんだけど……もう決まりそうなの。」


「……そうか」


 俺はかける言葉が見つからず当たり障りのない返答をした。


 こういう場合は祝福してあげるべきなんだろうか? それとも同情してあげるべきなんだろうか? 俺にはわからず、俺にできるのは今の彼女の心境を見抜き、話を聞いてあげることだ


 その時、店長の渡辺さんが俺たちの席にコーヒーと新作のスイーツを置いた。


「コーヒーと新作のクリームたっぷりのホイップドーナツだよ。」


「ありがとうございます、店長。」


「ありがとうございます」


「てか珍しいね、二人が話してるなんて。一度も話してるとこ見たことないよ?」


「今日は一条くんに人生相談を聞いてもらってたんです」


 確かに嘘は言っていないな。


「そうなの! いいね、将来のことをよく考えててじゃあ私はお邪魔みたいだし行くわね。」


 そう言うと渡辺さんはスタッフルームへと戻っていった。


「相手はどんなやつなんだ?」


「まだわからないわ、でも名家の人でしょうね」


 やっぱりそうなるか……七瀬の家が娘を嫁に出すくらいだから相当家格が高いんだろうな。


 もしかしたら俺の家に近い位なのかもな。


「なるほどな……まぁ大変だろうが頑張れ、応援してるぞ」


「ええ、頑張らせてもらうわ」


 何故か七瀬が微笑んだ気がした。



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