第3話 冷酷美少女は抱きしめてほしい
「お、おい……七瀬?」
俺が問いかけて七瀬は変わらず俺の胸に顔を埋めている。
どういうことだ? 何故俺は七瀬にだきつかれている!
俺が混乱しているとしばらく顔を埋めていた七瀬が顔を上げた。
俺は結構身長が高いので彼女が俺の顔を見上げる形になるのだが、彼女の整った顔立ちと普段は誰も寄せ付けない冷たい碧眼が今は幸福に満ち溢れ、とても優しい目になっていて不覚にも可愛いと思ってしまった。
「……これはどういうことだ?」
「あなたを抱きしめてるのよ」
「そうじゃない。とりあえず離れてくれるか?」
だが彼女は話すどころか俺を抱きしめる力をさらに強め再び俺の胸に顔を埋めてしまった。
「お、おい……」
「あなた結構いい匂いね……私好きだわあなたの匂い」
「だから離れろって」
「……やだ」
本当に何故こうなっているんだか……
無理矢理引き剥がすこともできるがそれは俺のポリシー的に絶対にノーだ。
なら彼女から離れるのを待つしかないんだが……この様子だと無理そうだな。
「じゃあどうしたら離れてくれるんだ?」
俺がそう聞くと、目だけをこちらに向けて何かボソッと言った。
「———して」
「なんて?」
「……キスして」
「……なんて?」
今とんでもないワードが聞こえてきた気がするが一旦聞こえなかったことにしよう。
そう、きっと彼女も言い間違えただけなはずだ。
「だからキ———」
「無理だ」
「……なんで?」
「なんでって……お前とは恋人でもなんでもないし、それに俺お前のこと好きでもないし」
「むぅ……酷いこと言うのね」
彼女は頬を膨らませ不服そうな瞳をこちらに向けてきたがこればかりはできない。
俺は親から恋人を下手に作らないように言われている。こちらで選ぶからお前は勝手なことをするなと。
全く……自分の結婚相手くらい自分で選ばせてもらいたいものだな……どうせどっかの名家の娘とでも結婚させるつもりだろうが。
「じゃあ……抱きしめて」
「……まじでか」
「してくれなきゃ離さないから……」
彼女の目には譲らないという信念が宿っていた。
これは……しないと離れなさそうだな……まぁ抱きしめるくらいなら別にいいか。
「抱きしめたら離れろよ」
「うん」
「ならいい」
俺は彼女華奢な体をを優しく抱きしめ返した。
「あ……」
彼女から呆気に取られたような声が漏れたが俺は気にせず彼女を抱きしめ続けた。
これは……悪くない感覚だな。
初めてのハグは思っていたより心地よく、不思議と心が落ち着いた。
そういえばハグにはリラックス効果があるとどこかで聞いたことがあるが本当だったんだな。
「……したぞもう離れろ」
「あともう少しだけ……いいでしょ?」
「……あと少しだぞ」
俺もすこしだけ名残惜しかったため彼女の要求を思わず承諾してしまった。
彼女の顔を見ると目を瞑りながら安心したように俺の胸に顔をくっつけている。
「はぁ……幸せ……」
『冷酷冷酷姫』や『人の心がない』と言われていたが……全然そんなことないな。
今の彼女はただただ甘える子供のようだった。
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