第2話 冷酷美少女は家に行きたい

 翌日、いつも通り登校した俺が教室に入るとクラスの何人かが俺を怖がるような視線を向けてきた。


(もうこれも慣れたな……)


 何故こんなに俺が怖がられているかというと俺は普段必要なこと以外はあまり喋らず、クラスメイトともあまり絡まない。それに顔が少し怖いのも相まって無口で怖いやつとしてクラスメイトとから避けられ、気がつけばクラスからは孤立し、一匹狼状態になっていた。


 まぁ別に気にしないけど。


 友人をどうしても作りたいわけでもないので俺にとってはどうでもいい評判だった。なんならこっちの方が一人で楽まである。


 自分の席に荷物を置いた俺はふと昨日の出来事を思い出し窓側を見るとそこには美しい黒髪に冷たい碧眼をもつ冷酷美少女、七瀬玲は静かに本を読んでいた。


 彼女の周りには人一人いない。それも彼女のあの極寒の瞳と人の心をへし折る毒舌が原因だろう。


 だがそれでも彼女ほとんどの男子が彼女を遠目にチラチラと眺めているところを見るとやはり彼女は男子人気が高いようだ。


 俺がしばらく彼女を眺めているとこちらに振り向いた彼女と目が合った。


 あ、やばいかも……


 俺は絶対零度の瞳で睨まれることを覚悟した。


『ふふっ』


 だがそんな俺の考えとは裏腹に彼女はこちらに向かって優しく微笑んで見せた。


 あれ? 睨まれなかったなんで?


 普段の彼女なら自分を見つめる視線に気づいたら必ず並んでいたはずだ。それが先程は睨むどころか少し微笑んでいたような気がする。

 

 俺は不思議に思いつつもあまり考えないようにした。



 ◇



 放課後、いつも通りバイトに向かった俺はそこから3時間ほどのバイトを終え帰ろうとしたところ、店内の客席に見知った人物がいた。


 その人物、七瀬玲は優雅にコーヒーを飲みながら美しい碧眼でこちらをみつめている。


「お疲れ様」


 珍しく彼女から話しかけてきたことに俺は内心かなり驚いていた。普段の彼女なら俺がお疲れと言っても完全に無視していた筈だ。


 どういうことだ? 今日は昨日と様子がかなり違うぞ……


 俺は少し警戒しつつ返事を返す。


「……七瀬は今日シフトオフじゃなかった?」


「いいじゃない、普通に来たって。それに今日は貴方を待っていたのよ?」


「俺を?」


「ええ、そう。あなたに用があってね。」


 七瀬は飲んでいたコーヒを飲み干し立ち上がった。


 一度家に帰ってから来たのか彼女の服は普段の制服とは違い、完全な私服だった。


「じゃあとりあえず、帰りましょうかあなたの家へ」


「……なんで俺の家なんだよ」


「ここでは話しずらい内容だからよ。そうなるとあなたの家くらいでしょう?」


 確かに俺は一人暮らしで家には誰もいな い。


 引いてくれそうにないし話だけ聞いて早く帰ってもらうか……


「……わかった少しだけだぞ」


「ありがと、じゃ行きましょ」


 そこから二人でコーヒーショップを出て暗くなりつつある道を二人で歩いている間も特に会話はなくただただしずかな沈黙が続いた。


 そしてあっという間に俺の家に着いてしまった。


「着いたぞ」


「ここが……結構いいところね」


 俺の家は一人で住むには勿体無いくらい部屋が広い。これも両親がかなり裕福なお陰だ。


 部屋の前着くと、俺はポッケから鍵を取り出し扉を開けた。


 部屋の中はある程度綺麗にしていたお陰で女の子にも見せても大丈夫な状態だった。


「それで話って何なん———」


 俺がそう言おうとした時七瀬がいきなり俺に抱きついてきた。


 彼女の顔は先程までの表情とは違い少し興奮気味だった。


『やっと二人きりになれた』


 そこには最早『冷酷姫』や、『人の心がないと言われている冷酷美少女の面影は全くなかった。





 


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