全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れなんてお題を出すからこうなった

ラーさん

勇者には三分以内にやらなければいけないことがあった。

 勇者には三分以内にやらなければいけないことがあった。


「させないぞ魔王!」

「ふはは、手遅れだ勇者! 我の世界を闇に沈める魔法はもう完成する!」


 魔王殿の奥深く。巨大な列柱と青炎の燭台に囲まれた祭壇に立つ魔王は、その後背の壁に描かれた巨大な魔法陣に魔力を送り込みながら、そう迫り来る勇者に向かい高笑いした。魔王はこの魔法陣から魔界の闇を呼び込み、人間たちの世界を魔界と同じ環境に変えようとしているのだ。

 魔力の集積状態から、この魔法の発動まであと三分。勇者は三分以内に魔王を倒し、この魔法を止めなければならない。


「まだだ! かつて魔界の侵攻から世界を救った異世界の賢者が残したこの魔法なら、きっとお前を止められる!」

「むっ、その魔法は!?」


 魔法を発動させた勇者の手のひらから突然に鋭い角を持った雄々しい牛が現れた。それも一頭ではない。次から次へと途切れることなく同じ牛が現れ続け、魔王へ向かって突進をしていくのだ。


「ふっ、『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを呼び出す魔法』か」


 そう、これこそかつて異世界から召喚され、魔界の侵攻を受けていたこの世界を救った賢者『春海水亭』が使い、攻め寄せる魔王軍を壊滅させた破壊魔法『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを呼び出す魔法』である。何故このバッファローと呼ばれる異世界の牛にこんな力があるのかは全くわからないが、異世界の賢者が生み出したこの魔法の威力だけは本物であった。その名の通り全てを破壊し尽くすまでは術者の手でも止められない、現代では禁忌魔法とされる究極破壊魔法である。


「しかし古い魔法だ」


 だが魔王は動じることなく迫り来るバッファローの群れに手をかざした。その手が輝くとそこから騎乗した人馬の影が大量に現れ、それぞれ「ヒーハー!」と叫びながら手に持った投げ縄を振り回してバッファローの群れを囲うように走り出した。


「魔界ではそんな魔法すでに研究され尽くし、今ではただの一般攻撃魔法とされている」

「な」


 人馬の影が「ヒーハー!」と叫びながら投げ縄でバッファローを一頭ずつ捕獲していく。群れが解体されたバッファローたちはその力を失い、虚空へと消えていってしまう。


「対抗手段もなく再侵攻を考えるほど我々もバカではない。群れであるから全てを破壊できる魔法であるなら、群れを解体してしまえばよいということだ。これが対抗防御魔法『バッファローを捕獲するテキサスカウボーイの群れを呼び出す魔法』だ」


 魔王は究極破壊魔法を破られて動揺する勇者にそう説明する。『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを呼び出す魔法』の研究の末に生み出されたこのテキサスカウボーイなる存在がなんであるかは生み出した彼ら自身にもわからなかったが、ともかく異世界の賢者が生み出したバッファローなる牛に効果のあることがわかり、「ヒーハー!」とうるさいながらも対抗手段として用意してきたのだ。


「さて、どうする? もう一分で世界は闇に沈み出すぞ」

「この魔法……いや、呪文だけは使いたくなかったが……」


 勝ち誇る魔王。しかし勇者の口から聞こえたのは、敗北を認める声ではなかった。


「世界のために私は人の道を捨てる」

「なに?」


 そう宣言して勇者は再び『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを呼び出す魔法』を使った。魔王が一笑に付す。


「無駄なあがきを……『バッファローを捕獲するテキサスカウボーイの群れを呼び出す魔法』!」

「異世界の賢者が残した魔導書に、究極破壊魔法が破られたときに使う極大呪文が記されていた」


 投げ縄を構えるテキサスカウボーイたちに向かって突き進むバッファローの群れ。その後ろから勇者はその呪文を口にした。


「『野牛バッファローを野獣に変える魔法』!」


 するとどうだろう。突き進むバッファローの群れが光に包まれると、バッファローたちは姿を変え、そこからむっちりとした屈強半裸の成人男性の群れが出現したのだ。つぶらな瞳で微笑むその男たちは、「オッスお願いしま~す」と挨拶をしながら、立ち塞がるテキサスカウボーイたちに次々と組み付いていく。


「なんだこいつらは!」

「これが異世界の野獣だ」


 そこに展開されたのは目を覆う阿鼻叫喚の地獄だった。筆舌に尽くし難い……いや、筆舌に耐え難い光景が繰り広げられる。それは淫らな悪夢のようだった。テキサスカウボーイたちの「アッー!」という悲鳴に「やりますねぇ!」「Foo↑」「ンアッー!」と昂揚した野獣たちの奇声が響き渡る。

 彼らは魔導書には特に『先輩』と記された人型の野獣である。その意味はわからないが、『全てを破壊しながら突き進む野獣の群れ』となった彼らの前に、テキサスカウボーイたちは抵抗虚しく瞬く間に凌じょ……いや、蹂躙され、野獣たちは次なる標的、魔王へ向かって猛進する。


「あぁあぁああぁぁぁぁあぁっ!」


 魔王が放った苦し紛れの『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを呼び出す魔法』も、『全てを破壊しながら突き進む野獣の群れ』の前には無力だった。


「カスが効かねぇんだよ(無敵)」


 バッファローの群れさえも「ホラホラホラホラ(鬼畜)」と責め下した野獣の群れは、遂に魔王の元へと辿り着き、その背後へと回り込む。


「ま、待て!」


 恐怖に歪む魔王の顔を見下ろして野獣たちは言った。


「やだよ(即答)」


 魔王が野獣の群れの下に沈み、その「ンアッー!」という悲鳴を聞きながら、勇者は異世界の賢者が残した魔導書に記された、この呪文の最後を見届けたときに発するべしとされた言葉を述べた。


「良い世、来いよ」


 そして魔王の野望は潰え、世界に平和が訪れた――。

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全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れなんてお題を出すからこうなった ラーさん @rasan02783643

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