コロラド

 海軍日本語学校が間借りしているカリフォルニア大学バークレー校の花壇に花が咲いている。リリィ、ドナルド、オーティスが並んで歩きながら、花壇の前を通りかかる。

「あ、ハナミズキの花が咲いてる。勉強ばっかりしてて気づかなかった。すっかり春ねー」

 とリリィが日本語で言うと、オーティスは感慨深そうに英語で言う。

「そーかー。もう、ここに来て3ヶ月かぁ。まだ3ヶ月なのに、キミら、日本語上手くなったなぁ」

 リリィが突っ込む。

「なーにを偉そうに。BIJだからって」

 オーティスが苦笑する。

「いやいや、そーゆー意味じゃなくてさ、キミら、すごく勉強するからさ、感心してるんだよ」

 リリィがドナルドをつつく。

「ほめられたよ。あたしたち」

 ドナルドが苦笑する。

「そういえば、テストの成績別のクラス分けってあるんじゃないの? ずっとこの3人じゃない」

 オーティスが言う。

「アラセ先生に聞いたんだけど、みんな成績もいいし、お互いに何となく補完関係だし、あの3人は一緒にしとけってことになったらしい」

 リリィが提案する。

「へー。じゃ、さ、ハワイの真珠湾に赴任したらさ、3人で一軒家でも借りて住もうよ」

 オーティスが両手を上げる。

「さんせー。楽しそうだ。いいだろ? ドナルド」

 ドナルド、笑いながらうなづく。

「そりゃ楽しそうでいいけどさ、ずいぶん先の話だね。ボクは毎日一杯一杯だよ。恐怖の「ケーゴ」も始まるらしいしさ」

 オーティスがどんよりする。

「そうかー。もうケーゴがやってくるのかー」

 リリィが不思議そう。

「ケーゴってなに?」

 オーティスが深刻な顔で答える。

「おそろしいシステムだよ。リリィ、おそろしいんだ」

 リリィまで深刻な顔になる。

「お、おそろしいの?」

 オーティスが深刻な顔でうなづく。

「恐ろしいんだ。同じ内容のことを言うのに、相手によって違う文脈と言葉を使うんだ。頭がごちゃごちゃになって「キー」ってなるぞ。「キー」って」

 リリィが深刻な顔でオーティスを凝視している。ドナルドまで深刻な顔になる。


 教室。リリィが立ってナガヌマ・リーダーを呼んでいる。

「「今日はどこかにお出かけですか?」

「午前中はどこへもでかけませんが、午後に小石川に参りたいと思います」

「お友達でも、お訪ねですか?」

「えぇ、ちょっと用事がございまして。金子さんのお宅に上がらなければならないんです」

「さようで御座いますか。私は金子さんにはしばらくお目にかかりませんが、お会いになりましたら、よろしくおっしゃって下さいませ」

「かしこまりました。申し上げます」」

 前に立っているアラセ先生が言う。

「はい。そこまで」

 アラセ先生が3人を見ると、みんな暗い顔をしている。

「なに? なんでみんなドンヨリしてるの?」

 オーティスが言う。

「こーれは、こんがらがりますねー。誰が誰を尊敬してるんですか?」

 リリィが乗っかる。

「金子さんも尊敬するわけですか?」

 アラセ先生がちょっと苦笑。

「うーん、誰が誰を尊敬してるっていうより、会話全体をさ、上品であらたまった感じにする時、こーゆー言葉遣いになるんだよ。知り合いのご近所さんとか、会社内で別の部署の人と話す時とか」

 リリィ、ドナルド、オーティス、腕を組んで首をかしげる。


 夜。食堂でドナルドとオーティスが紅茶を飲んでいる。ドナルドが、紅茶に愛しそうにミルクを入れて、一口飲む。オーティスがからかう。

「きみは、ニューヨーカーなのに、なんか英国調だな」

「そうかぃ? フランスは好きだけど。しかし、ケーゴはよくわかんなかったなー」

 オーティスが苦笑する。

「うん。難しい。アタマ痛い」

 リリィが小走りにやってきた。

「ねぇ、ねぇ、あたしたちコロラドに移動するんだって」

 ドナルドが驚く。

「な、なんで? ぼくらだけ?」

 リリィが笑う。

「違う、違う。アメリカ海軍日本語学校がコロラドに移るんだって」

 オーティスが不思議そう。

「なんで?」

「「日系人は全員内陸に移せ」っていう命令があったかららしいよ。ほら、先生方日系だから」

 ドナルドが苦い顔。

「ひどいよな。日系人だからって収容所に入れるなんて。なんでそんなことが許されるんだ」

 リリィが尋ねる。

「コロラド大学って、どんなとこか知ってる?」

 オーティスが記憶を引き出す。

「コロラド大学ってことは、ボルダーだな。そしたら、高地だ。夏は涼しくていいや。カリフォルニアは暑いらしいから」


 ボルダーは、山がキレイに見えるところだった。茶色い屋根や茶色い壁が多い。町の中をリリィ、ドナルド、オーティスが3人並んで歩いている。夕暮れ時で、遠くに見える山々が夕陽に当たって輝いている。

 オーティスが急に止まる。ちょっと先に進んだリリィが立ち止まっているオーティスを見る。

「どしたの?」

 オーティスが少し離れたところから言う。

「やっぱり、なんか持ってった方がいいんじゃないかな?」

 リリィが少し離れたところから言う。

「いーじゃない。「何にも持ってこなくていい」って言ってたし」

 オーティスが近づいてくる。

「でも、ほら、あれは「ケンソン」じゃないの? 日本文化にあるだろ?」

 リリィとドナルドが「あっ」という顔をする。

「ドナルド、どう思う?」

 ドナルド、腕を組む。

「うーん。そうかもしれない。引っかけ問題なのかな? さーすがオーティス」

 リリィが提案する。

「でもさ、今さら考えたってしょーがないからさ、お宅についてから聞いてみようよ」


 日系人教職員寮の一室のドアの前に3人が立っている。オーティスがドアのベルを鳴らす。

「はーい」

 日本語で応答があり、日系人らしき奥さんが顔を出す。

「いらっしゃい。お待ちしてました。さ、どーぞ、どーぞ」

 と、日本語で言い、中に招いてくれた。

「お邪魔しまーす」

 と3人それぞれ日本語で言いながら、ぞろぞろ中に入っていく。

 リビングには畳が敷き詰められていて、真ん中に低い机が置いてあり、アラセ先生があぐらをかいて座っていた。

「おー、よく来た。ま、座れ、座れ」

 四苦八苦して畳の上に座りながら、オーティスが尋ねる。

「先生、「なにも持ってこなくていいよ」って言ったのは、「ケンソン」ですか?」

 アラセ先生が少しビックリする。

「え? なんで?」

 ドナルドが尋ねる。

「「ケンソン」の意味をぼくらに教えようとしたんですか?」

 アラセ先生が苦笑する。

「そんなことないよ。ほんとに何も持ってこなくていいんだよ。みんな勉強大変だしさ、コロラドへの引っ越しも大変だったから、純粋な「慰労会」だよ」

 ドナルドが尋ねる。

「日本人が、同じようにボクたちを招待した場合、やっぱり何も持っていかなくていいんですか?」

 アラセ先生、考え込む。

「あぁ、そーか、そーか。そーゆーことあるかもね。うーん、、、」

 奥さんがお茶を持って出てきた。各人の前にお茶を置いて、また奥に帰って行く。

「うーん、原則はないような気がするな。「何か持って来てね」っていう含みがある場合には「お気遣いなく」とか、もうちょっと軽く言うかな?」

 リリィが嘆く。

「がー、ビミョー。わかんないわー」

 アラセ先生が笑う。

「はははは。面倒だよね。オレも二世だから、よくわかんない時あるよ」

 みんな、お茶を一口飲む。リリィが感嘆する。

「へー、これが日本茶なのねー。はじめて飲んだ。ドナルドは飲んだことあるんでしょ?」

「いいや、初めて。中国茶は飲んだことあるけど、日本茶は渋みが多いんだねー」

 リリィが床を指しながら尋ねる。

「先生、これがタタミ?」

「そう。タタミ。日本のカーペット。キミらのために収容所に入ってる友だちに無理言って作ってもらったんだ。作ってもらったのはいいけど、持ってくるのが大変でさ、結局上の方まで話が行っちゃってさー(笑)、、、」

 ドナルドが目を輝かせてタタミを見ている。

「これがタタミですかぁー。本で読んだことはあったけど、いい匂い」

 リリィが同意する。

「ほんと、いい匂い。あたしも本で読んだことがある」

 リリィとドナルドがタタミをスリスリして感触を確かめている。アラセ先生が満足そうに見ている。リリィが尋ねる。

「先生、この小さい机はダイニングデスク?」

「うん。日本の庶民は、たいがいこんな机で食事しているよ」

 オーティスが目を細める。

「なつかしいなぁ。友だちの家に行くと、よくあったよ。これ折りたためるんだぜ。ちょっと上のモノどかしてみて」

 リリィとドナルドが、机の上に載っているモノをタタミの上に置く。オーティスが手際良く机を折りたたむ。ドナルドが感嘆する。

「機能的だなー」

 リリィが疑問を投げかける。

「でも、なんで折りたたむ必要があるの?」

 アラセ先生が答える。

「この部屋で寝るためだよ。他に部屋ないから」

 リリィが驚く。

「ないの?」

「ないよ。普通の日本の家庭には。この部屋くらいの広さで親子6人全部まかなうんだよ。だからこの部屋をダイニングとしても使うし、リビングとしても使うし、寝室としても使うんだ」

 リリィが目をむく。

「えー! たいへーん! プライバシーなんてないのね」

「ないよ。日本は狭いからねぇ。だから広い植民地が欲しいのかな?」

 アラセ先生が一人でケラケラ笑う。みんなは微妙な目で見ている。


 宴が始まって少したつと、アラセ先生の奥さんが、追加の料理を出して、また奥に引っ込んでいった。リリィが尋ねる。

「先生、なんで奥さんは一緒に食べないの?」

「え? うーん、、、特に考えたことないけど、日本じゃそうなんだよ」

「私たちを嫌がってるんじゃなく?」

 アラセ先生が苦笑する。

「まさか。そいえば、日本の客席では家主の妻は一緒に座らないな。あんまり喋らないし、、、」

「えー! 男尊女卑ねー。アメリカもひどいけど、日本はもっとひどいのねー」

 アラセ先生が困った顔になる。

「うーん、そうだねー、あんまり意識したことなかったけど、そうだよね」

 ドナルドが尋ねる。

「じゃ、奥さんが一緒にいる席って、どーゆー時ですか?」

 アラセ先生が答える。

「うーん、結婚式とか、ゲストとして行く親戚の会とか、、、」

 ドナルドが尋ねる。

「そーゆー時は、奥さんも飲み食いするんですか?」

 アラセ先生がが答える。

「うーん、あんまり飲み食いはしないなぁ。あんまり喋らないし、、、」

 リリィがビックリする。

「かー! アメリカよりずいぶんヒドいのねー」

 アラセ先生が笑う。

「はははは。キミらから見ると前近代的かな?」

 リリィが少し憤慨している。

「ひどいよー。オーティスの家もそんな感じだったの?」

 オーティスが苦笑する。

「そんなわけないよ」

 リリィがやっぱり少し憤慨している。

「オーティスも女は無口でいろって思ってるの?」

 オーティスが言う。

「そんなわけないよ。それに、日本の女性が無口なわけじゃないぞ。社会的儀礼として無口を装ってるだけだぞ。ね? 先生?」

 アラセ先生が苦笑する。

「うん。そうね。そうかも。さーすがBIJオーティス!」

 オーティス、少し得意げ。

「でも、みんな、きっと日本に行ったら恋に落ちるぞ。優等生のドナルドも、オテンバのリリィも」

 リリィが口をとがらす。

「なんでそんなこと言い切れるのよ」

 オーティスがみんなを見回す。

「だって、日本は素晴らしいから」

 みんな、だまって聞き入っている。

「今さ、アメリカから日本を見てると野蛮で愚かな国にしか見えないけど、日本にはさ、高い文化と屹立した美意識を持った素晴らしい人たちが住んでるんだよ」

 ドナルドがオーティスを指す。

「あぁー、わかる、わかる。『源氏物語』は素晴らしいもんね」

 リリィが同意する。

「あー、あれは素晴らしかった。あたしも大好き。アーサー・ウェイリーの英訳がよかったなぁ。詩的で、、、」

 ドナルドが少し上を見て話出す。

「そう。あの物語には暴力も戦争もなくて、主人公の源氏はヨーロッパの叙事詩の主人公と違って、巨石を持ち上げる男でもなければ、群がる敵をなぎ倒す男でもない。つまり、超人じゃないんだ」

 ドナルドが視線を机の上に戻す。みんな、熱心に聞いている。

「それに、源氏は多くの情事を重ねるけど、それはドンファンのように自分が征服した女たちのリストに名前を書き加えることに興味があるからじゃないんだ。源氏は、深い哀しみというものを知っていて、それは彼が政権を取ることに失敗したからではなくて、彼が人間であって、この世に生きることは避けようもなく哀しいということを知っているからなんだ」

 ドナルドが語り終わってお茶を一口飲む。誰も何も言わない。

「あれ。どした?」

 オーティスが手を左右に振る。

「いやー、エライもんだなー。大学で日本文学の講義聞いてるみたいだったよ」

 リリィが同意する。

「ほんと、ほんと。ドナルド、頭いいの知ってたけど、文学の読み込みも深いのねー」

 アラセ先生が笑う。

「ほんとだなー。オレが生徒みたいだったよ」

 みんな笑う。ドナルドは照れる。

「だから、わかるよ。オーティスの言うこと。でも、わからないのは、千年も前にあんな素晴らしい物語を生んだ日本の人たちが、なんでこんな戦争を始めたかってことだよ」

 オーティスが同意する。

「そうだ。ほんとだ。ボクが知ってる日本の人たちは、あんなことする人たちじゃないんだけどなー」

 アラセ先生も同意する。

「うん。難しいよな。俺たち日系人も集まるとよくそんな話題になるけど、ほんと、よくわかんないよ」

 そこへ、奥さんが新しいお茶を持って来た。



  夏の日差しが教室に入ってくる。

 ドナルドが黒板に字を書いている。リリィとオーティスは座って見ている。ドナルドの横に立って見ていたアシカガ先生が拍手を始める。

「そうなの、そうなの、よくできたわー」

 オーティスが感嘆する。

「そんな草書のくずした文字、よく読んで書けるなぁ」

 アシカガ先生が笑う。

「キミもできるようになりなさいよ」

 オーティスが笑う。

「ボクは会話がんばりますよ。文字関係はドナルドに頼みます」

 足利先生が苦笑する。

「ま、それも一案ね。キミたちには時間ないし。でも、ドナルドはエライわぁ。この短期間で草書まで読めるようになるなんて」

 リリィが笑う。

「だって、ドナルドは寮で勉強したあと、草書の本読んでるんだもん。もはや変態よ」

 みんな笑う。ドナルドも笑う。


 夜。先生方の寮の夜景。たくさん灯りがついている。

 アシカガ先生の部屋で、リリィ、ドナルド、オーティスがあぐらで座っている。低い机には様々な日本食が置いてある。アシカガ先生がもう一つ料理を持って出てきた。リリィが尋ねる。

「スゴいねー。これ、全部先生が作ったの?」

 アシカガ先生が座りながら答える。

「そうよ。カリフォルニア大学の時、生徒に食べさせたり、ロスの日本人に食べさせたりしてたら、レパートリー増えちゃった」

 みんなが「いただきます」と言って食べ始める。アシカガ先生が注意する。

「あぁー、リリィ、リリィ、ダメ、ダメ。それは「刺し箸」。やっちゃいけないの」

 リリィがキョトンとしている。

「え? 刺し箸? いけないの?」

「いけないの。こう、挟むのよ」

 アシカガ先生が里芋を箸で挟んで持ち上げてみせる。みんな拍手。リリィも拍手しながら、苦笑していえる。

「先生、そんな高度な技、無理よー。やっと箸が動かせるようになったばっかりなのに」

「やるの! それが日本の文化なの! ついては、箸でやっちゃいけないことについてプリント作ったから、これ読んで勉強してね」

 机の下に置いてあったプリントをみんなに配る。リリィが一瞥してなげく。

「えぇー!? こんなにあるのー!?」

 ドナルドが読む。

「ねぶり箸、箸渡し、寄せ箸、迷い箸、、、20個もあるよー(T_T)」

 アシカガ先生が言う。

「もしキミらが日本で会食した時、変な箸の使い方したらキミらが笑われるだけじゃないのよ。米国海軍が笑われるのよ。だから、覚えて!」



 秋のやわらかな日差しが教室に入ってくる。

 リリィとドナルドとオーティスが座って、懸命にノートに書き込んでいる。アシカガ先生が黒板の前に立って、読み上げる。

「タイワーン」

 みんな、懸命にノートに書く。オーティスが嘆く。

「字画が多すぎるよー」

 アシカガ先生が笑いながら黒板に書く。

「正解はこれよー。「台灣」。はい、次は、ミツイブッサンカブシキガイシャー」

 みんな、懸命にノートに書く。アシカガ先生が黒板に書く。

「正解はこれよー。「三井物產株式會社」。はい、次は、ユウウツー」

 リリィとドナルドとオーティスが同時に声を上げる。

「でぇー!!」


 映写室で、生徒達が映画を見ている。リリィとドナルドとオーティスもいる。ドナルドが笑う。

「やっぱり、二人は橋の上で別れるね」

 リリィが笑う。

「ほんと、橋の上多いねー」

 オーティスが尋ねる。

「キミたち、映画の言葉、どのくらい理解できるようになったの?」

「うーん、ボクは、ほぼわかるようになったなぁ」

 とドナルドが言うと、リリィは

「3/4くらいかなぁ」

 と言うので、オーティスはビックリする。

「スゴいなー。改めてそう聞くと。日本語って難しい、難しいって言われてるけど、やる人がやれば8ヶ月くらいでできるようになるんだねぇ」

 ドナルドが笑う。

「為せば成る、為さねば成らぬ何事も。成らぬは人の為さぬなりけり」

 オーティスが指さす。

「あっ! この前どっかで出たね。誰が言ったんだっけ?」

 オーティスが「うーん」と考え込む。リリィが指を一本掲げて得意げに言う。

「ウエスギヨーザン」



 雪が降っている。

 リリィとドナルドとオーティスが、学校の窓から外を見ている。オーティスが言う。

「さすがコロラドでも、春に雪は珍しいんだってさ。5年ぶりだって」

 リリィが言う。

「雪、やだなー」

 オーティスがなぐさめる。

「ま、赴任地はハワイだからさ、来週にはあったかいとこにいるでしょ」

 リリィが両手をあげる。

「うれしー。早く行きたーい」

 リリィがふとドナルドを見る。マジマジと見る。

「しっかし、軍服似合ってないわねー。「馬子にも衣装」とは申しますが、、、」

 オーティスがかぶせる。

「この場合違うだろ? 反語を使うべきなんじゃないか?「衣ばかりで和尚はできぬ」じゃない?」

 リリィがオーティスを何回も指をさして同意する。

「そうそう、それそれ、そんな感じ」

 ドナルドが口をとがらせる。

「なんだよ、リリィだって、、、」

 ドナルド、リリィをシゲシゲと見る。

「あれ? 似合ってる。着慣れてる感じだね?」

 リリィが笑う。

「だって、おとーさんもおじーさんも軍人だものー」

 リリィ、親指と人差し指をアゴにあてて決めポーズをした。ドナルドが、リリィの親指と人差し指をはずして手をおろさせる。リリィが苦笑する。

「しかしさぁ、あたぃ達の代表として、日本語で高らかに「告別の辞」を述べる卒業生総代がさぁ、こんなに軍服似合わなくていいの?」

 ドナルドもオーティスもケラケラと笑った。

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