ショートケーキに例えるなら

芝草

三分以内に

 僕には三分以内にやらなければならないことがあった。

 この戦いで、じいちゃんに「負けました」って言わせてやるのだ。


 縁側に置かれた四角い時計が、隣でピーと無機質な音を立てる。


 うるさいな、今考えてるのに。

 イライラしながら時計をチラ見すると、僕の持ち時間は残り三分とのこと。ちなみに、じいちゃんの持ち時間は僕の倍以上ある。

 僕はごくりと固いつばを飲み込んだ。


 不意に、パチリパチリと扇子が鳴った。

 じいちゃんだ。不敵な笑みを浮かべながら、扇子を弄んでいる。

 くっそ。何だあの余裕。形勢では僕の方が断然優勢なのに。


 歯噛みする僕の脳裏で、じいちゃんの声が聞こえた。

 ――相手を追いつめている時こそ、その足元をすくわれるもんだ。追い詰められた時こそ、余裕を持て。追い詰めている時こそ、油断するな。


 まさか、じいちゃんの口癖に助けられるとは。敵から塩を送ってもらった気分だ。


 僕は呼吸を整え、戦場を見渡した。


 やはり、局面は僕の方が有利だ。


 ショートケーキに例えるなら、じいちゃんの苺に僕の銀のフォークが迫り、今にも苺を討ち取らんとしているかんじ。でも、じいちゃんの金のスプーンがその苺をがっつり守っている。だから、僕の銀のフォークは苺を仕留めきれない状況なのだ。


 さて、ここからどうするか……。

 シンプルなのは数の攻めだ。銀だけでは足りないのであれば、増やせばいい。


 僕は駒台の上の「歩」を掴むと、盤面に叩きつけた。


「……惜しかったのう、二歩じゃ」

 一瞬の沈黙の後、じいちゃんがゆっくりと口を開いた。

「ほら、ここ。同じ筋にお前の『歩』があるじゃろ? こりゃ、お前の反則負けじゃ」


 言葉を失う僕に、じいちゃんがポンポンと僕の肩を叩いた。

「まぁ、まだ始めたばかりじゃからなー。でも、これでルールは分かったろう? 面白いじゃろ、将棋って」

 僕は歯噛みしながら――うなずいた。


 ちなみに、ばあちゃんが出してくれたおやつは苺のショートケーキだった。おいしかった。

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