百合にお水は欠かせない

Ab

図工の授業にて

 私には三分以内にやらなければならないことがあった。


 【トイレに行く】


 それが私の、今現在の最優先事項だった。


「ちょっとみーちゃん、あんまり動かないでよ。今あたし、頑張ってみーちゃんの可愛いお顔を描いてるところなんだから」


「あ、えと……ご、ごめん……っ」


 宮下みやした未来みらい、通称みーちゃん。

 高校に入学してから早二年、望んでもいないのに成長ばかりする胸がコンプレックスで、逆に全く成長しない148cmの身長もコンプレックスで、おどおどした人見知りな性格もコンプレックスな、そんな女子高生が私である。


「さっきからモジモジしてるけど大丈夫? 具合悪いならあたしが保健室連れて行ってあげよっか?」


「だ、大丈夫だから気にしないでっ。その……き、昨日、ふとももを蚊に刺されちゃって……それで……」


 そんなコンプレックスだらけの私だけど、そこそこ楽しく学校生活を送れているのは紛れもなく幼馴染の存在があるからで、もし彼女がいなかったらと思うとゾッとして泣きそうになる。


 島崎しまざき藍那あいな、通称あいちゃん。

 それが私の幼馴染で親友で、大好きで、大好きな人の名前。

 もっとも、通称で呼んでいるのはお互いだけなんだけどね。ふふっ。


「あ〜〜それはそれは、憎たらしい蚊だね。みーちゃんのふとももが美味しそうなのは分かるけど、食べていいのはあたしだけなのに……ね?」


「ひゃぅっ……!?」


 突然、あいちゃんがスケッチ用のペンを置いて私のスカートの中に手を入れてきた。

 細い指のひんやりとした感触がふとももを這い、いやらしく前後に撫でられる。


「やぁ……っ」


「やーなの?」


「……や、じゃ、ないけど……いまは……っ」


 変な声が出てる。

 まるで自分の声じゃないみたいな、少しだけ可愛い声。


 スーっと登ってきていたあいちゃんの指が、ふとももから下腹部へと伸びる寸前で止まる。私の肌から離れるのを惜しむようにしばらく熱を伝えてきた後、五秒ほどしてようやく離れてくれる。


「……はぁっ……はっ……」


 危なかった。

 一時的にズレていた……その、トイレの波が、あと少しでとっても大変なことになるところだった。

 でも、あいちゃんに触られて、また少し来ちゃった。

 三分くらいは我慢できると思っていたのに、あと二分も持たない気がする。


「ひひっ……ねえみーちゃん、今ちょっと興奮した?」


「し、してないよ……っ!」


 からかうように笑ったあいちゃんに反射的にそう返すと、今度はスカートの上から私のふとももに触れてくる。


 ……っ。


 あぁ、まただ。

 あいちゃんに触られると、胸の奥がきゅってして……それで、トイレの我慢がちょっとだけ緩む。


「だ、だめだよっ。今は図工の授業中で、あいちゃんは早く私のスケッチ終わらせないとでしょ……?」


「スケッチって、顔じゃないとダメだとは言われてないよね?」


「ひぇ……?」


 理解できずに首を傾げた私を見てあいちゃんが微笑む。


「みーちゃん正直に言ってみて? あたしに、みーちゃんのどこをスケッチして欲しい?」


「か、顔だよっ!」


「あはは〜、そっかぁー顔か〜」


 残念だなぁーなんて言いながら自分の席に戻って行ったあいちゃんが、にやにやしながら再びペンを握った。


「じゃあじゃあみーちゃん」


「……ん、なぁに?」


「舌出して両手でピースして!」


「……っ!?」


「ほれほれー」


「し、しないよそんな端ないことっ!」


 まったくもう、あいちゃんは……

 いつも、えっちなことばっかりなんだから。


 ……って、それよりも!


「……ぅ」


 トイレがやばいっ!

 もう本当に、そろそろトイレへ向かわないと間に合わないかもしれない。そのくらい本当に限界が近い。


『あいちゃん、ちょっとトイレ行ってくるね』


『んー、いってらっしゃい』


 なんて私に言えたらよかったんだけど、現実はそう甘くない。


 まず人見知り。

 幼馴染のあいちゃんと喋るときにもどもどもしてしまう時点で、私のコミュ力はたかがしれている。

 それでも理由がこれだけだったなら、さすがに私も自分から話しかける勇気を出す。授業中に漏らしちゃうよりは……ましだから。

 でも、それだけじゃないから我慢してるんだ。


「えー、でも昨日はしてくれたじゃん……。あたしの家でぇ……よだれ垂らしながらぁ……力無く両手でピース、って」


「そっ、それはっ! ……ここで言わないでよっ」


「ひひっ」


 私はあいちゃんに逆らえない。

 自分から意見することができない。

 冗談ならともかく、本気で命令されたら絶対に逆らえない。


 別に関係を強要されたわけじゃない。

 脅されてるわけでもない。

 ただ昔、私に性の知識が初めてちょっとだけつきはじめた頃、あいちゃんが私に色々教えてくれて、それで終わった。


 あいちゃんの命令に従うと気持ち良くなれる。

 従わないと、何もない。触ってくれない。気持ち良くしてくれない。でも従えば、とろけさせてくれる。

 そう、私の体が覚えてしまった。


 だから逆らえない。

 逆らおうと思えない。


 私がトイレに行きたいって言ったら、あいちゃんは絶対面白がってダメって言う。

 限界まで我慢させられて、本当に限界になってもにやにやされて、本当に本当に限界になったときにやっと初めて立ち上がることを許されて、でもその時にはもう私は歩けない状態になっていて。歩いたら出ちゃうところまで我慢させられて、きっとちょっと栓が緩んだ状態であいちゃんにトイレまで連れて行ってもらって、それで二人で個室に入る。


 そうなってもまだお許しはもらえない。


 あいちゃんに触られて、気持ち良くなって、我慢とか理性とか全部どうでも良くなっちゃうくらいめちゃくちゃに気持ち良くされて……それでやっと、『おねだりしてごらん』と言ってもらえる。


 そしたら私は、とろけまなこで言うんだ。

 動かない舌を懸命に動かして、「出させて、くださいっ……」って。


「……はぁっ……はぁっ……っ」


「みーちゃん?」


 あぁ、ダメだっ。

 考えたらもうそれだけで……わたし……っ。


「……みーちゃん、もしかして…………ひひっ」


「ふぇ……?」


「ねぇみーちゃん、脚広げて?」


「……へ?」


「スカートは手で押さえていいから。命令」


「…………こ、こう?」


「そうそう、えらいえらい」


 言われた通りに膝を外に向けた私の頭をあいちゃんが子供扱いして撫でてくる。

 いくら周りがみんな集中してるからって、クラスメイトも先生もいるのに。


 でも結局、私はあいちゃんに従う。

 本能が彼女を求めてしまうから。

 ここで脚を広げたら、見られちゃうかもっていう恐怖が、気持ちいいって理解してるから。


「じゃあ、そのまま、下腹部の力抜こっか」


「…………ぇ?」


「一瞬だけ、下半身、脱力」


 はっきりと発音され、思考が回る前に体が勝手に反応してしまう。


 腰の力が抜ける。


 瞬間、すさまじい熱量が流れていく感覚が脳天まで突き抜ける。

 圧倒的快感と羞恥、不安、恐怖、悦び。


 反射的に体が再び栓を閉じるも、緩んだものを閉め直すのは簡単なことじゃない。


「ぁぁ……やっ、やぁ…………っ!」


 衝撃に等しい痛みと意識を蕩けさせる快楽が私をいっぺんに襲ってくる。


「はぁっっ……はぁぁっ……、はぁっ……」


 そしてどうにか制御を取り戻し、空気を吸う。


 恐る恐る下を向く。


「ふぁ……っ」


 よかった、あふれてはいなかった。

 下着が吸える程度だけ。

 ただちょっと漏れただけ。


 ただそれだけで、こんなにも気持ちいい。


「にひひ、どうだった?」


「……っ」


「どうだった?」


「…………す、すごい……よかったゃ……ですっ」


「あはは、みーちゃんはとびっきりの変態さんだねぇ」


「そ、そんなこと……ないもんっ」


「じゃあお手洗い行ってきなー。あたしは止めたりしないから」


「え……」


「ほら、寂しそうな顔。変態だぁ」


「……うぅ、いじわるしないでよぉっ」


 私が恥ずかしくなるのを見て、あいちゃんが楽しそうに笑う。


 全部わかってるんだ、あいちゃんは。

 私の考えてること、したいこと、してほしいこと、してほしくないこと、そして私の体のことも。


 分かってて、わざと許可を出してるんだ。


「我慢するの体に悪いよ?」


「……そう、だけどっ」


「だけど?」


「……っ」


 私は変態じゃないんだっていう一縷いちるのプライドみたいなものが私にその先を言わせてくれない。


 誘ってくるのはいつもあいちゃんだ。

 最初に相手に触れるのはいつもあいちゃんだ。

 楽しんでるのは、あいちゃんだ。


 もちろん私だって嫌々じゃない。

 心から拒絶したらあいちゃんは触ってこない。そういう人だっていうのは幼馴染だから分かってる。



 でも、でもっ。


 いつも触れ合う時のおねだりだって、私はあいちゃんにさせられてるんだ。

 気持ち良いってことしか考えられなくさせられて、嫌々じゃない状態にもってかれて、それで不可抗力というか、そんな感じで…………


 だから、まだほとんど何もされていない状態であいちゃんを求めることだけはしない。しちゃいけない。

 だって、そうしちゃったら、私は変態になってしまう。

 言い逃れできない、自分から快楽を求める変態に。



「わ、私は……」



 あぁ、そんなこと分かってる。


 分かってるけど、でも、もう一度……


 下半身の力を抜けって、言って欲しい……。



「トイレに、行きたい……」



 散々辱めてもらった後で、トイレに行きたい。


 そこであいちゃんに言われたい。


 みーちゃんはどうしようもない変態だ。

 あたしがいなきゃもう生きていけない変態だ。


 自分から求めて我慢して、一番気持ちいい快楽しか受け入れられないあたしの可愛いワンちゃんだ、ペットだ……って。


 そうしたら、私はもう心の底から爪の先まで、全部あいちゃんに捧げられるのに。



「……だから、あいちゃんも一緒に来て……」



 捧げたい。私の全部を。



「……お願い、あいちゃんっ」



 バカな私の、馬鹿なプライドを折ってほしい。

 私の全てはあいちゃんのものだって、全身に教え込んでほしい。

 触れて欲しい。

 触って欲しい。

 めちゃくちゃに気持ち良くして欲しい。


 あぁ……もうだめだ。


 早く欲しい。

 早く。

 早く。

 早く。

 早く。


 私の心を、早く、壊して……っ



「お願いされたら仕方ないね」


「わぁっ……!」


「行こっか、みーちゃん」


「うん、うんっ!」



 あぁ、早く命令して欲しい。

 なんでもいいから、三分でも五分でも、言われただけ我慢するから。

 我慢して我慢して、最後の最後に。


 私は、あいちゃんに壊されたい。






【あとがき】

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百合にお水は欠かせない Ab @shadow-night

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