第6話 倉敷での大量下車。そして列車は山陰へ。

 岡山を出ると、列車は徐々に速度を上げ、岡山操車場の南側をさらに加速しつつ山陽本線を下っていきます。静かな車内には鉄道唱歌のオルゴールが流れ、その後すぐに案内放送。全駅の到着時刻が案内されます。

 新駅の北長瀬、庭瀬、そして橋上駅化した中庄を全速力で軽々と過ぎてきた国鉄電車は、倉敷駅の少し手前から単線の高架に上がります。これは伯備線に入る列車が線路上でクロスして山陽本線の列車を待たせたりしないようにするための措置です。人間はどうしても、昇り降りする移動よりも平面上の移動の方を好む傾向があるものです。それ故に踏切をなくせないところもと私見では案外あったりするものですが、これは列車ですから、そんなことを気にしなくともよいというもの。

 高架の上をするすると進み、倉敷に到着。岡山からわずか10分。気動車時代は最速で11分でしたが、今や標準で10分。これが首都圏のような場所ならあまり早く設定するとネットダイヤに支障が出る(遅ければなおのこと)可能性があるからこうはいかないこともあるのですが、首都圏の東京近辺ほどの輸送量ははなからないため、このくらいでちょうどいいのです。


 倉敷駅の伯備線下り用の4番ホームに到着しました。

 あれれ?!

 先ほどどやどやと乗車してきた年配の女性の数人組が、ここでさっさと降りていきました。他にも何人か、降車客がいます。これでこの車両、半数以下に減ったのではないかというくらいの減りよう。

 この度「やくも」が全席指定席化された背景には、このような短区間、特に普通列車で完全に代替の利く岡山-倉敷間の利用を制限する意図もあるという人も。

 不可抗力とはいえ特急券を買わないまま乗られても困りますからね。

 というか、改札が来なければ結果オーライということで乗車するような人もいないではないようですからね。

 先ほどの女性陣は、関西弁で話されてそれなりの身なりをされていたから、特急券をあらかじめ買っていた可能性もなくはないけど、さあ、どうだろう。これが昔なら、特急到着と同時となれば特急に乗って来たのかと尋ねも出来ようが、今は自動改札ですから、乗車券さえあれば、特急券なしで乗車してきてもあっさりと改札を通り抜けてしまえます。ま、いちいち特急で来たのかと問いかけていてはキリもないでしょうけど、あまり気持ちのいい話でないことは確かってことです。


 さて、きな臭い話はこのくらいにして、倉敷駅を出発。

 いつものとおり、少し先の分岐点のポイントと踏切をゆっくり目に通過し、複線の続く伯備線をさらに北上して参ります。

 倉敷市内は美観地区のある南側が中心地で北側はかつては工場などのあった地でしたが、1981年に駅が橋上化され、その後は北側からのアクセスも格段に向上しています。喝てチボリ公園があったのも、その工場跡。現在は閉演し、三井アウトレットパークができています。無論以前から住宅地ではありましたが、さらに伯備線沿線になる北側の駅付近は、今も分譲が進んでいます。そりゃあ、倉敷クラスの駅前には違いありませんから、利便性も抜群によく、その気になれば自家用車がなくても十二分に生活できる環境ですからね。


 列車はさらに、晴れた日曜の昼前時を山陰へと北上しております。

 清音、総社と井原鉄道と並走する区間を全速で通過し、さらに街を外れてひたすら山間の地へと警戒に振子電車は進んでまいります。複線区間とは言え、元は単線だったところを複線にしただけあって、つかず離れずな区間も少なからず。あちらはトンネルに入ったがこちらはそうでもないとか、そういう区間もままある。しかし複線区間だけあって、途中の反対列車待合わせなんてことをする必要はありませんから、楽に進めます。

 総社を通過した列車は振子機能をしっかり働かせて豪渓を通過。さらには高架上の日羽、難読駅名でその名をとどろかせる美袋(みなぎ)、そして備中広瀬を難なく通過し、高梁市内へ。備中高梁で小停車の後、ここからは単線区間に。つい16日前に乗ったスーパーやくもは備中川面で上りのこの国鉄型とすれ違いましたが、今回は報告で列車行き違いのための停車。方谷では赤のゆったりやくもと行き違いを果し、さらに北へと進みます。今回も高梁川の中流とかつてのお召牽引機関車の保存された井倉洞横を進行方向右に見ながらいよいよ新見市内へ。急行停車駅で一部やくもも停車していた井倉を通過し、先日はいささか雨模様の中新型273系やくもの試運転とすれ違った石蟹も通過。好天の中、列車は新見到着。高梁ではほとんど降車客もなく、新見でもこれまたほとんどない模様。ただしここでは、何人かの乗車客が見られました。


 新見を出発した国鉄特急やくもは、かつて井倉洞に余生を送る蒸気機関車が三十連デリ寄港していた布原を軽々通過。この日も本来信号場だったはずの駅ホームには写真撮影をされている中年男性がいらっしゃいました。

 芸備線との分岐点でもある備中神代駅もすいすいと通過し、ポイント制限のある場所をいささかスピードを落として通り抜け、さらに山間へと入っていきます。

 そしてまた、次の足立で3分間の運転停車。反対列車もまた特急列車です。


 岡山県脱出も、刻一刻と迫ってきました。

 前回は足立を過ぎたあたりから残雪が各所に散見されましたが、立春を過ぎて10日以上経つこの山間も、もはや春支度の準備に入っています。

 新郷を通過し、岡山県北西部の集落を横目に、谷田峠へ。

 前回はこのあたりで車内放送が入りましたが、今回は案内放送は一切ありませんでした。上り勾配であったはずの列車はいつしか下り勾配へ。まだ、トンネルは出ておりません。

 とはいえ、明けぬ夜もないのが世の常であるとおり、出口のないトンネルもまたないというものであります。峠を越えて下り坂になった列車はさらに速度を上げて鳥取県に突入。最初の駅上石見も軽々超え、最初の停車駅である生山へ。

 分水嶺を超えたこの先は、川の流れは進行方向に沿って日本海への流れとなります。その流れも並行道路のクルマもはるかに凌駕する速度で、振子電車は山陰へと人を連れて行くのです。


 もはやこのあたりにも、雪のかげもかたちもまったく見られません。

 やはり、季節は、もう春なのですね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る