第2話 ヴェロニカの推理
※ジークハルト視点
暫く寝たふりをした後、僕は隣で無防備に眠る、数時間前までは暗殺者だった子が何か王妃の策略の手がかりになりそうなことを吐かないかと注目する。
(さっきまでの感じだと寝言とか言っちゃいそうなタイプなんだけどな………ちょっと抜けてそうだし)
だが意外にも守備は固く、結局、朝になっても何も収穫はなかった。
*****
「起きて!起きてください殿下!!」
頭の中に、普段は聞こえるはずのない女の子の声が反響する。
どうやら寝たふりをしてたらいつの間にか本当に寝てしまったようだ。
徹夜してしまったせいで、ぼんやりとする視界を擦りながら目を覚ますと、そこには埃を被った美人な子………もとい隣国シエラ帝国のヴェロニカ・ステラ・ド・シエラ皇女がいた。
「わたし、頑張ってお掃除したんですよ!」
大陸の中で最高位の帝国の皇女というには相応しくない格好で、ヴェロニカ皇女は誇らしげに報告してくる。
「それにしても、よくこんな廃墟みたいなところで生活できてましたよね。使用人はいないんですか?」
「何人は居たんだけどこの廃墟同然の宮殿に耐えられなくなったみたいでね」
「あはは………」
「ここって元々、150年くらい前に使われなくなった宮殿だから幽霊とかの目撃情報があるみたいだしね」
前王妃だった母上が病で亡くなり、現王妃であるロミルダ王妃が第二王子ロータルを産んでからオルヴェア国内での僕への扱いは不当なものになっていった。
(せめて帝国と王妃の動きが関連しているのかだけでも手がかりが見つかればな………
それと、まだ相手に殺意があった場合も考慮する必要がある)
とりあえず、幼馴染でありながら唯一の執事であるクルトに頼んでおいた資料がそろそろ届くはずだ。
それを踏まえてシエラの思惑を見極めなければならない。
*****
※ヴェロニカ視点
(王太子、さっきから何を考えこんでるのかしら………
もしかしてロミルダ王妃のこと?)
ロミルダ王妃はもともとオルヴェア国王の側室で、性格が壊滅的だと言われていたがその美貌から王の愛を勝ち取り前王妃ジュディス様が亡くなった途端に正妃に昇格して国際的に物議を醸していた。
正直なところわたしもロミルダ王妃は苦手だ。
以前ステラにいらした時、笑顔だけど目が笑っていなかった。
そんなことを思い出していると、ノック音と同時にドアが開き、使用人の男性が入ってくる。
「ジーク様、例の資料をお持ち致しました。か弱い俺にとっては運ぶのがとても重い上に作るのが面倒だったので無駄のないように使ってくださいね」
(多分、執事だよね………?でも普通の使用人ではなさそう)
「分かってる。そう言えば
「大丈夫です。今回はそこのシエラ帝国の皇女様に用事があって来ましたので」
いきなり自分の名前が出て来て驚く。
「わたしに、ですか?」
「王妃殿下が皇女様を昼のお茶会に招かれております。来ていただけると嬉しいと殿下が仰っておりました」
(ロミルダ王妃から?ここで王妃と接触すればお姉様の事についてなにか手がかりが見つかるかもしれない)
「ええ、是非参加させていただきたいです」
一抹の不安は残るものの、せっかく王妃の方から招待していただいたのだから、この機会を無駄にしたくはなかった。
「承知致しました。殿下に報告しておきます。それとジーク様、………………です」
「あ、おいクルト………!」
クルトと呼ばれたこの執事は王太子に何かを耳打ちすると、彼が何か言おうとしているのにも関わらず、では、と一礼して去っていった。
ドアが閉まると同時に、横からため息を吐く声が聞こえる。
「あいつ………」
そういえばお互い軽口を叩き合っていたように見えた。
仲がいいのだろうか。
「あ、そうだ。悪いんだけど王妃の動向に関して何か分かったら教えてもらえるかな」
「約束はできませんが、いいですよ」
「あと、なんか僕だけため口をきいてたけど僕にもため口で接してくれると嬉しいな」
「ありがとうござい………あ!えっと………ありがとう?」
(いつも思うけどこの王太子、距離感おかしいんだよね………仲良くなったと思わせておいてうっかり何か喋るのを期待してるとか)
考えすぎかもしれない。
(でも何も隠し事もないからそんなことしても無駄なのに)
王妃とのお茶会まであと2時間弱はある。
その時に聞き出したいことは一つだけ。
お姉様とオルヴェアの関係だけだ。
叔父様の話によると王妃にお茶に誘われた際に毒を盛られた、と言うことらしい。
そういえば最近殺人の方法としてあらゆる国で毒殺が流行っていると聞いた。
もし叔父様の話が本当ならわたしは相当なリスクを犯していることになる。
飛んで火に入る夏の虫、だ。
(だけど王妃が本当に毒を盛っていたとしたら王妃には何のメリットがあるの?)
大きな謎が残る。
いくら隣国とは言え、わざわざ皇帝ではなく皇女を殺める、というのは王妃側からして考えてもメリットはないはずだ。
それに、叔父様の話だと王太子に秘密裏で毒を入手させ、わざわざお姉様を殺めたと言うことになる。
お姉様は、叔父様の後に帝国史上初の女帝になる予定だったが、そのことはわたしたち皇族以外には知らされていなかったはずだ。
信用のおける宰相にでさえもだ。
叔父様の話が嘘だと考えた場合では、
お兄様は一応、教育は受けていたがあまり野望は感じられなかった。
叔父様も最初は犯人として考えたが、お姉様より先に皇帝になる予定だった上に、わざわざお父様が親睦を深めていた隣国に喧嘩を売るようなことをしても後に自分が皇帝になった時に得はないはずだ。
この時点では犯人は絞れない。
「ヴェロニカ様、殿下とのお茶会の時間になりましたのでご案内致します」
「くれぐれも気をつけてね」
帝国の姫、隣国にて謳歌する 七々扇茅江 @Dollyrose
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