美沙希には三分以内にやらなければならないことがあった

三愛紫月

告白……

今日もまた美沙希には、三分以内でやらなければならない事があった。

今日こそは、今日こそは絶対に。


遠藤えんどうさんがカップラーメンにお湯を入れたのは、つい3秒前の出来事。


「あの、遠藤さん。お話があるんです」

「何だ?カップラーメンが出来るまでなら聞いてやるぞ」

「は、はい」


そう言われて、かれこれ10秒は過ぎてしまった。

今日こそは、今日こそは伝えなければと思っている。

ただ、遠藤さんは何故かいつも時間を作ってくれない。

このカップラーメンが出来るまでの時間以外、話をする機会を与えてくれないのだ。


「早く話さなくちゃ!三分なんてあっという間にきちまうぞ」

「わ、わかってます」


私の心の準備など、遠藤さんには関係ないのだ。

今日こそ、気持ちを打ち明けなければ……。

カップラーメンが出来るまでの時間で言わなければ……。

焦れば焦るほどに、言葉がうまく出てこない。


「一分経過……」


遠藤さんは、私を見ながら呟いた。

もう、一分も過ぎてしまったの。

どうしよう。

早く言わなくちゃ……。

ちゃんと自分の気持ちを伝えなくちゃ!

何も恐れる事はないじゃない。


「一分三十秒経過……」

「わかってます」

「早くしなきゃ、終わっちゃうぞ」

「それなら、帰る時にでも」

「それは、無理だ!残業はするなって言われてるだろ?だから、俺もさっさと帰る」

「そうですよね」

「わかってるなら、早く話してくれ。かれこれ一ヶ月はずっと言ってるよな?」

「そうですね」


私は、一ヶ月前からずっと遠藤さんとこのやり取りをしている。

だけど、一度も三分以内に話せた事はない。


今日こそは……。

今日こそは言うのよ!美沙希みさき

ちゃんと気持ちを伝えなくちゃ!



「二分経過……」

「ちょっと待って下さい」

「待てないよ。待ってる間にラーメンが伸びちまう」

「で、ですよね」


言わなくちゃ……。

今日は、絶対に言わなくちゃ……。


「二分三十秒経過……」

「わかりました。言います。言いますから」

「今日は、ちゃんと伝えてもらおうか」

「はい、もちろんです」


深呼吸してから、私は息を吐き捨てるように言葉を出そうと考えた。

一言でいい。

たった一言。


「私達、終わりにしましょう」


ピピ……。

ピピ……。


「残念だったな。三分経った。じゃあ、今日もあそこで待ち合わせな」

「遠藤さん……。私、今」

「もう、話しはしないでくれ。みんなが戻ってくるからな」


遠藤さんは、私の事を見ずに自分の席に戻る。

昼食を終えたみんなが、帰ってくる。

私は、またちゃんと言えなかった。

そして、今日もまたあの場所に行かなければならない。

明日こそ、彼にちゃんと話せるだろうか?

この関係を終わらせたいと……。


妻子ある彼は、私に三分しか時間をくれない。

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美沙希には三分以内にやらなければならないことがあった 三愛紫月 @shizuki-r

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