変態魔族に転生したけど、推しを守ることにした~ついでに部下の下ネタも禁止してみた~

新条優里

第1話変態魔族転生

「よりにもよってこのキャラに転生かよ……」


 今まさに前世で遊んでいたゲーム、リザリア国伝説のヒロイン、シャルロッテ・リザリアが投獄されようとしている。


 リザリア国伝説はファンタジーRPGだ。

 シャルロッテはリザリア国の王女であり、俺の推しだ。


 美人で健気なシャルロッテに会いたいと思っていたが、本当に会うことになるとは。

 異世界転生ってやつか。


 何で転生したのかはわからない。

 前世で慢性的に疲労がたまっていたので、過労死かもしれない。


 シャルロッテが俺の目の前にいて、投獄されようとしている理由はというと、魔王軍が人間の国リザリアに侵攻した。

 奮闘むなしく、人間側の敗北だった。


 王城まで攻め入られたリザリア国は、シャルロッテ姫を囚われてしまう。

 増援が到着し、魔族は退却したが、シャルロッテ姫は魔王領まで連行されてきた。


 シャルロッテを目の前に、そのあまりの美しさに思い出してしまった。

 この世界はゲームの世界で、俺はその中の登場人物、魔王軍四天王最弱グリモリー・タンブルシャドウだということに。


 グリモリーは最弱とはいえ、一応魔王軍四天王だ。

 原作での扱いはというと、一応魔王軍四天王という立場にもかかわらず、序盤で倒されるチュートリアルキャラである。


 雑魚敵戦を経て、操作方法になれたプレイヤーが、気持ちよく勝てる程度の強さのボスだ。

 魔法の才能はあるものの、傲慢な性格で、魔法を使わずに素手で戦うという舐めプをかまし、勇者パーティーに倒される残念な敵キャラだ。


 性格はというと、下ネタが好きで、プレイヤーたちからは嫌悪感を抱かれる始末である。

 変態魔族グリモリーというあだ名は、魔族からだけでなく、人間界でも知れ渡っている。


 最期は勇者パーティーから侮蔑的な言葉を吐かれ、討伐されることになる。

 倒される前まで、下ネタを言っていたという救えないキャラだ。


「嫌すぎる……」


 魔族に転生するにしても、魔王とかになりたかった。

 救いがなさすぎる……。


 だが今は俺のことよりも、シャルロッテが気がかりだ。

 鎖で繋がれ、乱暴に牢屋に入れられようとしている。


「ふざけんな、もっと優しくしろよ」


 捕虜になっているのも納得いかないのに、乱暴に扱われて俺は腹が立った。

 だが今の俺は魔族だ。


 必要以上にシャルロッテを庇うと怪しまれる。

 悩ましい立場だ。


 今すぐに解放したいのに。

 俺が懊悩していると、オークのオークンが何故かシャルロッテに近づいている。


「ぐへへへ、おらと気持ちいことしようぜ」


「やめて! 近寄らないで!」


 オークンは何やらよからぬことをしようとしているみたいだ。

 流石にこの事態は見逃せない。


「オークン、やめろ。捕虜の扱いには気をつけるんだ」


「げへへへ、グリモリー様。グリモリー様も一緒に気持ちいいことしますか?」


 部下とはいえ、かなり引く発言だ。

 ここは俺の考えを示さないと。


「するか! 捕虜の扱いには気をつけろと言ってるんだ。人間側との貴重な交渉材料だぞ」


 本当は交渉材料ではなく推しだけど、立場上それは言えない。


「あのスケベなグリモリー様が制止してるだと。どういう風の吹き回しだ。いつもは率先して下ネタを振ってくるのに。下ネタ大好きで、その変態的な性格は部下から尊敬されているのに」


 そんなことで尊敬されたくない。

 まったく……最悪なキャラに転生してしまったものだ。


「グリモリー……? まさかあの……? 魔王軍四天王最弱で、変態魔族として有名な。私は何をされてしまうの……。あぁ、お父様……」


 推しにまで変態認定されている。

 グリモリー君、悪名轟かせすぎだよ。


 俺にもプライドがある。

 ここは訂正せていただきたい。


「シャルロッテ姫、誤解だ。俺は卑劣な真似はしない。部下にもさせない。オークン、卑劣な真似はやめろ。俺は今後そのような行為許さない」


「どうしちまっただ、グリモリー様? 魔王軍一の変態の名が泣きますぜ。その清々しいまでの変態っぷりにおらだけでなく、部下全員がついてきましたのに」


 推しの前で変態扱いするのは、本当にやめてもらいたい。

 魔王軍一の変態って何だ? 不名誉すぎる。

 だが、オークンの言い分も一理ある。


 変態キャラのグリモリーが、急にキャラ変したら怪しまれるだろう。

 ここは多少バランスを考えないといけない。


「すまない、オークン。この娘は人間側との交渉材料だと言ったが、実は違う。俺が食おうと思う。だからこの娘にストレスのかかることはしないでくれ。ストレスがかかると人間はまずくなる。ストレスのない環境で上手い飯を与え、ブクブク太らそうと思う。栄養と旨味たっぷりになってから、その娘を食うことにした」


 詭弁だが、ここは仕方ない。

 シャルロッテに危害が加わらないためには、こうするしかない。


「なるほどな、グリモリー様。相変わらずの変態だ。やっぱり食うつもりじゃないでげすか、げへへへ。デブ専ですかい、へへへ」


 オークンは何か勘違いしているようだ。

 でも、これ以上説明しても傷口を広げるだけなので、もう弁解はしない。


「そういうことなのね、外道。貴方はいつかお父様か勇者様が倒してくれるわ。覚悟しなさい」


 推しにディスられるのは正直辛いが、ここは仕方ないだろう。

 推しが目の前で凌辱される事態は防いだ。


「ふん、人間など返り討ちにしてやる。シャルロッテ姫、貴様はストレスのない環境で、旨い飯を食い、ゆっくり休むのだ。退屈な場合も言え。本など差し入れしよう。寂しかったら話相手になる。俺の魔法を見せてやってもいい。もちろん、下ネタは禁止する。女性の目の前で下ネタなど言語道断だからな。いいな、少しでもストレスを感じたら言うのだぞ。そして最期はこの俺に食われる運命なのだ。覚悟しろ」


「く……外道……」


 もちろん、シャルロッテを食うつもりはない。

 最終的には身柄を解放したいと思う。


 だが、今はこれが限界だ。

 この場でシャルロッテを解放しようとすると、部下、魔王、その他の魔族からの信用は失墜するだろう。


 今後シャルロッテを解放する方法を、模索していくことになる。

 そうすると、推しと会えなくなるが、それは致し方ないだろう。


 なるべくストレスのない環境にしようとは思うが、ここは魔王領だ。

 人間の世界に戻れたほうが、嬉しいだろう。


 そういえば、先ほどから気になっていることがある。

 シャルロッテは手錠と鎖に繋がれているのだ。

 俺はそれを魔法で破壊する。


「あ……ありがとう。でも、どういうつもり?」


 推しから初めて感謝された。

 変態と外道扱いしかされてこなかったのに。


 素直に嬉しい。

 泣いていい?


「勘違いするな。貴様をストレスのない環境で育てて食うためだと言っただろう。そのためには、その枷が邪魔なだけだ」


 本当は推しが鎖に繋がれてるのが許せないだけです。

 反射的に行動してしまったが、適当な言い訳が見つかってよかった。


 それにしても、もどかしい。

 推しが目の前にいるのに、気持ちを伝えることもできないなんて。


 本当の気持ちを伝えたいが、部下の手前それはできない。

 今はシャルロッテの環境を改善することが先決だ。

 俺はその場にいる部下に命令する。


「いいか、お前たち。シャルロッテ姫に危害を加えることは許さん。だが、勘違いするなよ、あくまでもこやつは俺の食料だ。そしてこれも命じる。これから我が軍は下ネタ禁止だ」


 俺の願いはシャルロッテに幸せになってもらうことだ。

 そして、変態呼ばわりされる俺のような悲しき存在を生み出さないことだ。


 そのために下ネタのない健全な部隊を作っていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

変態魔族に転生したけど、推しを守ることにした~ついでに部下の下ネタも禁止してみた~ 新条優里 @yuri1112

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ