第15話

 俺は、三分だけ時間を与えられていた。

 番台さんが、未来の俺の発育を堪能している時間。


 その間だけに、発育抜群女さんとの約束を果たそう。


「発育さん、こっちに来てくれ。時間が無いから、ここで一緒に歌おう。皆の方を向いて」


 発育さんを浴室の側壁へと呼んだ。

 俺の隣に寄って来る発育さん。


「透明さん、私のためにありがとうございます」


 発育さんは、律儀にお辞儀をしてくる。

 やっぱりいい子なんだよな。


 頭の発育にいくべき栄養が違う場所に行ってしまったのだろう。

 この子のせいじゃないから、責めるのは止めよう。



 俺も、発育さんに小さく礼をして、発育さんを裸のお姉さんたちの方に向かせた。


「今から、この子と一緒に歌を歌いたいと思うので、どうか聞いてください」


 足を止めるお姉さんたち。

 ちゃんと、聞いてくれるのだろうか。


「番台さんがくれた、三分だけで良いのでお願いします!」


 俺は、お姉さんたちに向けてお辞儀をする。



 数秒沈黙があったが、お姉さんたちの中から声が聞こえて来た。


「歌を歌うんだったら、良い異能力がありますよ。私、鼻歌をCD音源のように出来るんです。私が伴奏やりますよ」


 そんな異能力があるのかと、顔をあげてみると俺が覗きをしていた時に見ていたお姉さんのうちの一人がそう言っていた。

 覗こうとしても見れなかった発育を見せながら、嬉しいことを言ってくれた。

 これは、かなり助かる。

 ……色んな意味で助かる。


 恥ずかしくて、しっかりと目を見つめることができず、若干目線が下がったままだったが、お礼を言おうとすると、その隣のお姉さんも喋り出した。


「私も似たような異能力持ってますよ。三分間だけ、ボイパがすごく上手くなるんです。私がドラムをやりますよ」


 そんな能力もあるのか……?

 音楽系の異能力って、なんだかあまり役に立たなそうな気がしてきてしまうが……。

 三分間だけなら、どんな異能力でもあまり役に立たないか。


 俺の視線は、声のしたお姉さんの方へと向く。

 俺の覗こうとしていたお姉さんのうちの一人。

 やはり目線を合わせるのは恥ずかしくて、俺の視線は顔よりも下だったが、しっかりと話している相手の方を見て、目に焼き付けていた。


 三人いたOLさんの最後の一人も声をあげた。


「私は、目が光るんです。演出は任せて下さい!」


 三人ともに、異能力者だったようだが、全員能力がしょぼいな……。

 けど、俺と発育抜群女さんのために動いてくれるということが嬉しかった。


 こんな人たちと出会えて良かった。

 俺は、この人たちのことは忘れないだろう。

 しっかりと三人を見比べながらお礼を言う。


「ありがとうございます」



 目が光ると言っていたお姉さんが言う。


「じゃあ、少し電気消してきますね。番台さんいいですか?」

「おー……良いぞ良いぞ……。すごくいいぞー……」


 番台さんが未来を見ているからか、こちらの話とかみ合ってそうで、かみ合っていないな。

 何を見て、「良いぞ良いぞ」って言っているんだか……。


 お姉さんが浴室の外まで歩いていくと、電気が消された。


 そして、目が光ると言っていた異能力が発動された。

 それは、スポットライトのように俺と発育抜群女さんを照らしだした。


「それじゃあ、二人ともお願いします」


発育さんは、光の中ではにかんで言う。


「……光に照らされて。これ、とってもいいですね。じゃあ伴奏の方お願いします」


 この子は、何を歌うんだろう……。

 時間が無いのをわかって、発育さんは迷いなく曲名を宣言した。



「曲は、『サクランボの接吻☆ドカーン』で!!」


 発育さんの宣言のあと、すぐに流れ出す音楽。


 電波ソングにも種類がある。

 よくわからない歌詞を言ったりする曲。

 単調な音楽が中毒性を起こすような曲。

 そして、萌えという文化を濃縮したような曲。


 発育さんが宣言したのは、萌えの電波ソングだ。


 ……確かに、これを歌うのは勇気がいる。


 短めのイントロが銭湯の中で響く。

 ボイパも、上手いというか、本当のドラムやらパーカッションのようだった。


 発育さんがおもむろに動きだした。

 なんだろうと思わずとも、目線はそちらに吸い寄せられてしまう。


 発育さんは、ダンスを踊っているようだった。

 なんだか見たことある動き。

 この曲の振り付けを完璧に踊っているようだった。



 スポットライトが、良い感じに照らしてくれるおかげで、発育さんの凹凸が、よりくっきりと際立つ。



 発育さんは、凹凸を揺らしながら、俺に近づき腕を掴んできた。


「一緒に歌いましょ?」



 とっくに決めたはずの覚悟だったが、目の前の凹凸と同じようにブルンブルンと揺らいでしまいそうになったが、あらためて覚悟を決めた。

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