第14話

 俺は、再び追い詰められていた。


 ジリジリと迫ってくる発育抜群女さん率いるお姉さん軍団。

 何度か見た光景のような気もするが。


 こんなに多くの発育が迫ってくるのは、意外と威圧感がすごいんだよな……。


 お姉さんたちの威圧感に、俺は銭湯の側壁に追い詰められていた。

 俺の前方から迫ってきていたお姉さんたちは、180度俺の周りを取り囲んだ。


 時間が無いぞ……。

 逃げる時間を考えると、これが最後のチャンスかもしれない……。


「発育さん……。お願いだ……。俺の心を読んでくれ……。どうか頼む……」


 それでも、頑なに発育さんは答えてくれないようだった。


「ダメです! ‌私は、歌いたいんです!」


 いくら言っても、発育抜群女さんは、説得に応じてくれない。

 もう時間が無い……。

 発育さんの隣にいる番台さんが高笑いしてくる。



「ははは。元仲間だったかもしれないが、もう終わりだな。悪あがき、ご苦労さま」


 ジリジリとお姉さんたちが迫る。

 番台さんは勝利を確信したのか、にやりと笑った。


「せっかくここまで頑張ったみたいだから、全力でトドメを刺してやろうかな。絶対に逃げられないように……」



 番台さんは、立ち止まって仁王立ちをする。



「私の異能力を発動させてやる。今から三分後のお前の未来を見てやるよ!」


 番台さんには、そんな異能力があったのか……。

 万が一逃げることが出来たとしても、それを先に阻止されてしまうってことか……。

 くっ……。


 番台さんは、「ふんっ!」と目を見開いて気合いを入れた。

 数秒力んでいた番台さんの険しい顔が、段々と緩くなっていった。

 そして口を開く。


「おぉぉぉ……。これは、良い未来だ。お前の発育は、やっぱりすごいな……」


 番台さんは、こちらを向いているが、何か違うものが見えてるようだ。

 番台さんにだけに見える景色を見て、ニヤニヤしている。

 変態という言葉が似合いそうな様相を呈している。


 しばらく番台さんのニヤニヤした顔での仁王立ちを見せられた後で、番台さんは少し顔を引き締め直した。


「やっぱりお前は、このまま何もできないで私たちに捕まる。その後、ここにいる全員から観察される運命だ!」


「……そうか」


 未来を見れたのなら、それはもう覆らないだろう……。

 このまま悪あがきしても往生際が悪いな……。


 最後くらい、潔く終わろう。


 俺は透明状態を解除した。



 そうすると、再度、黄色い歓声が湧いた。

 お姉さんたちは、キャーキャー言いながら俺の方を見たり、恥ずかしくなって他所を向いたりしている。

 その中で、発育抜群女さんだけは、真っ直ぐに俺の目を見てくる。


「透明さん、もう逃げないでください!」


 悲しそうな顔をして、そう言う発育さん。

 俺も、発育さんの方を真っ直ぐ向いて答える。


「あぁ、もう逃げない。俺は潔く捕まるよ。残念だけれども、君との今日カラオケに行く約束は守れそうにない……」


 発育抜群女さんは、肩を落とす。

 心なしか、発育部分も垂れてしまっているような気がした。


 けれども、約束は叶えてあげたい。


 もし、発育さんと会えるのが、これが最後になってしまうのだとしたら。

 俺は、最後に元気な発育さんを見たい。


 元気の良い発育さんを見たい。




「……カラオケには行けないだろうから、今歌ってくれないか?」


 俺の発言を聞いた発育さんは、驚いて周りをキョロキョロと見回した。

 そして、少し怒り気味で俺に言ってくる。


「そんなこと出来るわけないじゃないですか……。こんな大勢の前で……。私の歌いたい歌。電波ソングを歌うなんて……」


 そう言われるだろうと思ってはいたけれども。

 俺は、発育さんの望みを叶えるために、さっき発育さんから聞いた『謎論理』を言ってあげる、


「みんなで裸を見せあった仲じゃないか。これ以上恥ずかしい事なんて無いはず。今の君なら、この人たちの前なら歌えるはずだ」


 俺は、発育さんに力強く頷いて訴えた。

 発育さんは、目からウロコが落ちたように、びっくりしていた。


「確かに。そうかもしれないですね……」


 俺は、この場を支配している番台さんへと最後のお願いを伝える。


「番台さん。俺を捕まえる前に、一曲だけ歌わせてほしい。発育さんと歌を歌わせて欲しいんだ」


 真面目なお願いであったのだが、番台さんは、俺の話には上の空のようだった。

 発育さんだけが見える、未来の俺の発育に夢中になっているようだった。


「あぁ。この能力の効力が消える三分間だけなら良いぞ」

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