第4話

 裸の少女に、俺は見つかってしまったらしい。

 ……マジか、俺が見えるなんていうことがあるのか?


 それにも驚きだけど。

 この子、裸を見られているのに、全然恥ずかしがらないんだな。


 俺からは、この子の裸姿は全部見えてる状況なんだけれども。


 なんだろう?

 もしかして、見せつけられているのかな?


 そうだとしたら、逆に俺の方が恥ずかしくなってくるな。

 少女は、俺の位置が正確にわかっているようで、俺に真っすぐ近づいてきた。


 俺は、もう終わりなのかもしれない……。



 その時、少女の後ろから声が聞こえてきた、


「待ちな!」


 女湯の入り口から、番台さんがやってきて、少女の手を掴んだ。


「皆さん、心配なさらずに。変質者は私が捕まえましたから」

「え、ちょっと、私は変質者じゃないわよ! 覗きがいるの。私じゃないわよ!」


「黙りなさい発育抜群女。ここは私の銭湯なの。問題起こすんじゃないよ」

「なんでよ、私は悪くないわよ。私は正義の味方なのー!」


 少女は、じたばた暴れながら、番台さんに連れていかれた。


 発育抜群女……。


 確かにその通りであった。

 捕まれた手を振りほどこうと、ブルンブルンと発育を揺らしながら女湯を後にした。


 俺含め、周りの人たちは呆気に取られていたが、少女がいなくなったことで、落ち着きを取り戻していた。


「……何だったんだろうね」

「とりあえず、なんでもなさそうで良かったー」

「確かにあの子、いきなりバスタオルをはだけさせて騒ぎ出したし。あの子が問題だったってことよね」


「「ふぅー、一件落着!」」


「「あ、声揃った。はははー!」」



 女湯は、まったりとしている。


 助かったけれども、俺もそろそろ出ないといけない時間だ。


 他のお姉さんの発育を拝めなかったのは、残念だけれども。

 俺もこの機に乗じて逃げた方が良さそうだ。


 番台さんが良いタイミングで来てくれて良かった。

 助かったぜ……。


 俺は、湯からあがると、そそくさと女湯をから出た。

 透明なので、俺の身体は周りの人から見えないけれども、なんだか前を隠したくなってしまう。


 この気持ちは、体験したやつにしかわからないだろうな……。

 よく自分のモノを見せたがるような変質者がいるけれど。

 その気持ちはわからないな。


 あの少女とは、相容れないかもしれないな……。

 そんなことを思いながら、番台さんが開けていった入女湯の入口をくぐる。


 脱衣所には、さっきの発育抜群女がいた。

 裸のまま、発育抜群女さんは、柱に括り付けられていた。

 柱を後ろ向きに抱きかかえるような、手と足を身体の後ろ持っていかれて、結ばれていた。


 ちょうど、二人組で腰回りのストレッチをするときのような。

 なんだか、胸を突き出しているような、背筋をピンと張らされて、柱に括りつけられていた。


 立った状態で、なんだか全身を見せつけられるような、辱めに合っているような。



 全く動けないようで、少しだけ体を横に揺すっているが、手と足は自由にはできないようで。

 ただただ、発育の方が自由に揺れるだけであった。


 これは、かわいそうだな……。

 口もガムテープでふさがれているし。


 なんの見世物だろうと思ってしまう。

 何も覆い隠すものは無いって、すごい恥ずかしいんだろうな。

 同情しちゃうな……。



 いや、けど、よく見ると、髪の毛だけは先ほどと同様、バスタオルにまとめられている状態。

 隠すところが違うのではないでしょうかとツッコミを入れてくなってしまうような状況。


 頭隠して、全身隠さず。

 ミロのビーナスも下半身は隠しているというのに。



 俺は、長々と脳内考察を垂れ流すくらいには、裸を堪能させてもらった。


 かわいそうなので、さすがに声をかけたくなってしまうが。

 番台さんが、男湯と女湯の間の席から発育抜群女に話しかける。


「後で話しを聞いてやるから、ちょっと客入りのピークが収まるまで待っておけ」

「んーんーー!」


 口はガムテープで塞がれているので、喋れないでいる。


 番台さんには、俺のことはバレていないようだし。

 このまま、ずらかろう。


 ふと、発育女と、目が合うけれども。


「んーんーー!」


 俺に対して、怒っているんだろうな。


 申し訳ない。


 発育さん。

 またどこかで会いたいです。


『どこかで』ではないか。

 また、この銭湯で会いたいです。


「んーー!!」


 そんなに、叫ばないで欲しいな……。

 良い身体だと思うよ。


「ん一」


 発育さんは、動けない身体でうんうんと頷いていた。


 しっかりと目に焼き付けておこう。

 ありがとうございます。


「ん!」


 発育さんは、「良し!」っていう感じで、一つ大きく頷いていた。

 なんだか、俺の考えが通じているみたいだな。


 お礼を言ったら、それに応えてくれたみたいな。

 やっぱり、いい人っぽいし。


 またどこかで会いたいな。

 身体付きも良いし。


 ……っていかんいかん。

 そろそろ、本当に異能力が切れちゃうか。


 もともと、男湯の脱衣所にもろもろの服とか置いてあるから、そこに戻ろう。


「んー!」


 俺は、走って男性の脱衣所に駆け込む。

 すると、ちょうど透明状態が解けた。


「ふう……。どうにか間に合ったな」


 せっかくだから、一風呂浴びていくかな。

 すごく冷や汗もかいたし。


 一仕事終えた後のような、すがすがしい気分だ。

 そんなときの風呂は格別だもんな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る