第2話

 私には三分以内にやらなければならないことがあった。


 異能力というものが、この世界にはあるのだ。

 異能力は、人によって色んなバリエーションを持っている。

 便利な能力も多いけれど、どの能力も発動できる時間は、一律で全て三分間だけと決まっている。


 一日に三分間だけ。


 それが、異能力のルール。

 だから私は、異能力が発動してる三分間でやらなければならなかった。



 ◇



 金曜日の夜のこと。

 一週間の疲れを癒そうと銭湯に来てみたのだが、女湯に男が入っているようなのだ。


 私は、バスタオル一枚で、意気揚々と大浴場に浸かろうと、ウキウキだったのに。

 銭湯の中は、まったりとリラックスムードが流れているのに。


 女性だけの、癒しの空間のはずなのに。



 男が女湯に入って、周りの誰も気付かないというのは、不思議だろう。

 けど、気付きようがないのだ。


 なぜなら、男は透明だから。

 姿は誰にも見えないのだ。


 私だけが気づくことができた。



 三分間異能力。

 異能力が発見された時に、付けられた総称だ。


 私もつい最近、三分間異能力に目覚めたんだ。

 私の能力は、人の心が読めること。


 三分間だけ、人の心が読めたところで、あまりメリットは無いんだけどね。

 勝負事で使えそうと思われるかもしれないけれど、心の思いというのは、いつも行動を起こす直前にしか想起されないという事が分かったの。


 例えばジャンケンをする時でも、手を出す瞬間にしか自分が出す手のことを考えてはいなかった。

 考えずに出すやつの多いこと……。

 何も考えていないんだなっていう……。


 出す瞬間に相手の出す手が分かったところで、私自身の出す手は変えられないのだ。

 直前過ぎて、手が動かない。


 だから、あまりジャンケンとか勝負事で、相手の手を読もうとしても、意味が無いんだ。



 そんな心を読む能力。

 意味が無さそうに言ってる、この異能力だけれども、便利な所はある。

 天井や壁なんかも通過して、相手の心が読めることだ。

 障害物がいくらあっても心が読めるし、どのくらい人がいるかというのが一目瞭然なのだ。


 どちらかというと、心を読むというよりも、生物認知能力といった方が良いかもしれない。

 スーパーのレジに並ぶ時は、どの列に並べばいいか、すぐ判断出来る。

 そういうところは、良い所は便利なところかな。


 そういう能力を持っているから、私にはわかったのだ。

 ここに、男がいることが。



 ◇


 家のお風呂が壊れてるからって、最近は銭湯に来ているのだ。

 金曜日は特に、風呂に入って土日に備えたい。

 土日は、友達と遊びに行くからね。


 今日は特に綺麗にしておかないとと思って。

 入念に髪の毛や、身体を洗って。


 いざ、大浴場へとやってきたところ。


 その前に、最近使えるようになった異能力を発動させた。

 あまり日常生活で使うことは無いんだけれども、今日は銭湯で使ってみた。



 風呂上がりにコーヒー牛乳を飲むのが、最近のマイブームなのだ。


 だけれども、女湯に入る前に確認した時には、今日は残り一本だけだった。

 今日は、絶対に飲みたいのだけれども、せっかくなのでゆっくり湯船にも浸かりたい。


 だから、コーヒー牛乳を飲みたい人が現れるまで湯に浸かろうと思って能力を発動させたんだ。

 コーヒー牛乳を飲みたい人が現れたら、その人より早く出て、私が先に買おうと思って。


 それで今に至るという訳だ。



 ◇



 驚いた事で、私はバスタオルを落としてしまった。

 第二次成長期で成長した部位があらわになって、揺れているのは分かる。

 けど、驚いてしまって、身体が動かなかった。


 湯の中に、幽霊がいるかと思ったから。

 何も無いところから、心の声がするのは初めての経験だった。



 けど、よくよく心の声を聞くと、そいつの考えはただの覗きのようだった。


「(なぜ目が合うんだ? ‌俺が見えるとでも言うのか?)」


 正直、こいつのことは見えはしない。

 けど、そこにいるのは分かる。


 私は立ちすくんでいた。


「(中々の物をお持ちで……。順当な成長を果たしている。けど、まじまじと見るのも良く無い……)」



 私の頭の中に、考えが流れ込んでくる感じで、心が読める。

 こいつは、意外と真摯なところもありそうなやつかも。


「(顔も中々のタイプだ。化粧もしていないのに、これは、すごく可愛い)」


 なんか褒めてくれるし……。

 もう少し、観察してみよう……。



「(けど、なんだかこちらを見ているのか……。目をそらさないと……)」



「(……眼福)」



「(……いかんいかん。まじまじ見てしまうのは失礼だし……。あ、目が合った。目をそらさないと……)」



「(……眼福)」



 こいつは、見てて飽きないかもな……。

 変な奴だけれども、そんなに悪い奴じゃないのかも……?


「(……いや、けど、俺のことがバレるはずはない。せっかく色んなお姉さんもいるから、そちらを見ておかないと)」


「(……うーん。やっぱり、さっきの少女の方が良い)」



 私のことを褒めてくれるあたりは、同情の余地はないではないけれども。

 けど、覗きは覗きだ。

 現行犯で捕まえないと。


 私も、三分間しか心を読めないけれども、こいつも三分間しか透明で入れないはず。

 私は、声をかけた。


「おい、覗き! そこにいるのはわかってるぞ! 早く出てこい!」

「(やばい、俺のことバレてる……?)」

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