タイマーが鳴り終わる前に
藤塚マーク
短編
ウルトラなメンには三分以内にやらなければならないことがあった。
「ジュワッ!」
怪獣退治である。
赤と白のピッチリボディに、胸のあたりでピコーンピコーンと鳴っている謎のタイマー。のっぺりした宇宙人みたいなマスクの、なんかどっかで見たことある巨大なヒーロー。それが彼だ。
似たような姿の他ヒーロー達からは、『メン兄さん』と親しまれている設定だ。
「ギャオオオオオ」
「ジュワッ!」
彼には三分以内にやりたい事があった。
トイレである。
実はもうさっきからぎゅるぎゅるとお腹のタイマーが鳴り始めている。
これが鳴り終わる前に怪獣を倒さないと、どえらい事になってしまう。
なりふり構ってはいられない。
――ゴォォォォ!!
怪獣が熱線を放ち、メン兄さんは指の隙間からぴゅーっと水流を出して対抗する。
設定上では数十万度くらいありそうな熱線に対し、ぴゅーって感じの水流が拮抗してるのはどう考えてもおかしいが、気にしてはいけない。
そもそもその水どっから出てるんだよと突込み所はあるが、考えた方の負けだ。
「ジュワッチ!」
水浸しになったコンクリートを踏み砕きながら、メン兄さんは怪獣へ掴みかかる。
そのままプロレスのような取っ組み合いとなるが、腹に力を入れてしまった為、お腹のタイマーが急速に早まった。思わず怯むメン兄さん。
その瞬間、負けじと怪獣は再び熱線を放射し、メン兄さんはそれを脇腹に掠めながらやり過ごす。
「アッッチ!」
東京が火の海になった。
そのまま地面に足型を残し、メン兄さんは掴んだ怪獣を持ち上げてグルグルと放り投げる。ケツからなんか出そう。
「ギャオオオオオ」
怪獣が落ちるのと同時に東京スカイツリーがへし折れた。
そのまま追撃と言わんばかりにメン兄さんが駆け寄るが、倒れた怪獣を見てハッとなる。
「ヘアッ!?」
よくみると怪獣のケツにスカイツリーがぶっ刺さっていた。
これはいけない。
「はいカットカット! ちょっと大丈夫か村山くん!?」
映像研究会の部長である監督が声を張り上げ、撮影が中断された。
部長は心配そうに怪獣の着ぐるみに駆け寄り、メン兄さん役を含めた周りの部員たちもそれに続く。
よく見ると着ぐるみの裏側はツギハギだらけであり、先程まで戦っていた東京の街も、少ない部費で用意したセットである事が伺える。
「うぅ……」
怪獣役の村山くんがケツを抑えてうずくまる中、それを心配する部員たち。
そんな中、メン兄さん役の彼は無言でスーツを脱ぎ捨て、その場から駆け出した。
「先生を呼びに行ってくれるのか!?」
その問いかけに、ヒーロー役の彼は背中で返す。
事態は一刻を争う。
放課後の廊下を駆け抜け。
階段を飛び降り、汗と苦痛に表情を歪ませながら、彼は懸命に走る。
そして、
「まに、あった……!」
彼は職員室を素通りすると男子トイレへ駆け込んだ。
タイマーが鳴り終わる前に 藤塚マーク @Ashari
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます