バッファロード 【KAC20241+ 参加作品】

杉戸 雪人

バッファロード

すべては一匹のバッファローから始まった。

1000頭もの群れハード超巨大積乱雲スーパーセルから逃げ惑う中、彼だけはそのとぐろを巻いた龍のごとき天災を睨みつける。


《人間達によって多くの仲間たちが角を折られ、皮を剥がされ、肉をむさぼられてきた。そして今、天までもが我々から居場所を奪うというのか――》


そうだと言わんばかりに雷鳴が轟き、何本もの雷が大地に突き刺さった。

暴風雨の中、追い打ちをかけるように氷のつぶてがバッファローたちを傷つけてゆく。


「もぉぉぉーッ!!」


聞こえるのは、仲間たちの叫び――この世界への絶望。


《我々を壊すな》


そのバッファローはえた――ライオンよりも強く、像よりも大きく。

それを黙らせるかのように巨大なひょうが二本角の間――ひたいに迫るが、彼は動かない。


《世界が我々を壊すというのであれば――》


怒号のような嵐の中で、直径50㎝にもおよぶ氷塊が粉々に砕け散る。


《――我々こそが世界を壊す》



その日、世界に特異点が生まれた。

王の水牛バッファロード――そして、彼を長とする千の牛群ハード・オブ・サウザンズである。


王が振り返ると、そこには既に恐怖を破壊した千の戦士達がいた。彼らは天を見上げて同時に咆える。


「もおおおおおおおぉぉぉぉッ!!!」


雨、風、ひょう――いかずちすらも砕き、天にうごめ超巨大積乱雲スーパーセルに全軍で猛進する。空間を破壊し、逃げ場を失った巨大な暗雲の龍スーパーセルすらも破壊した。


中天を穿うがち、太陽の眩い光が千の牛群ハード・オブ・サウザンズに降り注ぐ。


《王よ、あれも破壊するのか》


太陽を睨みつけ、戦士達が一斉に吠え出した。その目は血走り、破壊への衝動を抑えられずにいる。


王は応えた。


《あれは壊さぬ――壊すとしても、今ではない》


王の水牛バッファロードは角を大きく振り上げ、彼らの『無知』を破壊する。

すると荒くれの戦士達の目が、洗練された近衛兵のものに変わった。


《次に壊すのは――》


王は背を向け、遥かな大地の先に広がる世界を見据え、進むべき道ロードを示す。


《――人間だ》



全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れによって、大陸の全土が更地となるのにかかった日数はわずか七日間――この七日間は破壊の日々デイズ・オブ・デストラクションと呼ばれ、人類に対して致命的な恐怖を与えた。


《何をしようと……もう遅い》


バッファローという存在の定義は既に――――破壊された。

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バッファロード 【KAC20241+ 参加作品】 杉戸 雪人 @yukisugitahito

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