口は災いの元 (後編)

卒業まであと6日。

悪口の矛先は数人の男子にも向いた。

それも陽キャに部類される人達。

中には勿論、治安の悪い人もいた。

性格は優しく、目立った悪行もなかったため、恐らくつるんでる人が悪いのだろう。

ここではその男子を男子Aと呼ぶ。

男子AはYさんに直接聞くことにした。

動機が怒りからなのか、ただの好奇心なのかは彼にしか分からないが、なんとなくは予想がつく。

その後直ぐにYさんのもとへ行き、詰問が始まった。

誰もが長期戦になると思っていたが、あっさりと罪を認めた。

そして、その圧に屈し泣いていた。

Yさんは既視感のある様子でトイレに直行した。

次の授業の先生が、何かあったの?と聞くも、被害者同士に目を合わせて不敵な笑みを浮かべるだけだった。

数分経った時に、男子AとMさんも呼ばれて、3人が別室に行くことになった。

これにて万事解決。

誰もがそう思った時だった。

泣かせた男子Aと泣いたYさんは普通の顔と化粧顔で戻ってきたのだが、Mさんは目に涙を浮かべながら帰ってきた。

全員が状況を読み込むことが出来ず、真相は後日に持ち越された。


卒業まであと5日。

「結局どうなったの?」

ほとんどの生徒は他人事だと思っており、どこか楽観的だった。

その日は朝から事情聴取が始まった。

担任がMさんとYさんを別室に連れて行き、その後に1人、悪口を言われた女子が入っていった。

30分程経った頃、次の人が呼ばれた。

どうやら最初に呼ばれた女子が、被害者全員に説明するよう要求したらしい。

その後も数珠つなぎで人が呼ばれていった。

人によっては1時間近く聴取する者もいたため、だいぶ時間がかかった。

授業が終わり、最初に呼ばれた女子の周りに人集りが出来ていた。

かという僕も気にならない訳がなく、耳を傾けていた。


「ほとんど嘘だったんだって」

女子の第一声に困惑しながらも、何とか理解しようと試みたが、意味がわからなかった。

それに対して他の女子が言及した。

「どういう事?」

「ほぼMさんの作り話なんだって」

中にはMさんと仲良くしていた女子もいたため、ショックなのか怒りなのか定かでは無いが、涙を流す者もいた。

それでもやはりおかしい。

感じた異変は、事象ではなく雰囲気だ。

どことなく異質な雰囲気を発していた。

トップバッターの女子が放つ空気が、Yさんに向かった敵意を感じさせた。

誰もがそれを感じ取っていたらしく、直ぐにMさんが悪とは決めつけることは出来なかった。

教室はその話で持ち切りになり、状況は混沌としていた。

まさかの展開に僕も驚きを隠せなかった。

同じように興奮も抑えられなかった。


事情聴取が進む中で、言いたいことを言えずに泣いてしまう人もいた。

漸く男子のターンに切り替わり、またもや1人ずつ別室に消えていった。

僕は間接的にしか関わっていないため、呼ばれることは無かった。

それでも結末が知りたかったので、放課後も残り、皆を待っていた。

待っている中でも様々な真相が浮き彫りになった。

Yさんは無関係では無い。

愚痴を零していたこと自体は事実だった。

そして何より、Yさんが皆に不快感を持たせたのか。

とにかく逃げの姿勢をとっていた。

「一軍気取りって聞いたんだけど」

と、ある女子が聞いた。

「一軍っていうのは私の中では憧れで、そんなつもりはなかったんです。気を悪くさせてしまったならごめんなさい」

読者には1度想像してもらいたい。

ぶりっ子と呼ばれる女子の口調を思い出してくれ。

まさにそれだ。

Yさんは何に対してもぼんやりとしか回答せず、皆納得出来ず、モヤモヤが心にしがみついていた。


どうやら、僕と仲の良い被害者の男子が、

「夏芽も話すことがある」

と、説明してくれたらしい。

他にも世話になっている部分もあり、常々感謝している。

完全下校時間を越えようとしているとき、担任が戻ってきた。

「まだ話し足りないことがある人、廊下に出てきて」

仲の良い男子の説明もあり、僕もそこに参加出来た。

「この中で、どうしても今日中にって人はいる?」

今日は金曜日、逃してしまえばはぐらかされると考えたのだろう。

全員が挙手した。

早い者勝ちということで、僕が最初に質問しに行った。


まあ、なんとおぞましい雰囲気なのか。

僕の語彙では説明できない空気感だった。

恨み、妬み、などという、負のオーラに包まれていた。

教室とはまるで別世界。

学校内では少し大人しめなキャラクターを被っているつもりで生活している。

そんな建前もどうでも良いほど、好奇心が勝っていた。

僕は普通に質問した。

「俺とあの子がどうこうっていうのは何?」

Mさんはこう答えた

「Yさんから聞いた」

それに対してYさんは

「そんな記憶は無い」

僕は難しい理論ゲームでもやっているのかと錯覚した。

今度は少し高圧的に

「本当に?」

と聞いた。

だが答えは変わらずだった。

この調子だと埒が明かないため、内容を変えた。

「なんでこんなことしたの?」

とMさんに投げかけた。

「Yさんと上手くいってなくて、それの僻み」

あとはストレスどうこう。

ごにょごにょと声が小さかったので

「声を大きくしてくれるとありがたい」

と指摘したら素直に大きくした。

Mさんに質問している時、Yさんの表情も注意深く見ていた。

どこか他人事というか、当事者意識が欠けてるというか。

今まで質問した女子が不平そうなことを言っていたのも納得ができるものだった。

次はYさんに質問した。

「みんなの予想だけど、多分無関係じゃないんでしょ?どこまでが本当なの?」

Yさんは目を泳がせながらしどろもどろに答えた。

「私はほとんど言ってなくて、でも悪いとは思ってるよ?」

なんだそのハテナは。

その後は誤魔化され、話をすり替えられるなどとまともな質疑応答にならなかった。

後ろに人がいることもあり、モヤが残る状態で小部屋を後にした。


高圧的に行ったのはまずかったか、と考えながら教室に向かった。

全員の話が終わり、もう帰ろうという話になったが、納得している生徒はひとりも居なかった。

中には友達を悪く言われたことが悔しいくて涙を流す大きな正義の持ち主がいたり、中途半端な謝罪に腹をたてる者もいた。

学校の外を覗くと、一面暗闇であり、非日常を感じて興奮していた。

皆もそれを見て、少しは気が楽になったように思えた。

皆も最初からMさんとは仲が良かったため、許しはしていないだろうが、反省の涙を見て同情していた。

結局、Yさんが後々になり罪を半分認めたことで、火に油を注ぐ自体となり、最初の構図と同じく、約10人のヘイトはYさんをに向く事になった。


卒業最後の思い出にしては、暗く、重いものになってしまったが、こうしてエッセイとしてかけていることが嬉しく、何より、良い人達に恵まれているな、と実感した。

青春にしてはどす黒い青だが、こういうものもありだと感じた。

高校にまで上がり、同じような事件が起きてしまったら、人間不信まっしぐらだ。

卒業まであと数日。

今後の展開が楽しみだ。

「口は災いの元」

不用意な悪口は吐かぬように。


ご精読に感謝する。

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某中学校事件簿 染 夏芽 @if-if

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