世界の住宅事情―800字異世界旅 Ⅱ ―

かこ

◇◇◇

 いろいろな国を旅すれば問題になってくるのは食べ物と宿だ。どちらも金がかかる。

 そこそこなら問題はない。 カワウソ精霊ゲンが食べ物ほしさに水を操る能力を活かして噴水を作り水流で上空などに円を描くショーを行うからだ。

 手にいれた貨幣で目新しい食べ物を買い集め、一人リノ一匹ゲンで品評会をするのが何よりの楽しみだ。

 問題は宿だ。その日暮らし状態なので高価な宿をとるわけにもいかず安宿の方が文化を知る機会も多い――安全であればの話だが。


 沼蛙の大合唱を目的にラグ諸島に航ったリノとゲンは、二週間は滞在することを決めていた。島ごとに模様の異なる織物があると知ったからだ。

 一番大きなトト島を拠点にするために、快適で安全な贅沢を言えば面白い短期滞在用の住宅・・を探している。宿より安く済むのが利点だ。

 不動産で何件か見繕ったリノ達は地図を頼りに街道を進む。

 リノの足元で歩いていたゲンは彼女の肩口までのぼり、メモを覗き見る。


「デカい実でできた家は拒否する」

「大鎌アリに囲まれて出ていけって言われたもんねぇ。私は珊瑚礁の家はやだなぁ」

「潮の満ち引きで危うく溺れそうになったからな」

「そうそう。面白いと思ったんだけどなぁ」

「お主の懲りない好奇心には感心する。悪運がなければ家ではなく墓になるぞ」

「気を付けまーす」


 一件目 裏通りに面した雨漏り跡のあるアパートの一室。隣からは罵声が聞こえる


「ないね」

「ないな」


 二件目 海に浮かぶ家


「ここに来るまでがカヌーじゃなければねぇ」

「わしは構わんぞ」

「そりゃ、ゲンさんはね……トイレもないみたいだし」


 三件目 郊外にある一軒家


「わ、すごい。屋根付のベランダラナイがある! シャワーは水だけど竈で沸かせるしトイレもきれい!」

「この価格で条件がよすぎないか。雨の匂いがするし」

「おっかいしなぁ。雨漏りの跡なんてないのに……いっか。ここにしよ」

「まぁ、リノがいいなら」


 雨が降るとラナイで沼蛙の大合唱が始まると知るのは夜も更けた頃だった。

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