この闘い、三分以内に終わらせる
ヘイ
インスタント食品オタクロボットパイロット
男には三分でやらなければならない事があった。
準備を終えてから途端に入った緊急の仕事。
『敵は十機、倒せるかアクィラ』
宇宙平和維持機構、UPO。
コスモスーツと呼ばれる巨大人型兵器に乗り込み、宇宙の平和を乱す賊を武力制圧する部隊、チームCが存在する。
「三分以内にケリをつけます」
そのチームCに所属する隊員は現在五名。アクィラ・ルピナスはその内の一人である。
『やる気だな、アクィラ』
「アクィラ・ルピナス────出ます!」
アクィラ・ルピナス。
類稀な身体能力、反応速度、判断能力の速さでチームCの隊員に抜擢されたエリート中のエリートである。
「…………」
十機の違法コスモスーツを相手取り三分以内で決着させるには、余程の実力差と兵装の差がなければならない。
『だがアクィラ。チームCのコスモスーツの装備では……』
三分以内は厳しいだろう。
捕獲が優先され、殺傷力の高すぎる兵器は使えない状態を強制されるのだから。
「三分以内に終わらせます」
アクィラの宣言に唾を飲む音が返ってきた。
『君がそう言うのならば、君はそうするのだろう。だが無理はするな』
「わかってます」
アクィラの目に敵方のコスモスーツが入った。それは向こうも変わらない。戦闘態勢。
「三分だ」
三分で終わらせる。
終わらせなければならない。
アクィラはこの三分が人生に於いて最も重要な時間であると理解している。
「……殺しはしないが、手加減もしない」
超高速機動。
超精密動作。
アクィラの動きはこの場に居たコスモスーツ搭乗者の誰よりも優れていた。
『す、すごいぞ! アクィラ、一分も経たずに半数を無力化とは!』
「…………」
アクィラが急ぐのは理由があった。
「俺の贅沢を、邪魔しやがって」
三分。
それはつまりインスタント食品が出来上がる時間である。本来であれば待ち遠しい三分間。それが何故か、ここまで急かされなければならないのか。
僅かな苛立ちと焦りもある。
だからと言ってアクィラの乗るコスモスーツの動きにミスはない。
プロだから。
「オラァッ!」
殴りつける。
電子制御を奪う銃で機能を停止させる。アクィラの能力は今この瞬間、最大で出力されていた。
「十機の捕獲を確認。帰投します」
アクィラの言葉に『確認した。凄まじいぞ、アクィラ! 二分四十二秒だ!』と興奮した様な声が返ってくる。だが、彼にはそれどころではない。
コスモスーツ保管室にて完全に停止させ、自室に早足で向かう。
「俺の、インスタントラーメン!」
アクィラはインスタント食品オタクであった。つい先日に立ち寄った惑星で買ったタコラーメンを物珍しさで購入した。次にこのタコラーメンが手に入るのはいつになるかわからない。
宇宙は広いから。
「おかえり〜、アクィラ。ずずず」
部屋には何故か。
本来なら居るはずのない女性が箸とカップを持ち、何かを啜りながらちょこんと座っていた。
「インスタントラーメン放ったらかしで行くのはヤバいよ〜?」
「…………」
アクィラは無断の訪問者、ルイ・カナンに近づき頭を掴む。
「へ?」
ギリギリと力を込めていく。
「あ、イダダダダ!!! や、やめろっ! ご、ゴリラのパワーでやられたら頭潰れるからぁ〜!!」
アクィラの史上最高の三分の奮闘はたった一人の仲間のせいで無駄になってしまったのだ。
この闘い、三分以内に終わらせる ヘイ @Hei767
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