田中の告白

@nullpos

田中の告白

 田中には三分以内にやらなければならないことがあった。


 時間にはもう少し余裕があったと思っていたのだが、気付けば刻限が迫っている。

 玄関の姿見で自分の格好を確認し、靴を履く。


 田中は、今日。

 幼稚園から高校生に至る今までずっと仲の良い、隣の家に住む幼馴染の少女に告白すると決めていた。



 ――田中は少女と仲が良く、実際に交際こそしていないものの男女にして親友のような関係であった。

 思えば小学生時代からすでに少女に想いを寄せていたが、タイミングがなかったのか、あるいは今の関係を壊したくなかったのか。

 自問しても答えは出ないが、とにかく田中は今まで告白をしてこなかった。


 小学生時代、友達に少女との仲をからかわれたことで恥ずかしくなってしまい、そっけない態度を取ってしまったこともあった。

 その気恥ずかしさは覚えているが、気がつけば何もなかったかのようにいつも一緒に遊んでいた。


 中学校に入るとクラスも分かれ、部活も男女で別になってしまった。

 しかし少女は、女子の方が少し早く終わるにもかかわらず、男子が終わるまで待っていて、一緒に帰ることも多かった。

 一時は少女がとある先輩と付き合っており、先輩が終わるのを待っている、などという噂も立っていた。

 どうしても気になり、田中の自室で一緒に遊んでいる少女に、先輩との噂があるけど自分と遊んでいてもいいのか、と聞いてしまったこともあった。

 少女は笑いながら、「告白はされたけど、田中がいるのに誰かと付き合うわけないでしょ」と答えた。

 その時は安堵感で気付かなかったが、思い上がりでなければおそらくこの時、少女も田中に好意があることをそれとなく伝えてくれていたのではないか、と思う。


 結局そのままの関係で中学校も卒業した。

 少女は何度か告白を受けたそうだが、すべて断ったらしい。


 高校時代。

 そこの高校の制服がかわいいという理由で入りたがった少女に誘われ、田中は少女と同じ高校に進学した。特に行きたい高校などを考えていなかった田中が、好意を寄せる少女に誘われて折れるまで一秒もかからなかった。

 高校生にもなった。男女交際も当たり前の世界になっている。今こそ、少女にきちんと告白し、交際を申し込もう。

 そう思っていた矢先、衝撃のニュースが報道され、学校は休校になった。



 ――彼女は今日、家族と家で過ごしている。

 この後家に行くことも連絡し、驚かれたが、許可も得た。

 親にも最後の挨拶をした。

 後は田中自信が彼女に告白をした後、どんな返事が来ても受け入れる勇気を持つだけだ。


 玄関を出て、隣の家へ向かう。


 巨大天体が地球に衝突するまで、あと三分。


 願わくば。

 最後の瞬間は、ずっと大好きだった彼女と過ごせますように。

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