【オマケ:メイドと騎士のはじめての夜】※性描写有

 婚姻の儀、平たく言えば結婚式が終わった後、親族縁者一同を招いての宴会が夜通し続くのが、この地方の結婚時の習慣ならわしだった。


 宴の席では、周囲の皆に冷やかされつつも祝福される新婚夫婦──メイドのハンナと、その夫となった陪臣騎士のタスラムだったが、日が暮れると共に、新郎新婦は宴会場から退席することが許される。

 もちろん、新婚初夜の夫婦の営みをするためだ。


 その際に同じ家に住む家族と鉢合わせしたり、“してる時の音”を聞かれると気まずいだろうから──というのも、徹夜で宴会が催される理由のひとつだ。

 まぁ、デバガメをする人間がいないワケでもないのだが、大っぴらにそれを吹聴するのは、マナー違反とされている。


 「でも、やっぱり少し恥ずかしいですね……」


 そんなワケで、純白の花嫁衣裳を脱ぎ、同じく白の下着(それも、普段のものより薄手で煽情的なデザインのもの)を身に着けたハンナは、懸命に平静を装いつつ、“夫”となった青年に微笑いかけた。


 「それを言うなら、俺の方も緊張してるんだぜ? 夢にまで見たハンナを、嫁にして、ついに抱くことができるんだから」


 タスラムの方も、普段の天衣無縫な闊達さが薄れ、戸惑っているように見える。


 ──予想はつくだろうが、このふたり、まごうことなく童貞と処女だった。


 貴族の家に仕えるメイドで、身持ちの堅い(さらに言えば、元男な)ハンナは勿論、今年二十歳になったタスラムの方も女性経験がないというのは、意外に思えるかもしれない。

 ただ、元々が割と脳筋気味で色事に興味の薄いタイプであったことと、ハンナと出逢ってからは、彼女に一途に操をたてていたことから、納得できないでもなかった。


 とは言え。


 (クッソ……こっからどうやればいいのか、わかんねぇ!)


 欲望そのものは体内で滾っているのだが、下手に理性を残している分、勢い任せで押し切れないようだ。


 とりあえず、ハンナを抱き寄せて、唇を奪うタスラム。

 接吻(これ)くらいは、流石に婚約期間にもそれなりにしていたのだが……。


 (あれっ、なんかいつもと違うような?)


 これまでの彼女(ハンナ)は、その若さに見合わぬ落ち着きと包容力を兼ね備えた(恋人の欲目を承知で言えば)まさに「女神のような女性」だった。

 正式に許婚となってからは、タスラムからのキスや抱擁にも、慎ましく、それでいて情愛深く応えようとしていたのだが……。


 今、しがみついてくるハンナのその閉じた目尻には、光るものが見えた。


 (涙!?)


 出逢った当初ならともかく、この期に及んで自分が嫌われている、ということはまずないだろう。

 タスラムも、それくらいの信頼と愛情は互いに抱いている自信はあった。


 だが、今タスラムの胸の中で震える女性の様子は、ひどく頼りない。まるで、ただの少女のような……。


 (いや、そうだよな。「ただの18歳の乙女」なんだよな)


 そう思い至った瞬間、タスラムの両腕は自然に彼女を抱き締めていた。


 「悪い。ハンナだって初めてなんだから、そんなに思いつめなくたっていいんだぜ」


 緊張をほぐすようにニッと笑いかけてから、再度タスラムの方からハンナにキスをする。唇を合わせ、舌を潜り込ませる。


 「え!?」


 突然のことにハンナは一瞬目を見開くが、それには構わず、綺麗な歯並びの歯をタスラムが軽く舌先でノックすると、彼女はおずおずと舌を受け入れた。


 (えっと、娼館に行ったことのある兵士連中が言ってたのはこう…だっけ、か?)


 男同士の自慢話めいた猥談を思い出し、話の中の行為をなぞってみる。

 彼女の舌に自分のそれを絡め、舐め回すように動かす。

 熱い絡み合いの後、上顎や歯茎、舌の裏側に至るまで、ひとしきり彼女の口内を蹂躙する。

 互いの唾液が、音を立てて混じりあい──どちらからともなく唇を離したときには、ハンナの表情は惚けたように蕩けきっていた。


 「きもち、いい……」


 ボソリと呟き、上気した顔は、大人びた普段の様子より、1、2歳幼く見えた。


 名残り惜し気に身体を離したタスラムとハンナは、無言のまま僅かな衣服を脱ぎ捨て、両者共全裸となり、改めてベッドの上で互いに向き合う。


 これは、タスラムは知らないことだが、3年前、神殿で女性になった当初とは比べものにならないほど、今のハンナの身体は女らしい豊満な体つきになっている。

 特に胸──乳房は、着衣の上から見てもひと目でわかるほど大きく、それでいて形も良かった。


 正直、騎士らしい自制心(みえ)を備えたタスラムでさえ、恋人時代に抱擁する度、何度揉みしだきたいと思ったことか……。

 その狂おしいほどに焦がれた対象を、夫となった今は、丸ごと自由にしてよいのだ──そう思うと、心が滾った。


 「ハンナ……」


 タスラムは、ハンナを抱き締めて、まずは濃厚なキスをする。


 「タスラムさま……チュプっ…」


 ハンナの方も、うっとりとした目で彼の唇と舌を積極的に受け入れた。


 「綺麗だよ、ハンナ…」


 ハンナをそっとベッドに横たえると、その大きな胸を憧憬と愛情を込めて弄びながら、タスラムが囁きかける。


 「あ、あなたぁ……ハァん…や、やさしくして下さい♪」


 タスラムの愛撫に身を捩らせながら、ハンナの口から、このテの状況(シチュ)下でのお約束の台詞がこぼれる。


 「……もちろんだ!」


 ──その後、彼が“暴走”せずに口約束を守れたか否かについては……本人達の名誉のために敢えて伏せるとしよう。


 ただ、主家との職務契約上、子供を作ったのは、3年後に彼女が仕えるアガーテが許婚のもとに嫁ぎ、領地勤めに配置換えされてからだったが、それまでも(ハンナを姉代わりと慕う)アガーテ嬢が時にやきもちを焼くほど、夫婦仲は良好だったことは間違いなかった。


-そしてエピローグへ-

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メイドになった伯爵令息 嵐山之鬼子(KCA) @Arasiyama

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