想いを告げる

 「まさか彼女に会ってまた話せるなんてね」

 

 自宅に帰った僕は、さっきまでの彼女とのやり取りを思い返していた。

 ここまで生きてきた中で自分の勘違いで疎遠になってしまった彼女との関係が心残りだと思っていた。

 それがこんな形で心残りを解消するきっかけを得られるとは思っていなかった。


 「今日の再会をきっかけに以前のような関係にまた戻れたらいいな」


 僕は彼女との再会を喜びながら、以前のような関係に戻ること、そして彼女へ想いを告げることを想像しながら眠りにつくのだった。

 

 「どうしよう……」

 

 彼女からの連絡を待つこと3日、彼女からの連絡がこない。

 彼女がまた連絡すると言ってくれたから連絡を待っているのが、こちらから連絡するべきだっただろうか。

 けど前のようなやり取りができるかという不安もあり、どうしても連絡をためらってしまう。

 この前再会した時のやりとりは、実は彼女も気まずい雰囲気を避けるためのものだったのではないか。

 彼女と疎遠になって4年近いことを考えると、彼女だっていろいろと変わっているはずだ。

 僕と再会するつもりもない中で会ってしまったから、何とか以前のように接しようとしていた可能性もある。

 考えれば考えるほど、あのようなやり取りをさせてしまって彼女に申し訳ないような気がしてくる。

 

 「いや、でもまた僕の勝手な思い込みかもしれないし……」


 どうしようと悩み続けている僕は、きっといくじなしに見えるだろう。

 僕自身が既にそう思っている。

 こんないくじなしの僕が、本当に彼女との関係を修復できるのだろうか。

 どんどんマイナス方向の考えが浮かんでくるので、風呂にでも入って気分を変えようと部屋を出ようとした。

 部屋を出ようとしたとき、僕の携帯の着信音が鳴り始めた。

 着信の相手を確認すると、そこには彼女の名前が表示されていた。

 さっきまでのマイナス方向の考えがどこかに行ってしまった僕は、ウキウキしながら彼女からの電話に出た。


 「もしもし」

 「もしもし、連絡が遅くなってごめんなさい。引っ越しの片付けとか手続きとかいろいろと手間取ってしまったの」

 「そうだったんだ。大丈夫だよ、もう落ち着いたのかな」


 僕は彼女から連絡が遅れた理由を聞いて安心していた。

 またこちらに戻ってくるなら向こうからの引っ越しやその片付けでバタつくのは当たり前だろう。

 そんなことすら考えつかずにマイナス方向の考えをしていたのが恥ずかしいくらいである。


 「もう落ち着いたから大丈夫だよ。お礼の件、改めて予定を決めさせてもらえるかな」

 「ならよかった。僕はいいけど、君ケガはもういいの?」

 「ケガももう大丈夫よ。なら空いてる日を教えてくれない。」

 「えっと、ちょっと待ってね」


 僕は直近のスケジュールを思い浮かべた。

 少なくともここ数日で急ぎの予定はないし、いつでも問題ないだろう。


 「僕はここ数日急ぎの予定もないし、いつでも大丈夫だよ」

 「そうなの、なら明日はどうかな」

 「明日大丈夫だよ」

 「よかった。じゃあ明日の17時に駅前待ち合わせでどうかな」

 「大丈夫だよ」

 「なら決まりね。お店は私が予約しておくから楽しみにしてね」

 「お店の予約までありがとう。明日楽しみにしてるよ」

 「私も楽しみにしてるね。それじゃあまた明日ね」


 彼女との電話を終えて、僕は彼女とまた会えることを喜んでいた。

 ここまで彼女とのやり取りで一喜一憂していることも含めて、僕は彼女が好きなのだということを改めて自覚した。

 急いではいけないが、今度こそ心残りを残さないように彼女と向き合おうと心に決め、僕は明日へ備えることにした。


 翌日、身支度を整えて早めに彼女との待ち合わせ場所である駅前に向かう。

 このままだと早く着きすぎる形になると思うが、家で待っているとそわそわするだけだ。

 予想通り早めに駅前へ到着したので、一様彼女が来ていないか確認する。

 さすがに来ていないだろうと思っていたが、改札近くに彼女の姿を見つけた。

 彼女は笑顔で僕に向けて手を振り、こちらに向かってきた。


 「早かったのね」

 「君のほうこそ。待たせちゃったかな?」

 「大丈夫、私もさっき来たところだから」


 彼女も早めに来ていたことに驚きつつ、来てくれていたことに僕は安心していた。

 実は来てくれないのではないかというようなマイナス方向の考えも実はあったのだ。


 「お店の予約時間にはまだ早いし、少しふらふらしてから向かう感じでもいいかな」

 「そうだね、せっかくだしそうしようか」

 「決まりだね、じゃあ行きましょう」


 僕は彼女に合わせて歩き始めた。

 そのままお店の予約時間まで彼女と一緒にいろいろと見て回った。

 見て回っている最中は、昔に戻ったかのような感じで彼女と楽しく話すことが出来た。

 僕は中学や高校の時もこんな風に2人でいろいろ見てまわったなぁと懐かしさを感じていた。

 そして彼女と一緒に過ごす時間がやはり楽しいし、大事なものだと実感していた。


 予約の時間も近くなったので、僕たちはお店に向かった。

 お店は普段僕が行かないようなおしゃれな感じのレストランだった。

 お店へ入り席に案内された僕たちは、店員から本日のコース料理のメニューを渡されたので一先ずそれぞれドリンクを注文した。


 「お店の予約ありがとう。今日はコース料理なんだね」

 「どういたしまして。特に相談せずに決めてしまったけど大丈夫だったかしら」

 「大丈夫だよ。普段行かないようなおしゃれなお店で少し戸惑っているけどね」

 

 少し話していると店員が注文したドリンクを持ってきた。

 僕たちはドリンクを受け取ると、それぞれ乾杯のためにドリンクを手に持った。


 「改めてこの前は助けてくれてありがとう。助けてくれたお礼と再会を祝して、乾杯!」

 「乾杯!」


 僕たちは乾杯の後、コース料理を堪能しながらお互い疎遠になっていた間のことを話した。

 話したといってもお互い大学生活でこんなことがあったとか、どんなことが大変だったとか他の人からしてみたら他愛のない話だ。

 もしかしたら彼女もそう思っているかもしれない。

 けど女性が苦手な僕にとって、他愛のない会話をして楽しい時間を過ごせる彼女の存在がとても大事なものだった。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、デザートも食べ終えてもうそろそろ帰ろうかというときだった。


 「お礼とはいえ急に誘ってごめんね。本当に迷惑じゃなかったかな」

 「全然大丈夫だよ。むしろ誘ってくれてありがとう」

 「こちらこそ来てくれてありがとう。大学入学前の引っ越すときに会えないままだったからもう会ってくれないかと思ってたの」

 「えっ……」

 「また会えてこうして話せる関係に戻れたから私としては嬉しい限りだよ」

 

 まさか彼女がそんな風に思っていたなんて、僕は考えていなかった。

 何せ僕の勝手な思い込みのせいで会う機会をなくしてしまっていただけなのだ。


 「そんなことないよ。むしろ勝手な思い込みのせいで嫌な思いをさせてしまって僕のほうこそごめん」

 「いいのよ。けど勝手な思い込みってどんなものなのか気になるな」

 「当時の僕は自分が君に一番近い存在で、君のことをよく知っているなんて考えをしていたんだ。それなのに大学進学のことを相談されなかったことがショックで、勝手にふてくされて君を見送りに行かなかったんだ」

 「えっと……」

 

 僕は恥ずかしいと思いながら彼女に素直に当時の想いを話した。

 ここで素直に自分の想いを話さないと以前の二の舞になるかもしれないと思ったからだ。


 「今もそうだけど、幼い頃から僕は女性と話すのが苦手なんだ。そんな中で君と話したり一緒にいる時間は、苦手だとか嫌だとかそういうことを感じることはなかったんだ」

 「確かに君が他の女の子と話しているのってあんまり覚えがないかも」

 「そんな君と一緒にいるのが楽しくて、当たり前のようになっていたんだ」

 「えっと、ありがとう。そう思ってもらえて私も嬉しいわ」

 「僕のせいで一度は疎遠になってしまった。ずっと心残りだったけど、また君に会えて前みたいに過ごせて嬉しかったんだ」


 僕は若干勢いに任せる形で、片思いの彼女へ想いを告げる。


 「君のことがずっと前から好きです。僕の彼女になってくれませんか」


 言ってしまった。

 再会してあまり時間がたっていないこのタイミングで言うべきではなかったのかもしれない。

 しかし勢い任せの部分もあったが、言葉にしたことが今の僕が素直に思っていることだ。

 以前は思い込みの上で相手に想いを伝えず心残りとなってしまった。

 今度はちゃんと想いを伝えられた。

 どんな答えになろうとも後悔はない。

 今の僕はそう思えていた。


 「えっと、えっと」


 僕からの突然の告白に彼女は混乱しているようだ。

 疎遠になっていた友人から急に告白なんてされたらそうなると思う。

 

 「ありがとう。あなたにそう言ってもらえてうれしいです。私でよければ彼女にしてもらえたらうれしいです」

 「えっと、本当にいいの?」

 

 彼女は顔を真っ赤にしながら頷いた。

 振られてもおかしくないと思っていた分、僕自身も驚きである。


 「小学生の時にけがして助けてもらったときから、あなたのことずっと好きだったの」

 「えっ!」

 「地方の大学に進学したのは、唯一合格できたのがその大学だったからなの。さすがに浪人をするわけにもいかなかったから……」


 彼女も近場の大学に進学したかったようだが、複数受験して不合格だったらしい。

 たまたま試しに受けた地方の大学だけ合格できたようで、家族と相談のうえで進学を決めたらしい。

 確かにそういったことであれば相談されたとしても僕には何も言えない。

 彼女としては引っ越すときに僕へ想いを告げるつもりでいたらしいが、その思惑を僕がぶち壊した。

 結果として彼女も僕に連絡しにくくなってしまったところ、たまたまこの前再会出来たのでこの機を逃すものかと頑張ってくれていたらしい。


 「そうだったんだ。なんかいろいろとぶち壊してごめんね」

 「ううん、いいのよ。結果としては私にとって一番うれしいものになったから」

 「こちらこそ嬉しい結果になったよ。改めてこれからもよろしくね」

 「私のほうこそよろしくね」


 そう言って彼女は笑った。

 僕にはこれまで見た彼女の笑顔の中でも一番輝いているように見えた。

 これからも素直に想いを告げて彼女の笑顔を守っていこう。

 僕は心の中で誓って彼女との新しい一歩を踏み出したのであった。

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片思いの君へ @kenken48555

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