別れと再会
僕と彼女は別々の高校へ進学した。
家が隣同士であることもあり、これまで通りとはいかないが頻繁に会って話したり遊びに行ったりしていた。
今日も彼女からショッピングに誘われたので、一緒にショッピングモールへ来ている。
「あなたはもう高校生活には慣れたかな」
「僕は勉強も問題なくついていけてるし、新しい友達もできて問題なく慣れてきたよ。君のほうはどうなの?」
「私も新しい友達ができたけど、勉強についていくのが大変かな」
高校へ進学した彼女は今までよりもおしゃれを気にし始めたのか、僕を荷物持ちとして買い物へ出かけることが増えた。
その度に内心デートではないかと思いつつ、彼女はあくまで友達として誘ってくれているのだと自分へ言い聞かせるようにしていた。
彼女への好意を自覚したものの、彼女との今の関係を壊すのが怖くて思いを告げるなんてできるはずもない。
僕はいつか思いを伝えられたらと考えながら彼女との時間を過ごしていた。
そんな考えのまま高校3年となり、僕は大学受験に向けて勉強時間を増やしていた。
そのため彼女と会う機会が徐々に減ってきていた。
きっと彼女は実家から通える範囲の中堅大学を受験するのだろう。
これまで幼馴染として過ごしてきた分、そうであると思い込みたかったのかもしれない。
受験を終えて、無事に志望大学へ合格を決めた僕は久々に彼女と買い物に出かけたとき彼女から驚きの話を聞くことになった。
「合格おめでとう!」
「ありがとう。勉強に集中してたからなかなか買い物に付き合えなくてごめんね。」
「大丈夫だよ。それだけ勉強大変だったんでしょう」
「そうだね。今回はこれまでの中で一番勉強したかも」
「何だかんだあなたは優等生だもんね。きっちり合格しているのはさすがだよ」
「褒めても何も出ないよ。そういえば君は進路どうしたのかな」
「私は地方の国立大学を受験して無事に合格したから、春からは一人暮らしだよ」
「えっ……」
僕は彼女が実家を出て一人暮らしするという話を聞いて、頭が真っ白になってしまった。
一緒にいるのが当たり前だった彼女の進路が、自分が考えていたものと違ったことにも驚いた。
それよりも僕は彼女に進路の相談をしてもらえなかったことにショックを受けていた。
何だかんだ彼女の幼馴染として近くにいたし、頼りにしてもらえていたと思っていた。
だからこそ何故相談してくれなかったのかとショックを受けてしまった。
僕はその話を聞いた後、どんな会話をしたかあまり覚えていない。
ずっと近くにいた好きな女の子から進路の相談をしてもらえなかったことが、想像以上にショックだったようだ。
その日から何となく彼女と連絡を取る気になれず、彼女が引っ越すその日ですら見送りに行かなかった。
僕は彼女へ想いを告げることなく、彼女への想いを胸にしまって忘れたふりをして新しい生活の準備を黙々と進めていた。
大学での生活は何だかんだ充実していたと思うが、地方の国立大学へ進学した彼女とは疎遠となってしまっていた。
そして僕も大学卒業間近となった。
就職活動も終えて無事大手商社から内定をもらい、春から社会人としての一歩を踏み出すことになる。
そんな僕にとって、彼女へ想いを告げられなかったことが社会人となる前の唯一やり残したことだと思っている。
彼女と一緒にいる間はあまり気にならなかったが、結局僕は女性と話すことが苦手なままである。
むしろ彼女とあのような自分勝手な行動で疎遠になった後、余計に女性と話すことに苦手意識を持ってしまったような気もする。
今考えれば僕が勝手に彼女のことを理解したつもりになっていただけで、彼女は何も悪いことをしていない。
僕の思い込みで彼女と疎遠になってしまっただけなのだ。
学生時代、特に苦労した覚えのない僕としては彼女との関係だけが上手くいかなかったと思っている。
今となってはどうしようもないなぁと考えながら、僕は大学での用事を済ませて帰宅の途へついた。
もうすぐ自宅へ着くというところで、女性が道に座り込んでいるのを見つけた。
先程まで彼女のことを思い返していた僕は、素通りするのも嫌な感じがしたので女性へ声をかけた。
「あの、どうかされましたか」
「少し足をひねってしまってって、あれ……」
僕は言葉を失ってしまった。
声をかけた女性は、数年ぶりに直接会う彼女だったのだ。
何か話さなければと思いはするが、なかなか次の言葉が出てこない。
僕が次の言葉を出せないままいると、彼女が困った顔で話し始めた。
「またあなたにケガしたところを助けてもらうことになるなんて不思議な縁ね」
「えっと、こっちに帰ってきてたんだね」
「先週こっちに戻ってきたの。積もる話もあると思うけど、ひとまず自宅まで送ってもらってもいいかな」
「えっと、分かった。一先ず自宅までおぶっていけばいいかな」
「ありがとう、申し訳ないけどお願いするね」
僕は混乱しながらも一先ず彼女をおぶって自宅に向かい始めた。
どうしてこっちにもどっているのかとか、その前に謝らなきゃとかいろんなことが頭をよぎるが上手く言葉に出せない。
無言のままの時間がとても長く息苦しく感じてしまう。
「大学進学する少し前から会えてないから、ずいぶん久しぶりだね。あなたは元気にしてた?」
「えっと、僕は元気にしてたよ。君こそ地方での一人暮らしで大変だったんじゃないかな」
「そうね、慣れるまでは苦労したけど今となってはいい経験だわ」
「そう思えるなんて君はすごいね……」
「ありがとう、お世辞でも嬉しいわ」
彼女から会話のきっかけを作ってくれたこともあり、何とか話をし始めることが出来た。
いったん話をし始めるとお互い会っていなかった期間のことを聞く形で話がはずみ、疎遠になる以前と同じように会話が出来ていた。
「小学校の時と同じような形で助けてもらっちゃったね」
「あの時はどうにかしなきゃと思って必死だったよ」
「私も足が痛くてどうしようってなってたから、あの時あなたが来てくれて本当に助かったのよ」
「そう思ってもらえてるなら、あの時頑張ったかいがあったね」
「今回も助けてくれて感謝してるわ」
「どういたしまして。そういえば君はどうしてここに?」
「私、こっちの企業に就職するのよ」
「そうなの、てっきり向こうの企業に就職するものだと思っていたよ」
「元々大学だけ向こうで、就職するときはこっちに戻るつもりだったのよ」
「なるほど、それでこっちに戻ってきてたんだね」
僕は彼女がまたこちらに戻ってきて生活するということを知って内心とても喜んでいた。
また以前のような関係に戻り、あわよくば彼女との関係をさらに進めることが出来るようになるのでは。
そんなことを考えてながら歩いていると、彼女の家まであと少しというところまで来ていた。
「送ってくれてありがとうね」
「どういたしまして。帰ったらちゃんと手当てするんだよ」
「そうね、ちゃんと手当てするわ」
彼女の家の玄関前についたので、彼女を背から降ろす。
まさかの再会ではあったが、僕にとってはやり残した彼女との関係をまたやり直す機会を得られたと内心とても喜んでいた。
「はい、到着したよ」
「ありがとう、助かったわ」
「どういたしまして、それじゃあまたね」
「ちょっと待って!」
「えっと、どうしたの」
「今日のお礼も兼ねて、今度2人で食事に行かない?」
「えっ」
「ひょっとして彼女できたのかな? もしそうならさすがに彼女さんに申し訳ないからやめておくけど」
「僕、彼女なんていないよ」
「なら問題ないわね。また連絡するからよろしくね」
彼女はそう言って玄関を開けて家に入っていった。
その姿を見送りながら、僕は少しの間固まっていた。
いろんなことがあって混乱している。
今日はもう家に帰ってゆっくり休もうと僕も自宅へ帰っていった。
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