片思いの君へ

@kenken48555

出会いと自覚

 僕は自分で言うのもなんだが、他の子よりも優等生だと思う。

 学校の勉強はもちろん運動も他の子より出来ていたし、学校の先生からもよく褒められていた。

 ただ、そんな僕にも苦手なことがあった。


 「ねぇ、これってどうしたらいいのかな」

 「えっと……」

 「どうかしたの」

 「ごめん、それはこうしたらいいと思うよ」

 「そうなんだ、教えてくれてありがとう。助かっちゃった」

 「ど、どういたしまして」


 僕はどうしても女の子と話すのが苦手だ。

 僕から話しかけることはほとんどなく、あっても先生からお願いされた事項を伝えるくらいだ。

 さっきみたいに話しかけられてもうまくやり取りできないことも多いのだ。

 女の子とうまく話せなくても問題ない。

 そう思ってこれまでは過ごしてきた。


 ある日、学校から帰ろうと校門を出て少ししたところに彼女が座って泣いていた。

 「痛いよぉ、誰か助けてよぉ……」

 「えっと、君、どうかしたの」

 「転んだあと、足が痛くて動けないの」

 「えっと、なら僕先生を呼んでくるからこのまま待ってくれるかな」

 「やだよぉ、このままおいていかないでよぉ」

 「そんなこと言われても……」

 「わかった、なら僕が君をおぶっていくよ」

 「荷物もあるし、そんなの無理だよぉ」

 「大丈夫だよ。荷物はまたあとで僕が取りに来るし、そんなに学校から離れてないから何とかなるよ」


 僕は荷物を降ろして彼女をおぶった。

 スポーツが得意だし何とかなると思っていたが、これは流石にまずいかもしれない。

 彼女をおぶった僕はとにかく急いで学校の保健室を目指した。

 

 何とか彼女を保健室につれていき、保健室の先生に彼女を任せた。

 そして置いてきた荷物を回収して保健室に戻ると彼女と先生が待っていた。


 「荷物の回収お疲れ様でした。彼女のけがの処置も終わったわよ」

 「えっと、よかったです。」

 「彼女はお母さんが迎えに来てくれるみたいだから、君はもう帰って大丈夫よ」

 「わかりました、なら僕は帰ります」


 僕は先生から帰っていいといわれたので彼女の荷物を置いてそのまま帰ろうとした。

 帰ろうとドアに手をかけたその時、彼女から声をかけられた。

 

 「あの、あの!」

 「えっと、どうしたの?」

 「助けてくれてありがとう。えっと……」

 「大丈夫そうでよかったよ、それじゃあまたね」


 僕は彼女を保健室まで運んだこととこれまでの中で一番たくさん女の子と話したことで疲れたのでそのまま帰ってしまった。

 翌日、クラスの子から隣のクラスの子が読んでいると聞いて廊下に出ると彼女だった。


 「あの、昨日は助けてくれて本当にありがとう」

 「えっと、どういたしまして。けがの具合はどうかな」

 「まだ痛いけど、何とか歩けるよ!」

 「それならよかった。これからはけがをしないように気を付けてね」

 「ありがとう。これ、お母さんがこれお礼にどうぞって」

 「いいの、ありがとう。君のお母さんにもありがとうと伝えてね」

 「うん、お母さんにも伝えておくね」


 この出来事をきっかけに僕と彼女は少しずつ話す機会が増え、その話の中で実は家が隣同士であることを初めて知った。

 それから僕と彼女はどんどん仲良くなり、僕は気が付けば彼女が相手であれば問題なく話すことが出来るようになっていた。

 その時の僕は、このまま彼女との関係が続いていくのだと勝手に思い込んでいた。

 

 僕と彼女はあの出来事の次の学年からは同じクラスとなり、それ以来仲のいい友達として一緒に過ごしてきた。

 いわゆる幼馴染のような形となり、中学生になってからもお互い家が隣同士であることもあり、相変わらず仲が良かった。

 

 「ねえ、あなたはどこの高校を受けるの」

 「僕は一様県内の進学校を受験する予定だよ」

 「そうなんだ、あなたずっと優等生で成績良いものね」

 「そういう君は高校どうするの」

 「私はあなたほど優等生じゃないから、自宅から一番近い中堅レベルの高校を受験する予定なの」

 「そうなんだ、じゃあ高校は別々になりそうだね」

 「まだ受験は先だけどこれまで一緒に過ごしてきてたから考えると違和感があるわね」

 「まあ、けど家は隣だし何だかんだ会って話す機会も多いと思うよ」

 「そうね、そうだといいわね」

 

 彼女とのそんな会話からしばらくして、高校受験は終わった。

 僕は県内の進学校に、彼女は家から近い中堅校にそれぞれ進学を決めていた。

 僕は志望校へ合格したことは当たり前だと思いながら、彼女と別々の高校へ進学することに寂しさを感じていた。

 あの出来事からずっと一緒に過ごしてきた彼女のことを友達として好きだと思っていた。

 けど高校進学をきっかけにこれまで通り一緒ではないということを考えるとどうにももやもやしてくる。

 以前ほどではないが、結局僕はまだ女の子と話すのが苦手なままだ。

 彼女と一緒にいる機会が多いので周囲はそう考えていないようだが、いまだに彼女以外の女の子と話すのは緊張して言葉に詰まってしまうことがある。

 一緒にいるのが当たり前だと思い込んでいたが、僕はきっと彼女のことが好きなのかもしれない。

 これが僕の初恋だったのだろう。

 初恋は実らないとよく言われているが、僕と彼女に関しては当てはまらない。

 その時の僕はそう思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る