命の愛し方
天月トワ
第1話 プロローグ
服が乱雑して、スナック菓子や袋の残骸がベッドの下の床周りに散らばって誰が見てもゴミ屋敷な私の部屋に、部屋の主人である私は戻ってくる。
「あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝イラつく!」
なんで私がイラついてんのかなんて分からない。でも、私は無性にイラついているから壁を全力で殴った。私以外に管理するものなどないこの家に、それを咎める人はいない。
小さい頃から、私は両親の言うように頑張ってきた。
私の記憶もないほど幼い頃から子役をやらされて、それが普通なんだって思っていた。沢山頑張れば頑張るほど両親は褒めてくれたから、私はそれをモチベーションに頑張り続けた。
10歳になって、両親が離婚した。父親が不倫していたとかで、私はあんなにひどい顔の母親を見たことが無かったから父親を責めた。父親が何かを言っていたけど、そんなものは私たちに聞こえない、もしくは言い訳だと数倍の正論で押しつぶした。そしてあれ以来、私も母親も父親を思い出させるものは全部捨てた。
私が小学校を卒業する頃、母親が初めて私を殴った。
「もっと金をよこせ。クソガキ!」
もちろん、罵倒なんていうのも初めてだった。
母親はホス狂になっていた。父親がいなくなってから、ずっと母親は私を夜一人にして夜の街へ繰り出していった。そこで多額貢いでいたようだけど、子役として段々役が減ってきていた私にはこれ以上現金を出すことができない。その日、私は母親に殺されかけた。肩を包丁で切られて、肋を折れるまで殴り続けられて、それでも母親は止まらなくて私の首を絞めた。あの時、母親が鍵を開けっぱなしにしていなければ、私がデリバリーサービスを頼んでいなければ私は今頃確実に死んでいたと思う。
母親は、殺人未遂で捕まった。私は一人になった。
その後、私を引き取るっていう人が現れて私はその人の家に転がり込んだ。
あの時私を引き取ってくれた男の人は、ロリコンだった。毎晩毎晩無理やりベッドに連れ込まれて、初めても覚えていないくらい犯された。強制性交罪で男は捕まった。私以外の余罪も大量にあって、数十年は出てこられないと聞いた。
今の私は高校2年生。いわゆるJKだけど、いまやっている声優としての付き合い以外に男とつるむ気なんて一切ない。どうせ甘いところ見せたらすぐに抱かれるだけだから。
家のぐちゃぐちゃ具合もそうだけど、最近はまともにご飯も食べてない気がする。カロリー◯イトだけじゃダメな時はおにぎり買って食ってんのに...あ〝あ〝あ〝!
『...ただいま』
頭をベッドに叩きつけていると、そんな声が聞こえた。
私以外のやつが入るなんて滅多にないので下に行くと、いつぞやの親父がいた。私が睨みつけると、親父...結城 帝人は露骨に狼狽えて私のところに来た。
「ど、どうしたんだ、莉桜?しっかり飯食ってんのか?栄養失調は体も精神もダメにするぞ?」
そのまま私に触ろうとする手。頭に、あの忌まわしい男の声が蘇る。
「...ッ、触るなッ!?」
そのまま振り払う。狼狽えたような親父の顔が、見る見るうちに笑みを浮かべて頬を触るあの男の笑みに代わっていく。
「...大丈夫か?莉桜」
ずいぶんと時間が経ったのか、私が親父の声を聴いてももうあの男の顔が浮かぶ事は無かった。一瞬思考に浮かんだだけで身体が酷く震えたけど、親父の前より顔色の良くなった顔を見た後は少しだけ気が楽になった。
少し荒い息を繰り返すと、私は何とか立ち上がる。一度、腕に力が入らなくて倒れたけどもう一度同じことをしてようやく立ち上がった。親父はそんな私の動きに更に心配そうな顔をしたけど、ここしばらく同じことを繰り返して大丈夫だったんだから問題ないよね?
ありがと、と伝えかけたところでふいに私の腕から力が抜けた。もう一度動こうとしても、身体が重くて動かない。
遠くから聞こえる親父の、何か言っているのを最後に私の意識は途絶えた。
命の愛し方 天月トワ @Althanarou
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