第5話 女装

 翌日、朝から夏の暑さを感じていた。


右手には日傘を持っているがそれでも暑い。まぁ、日傘に入っているのはほとんど綾なので、当然なのだが。そして、日傘に入っていない俺の左半身だけ異様に暑い。かれこれ三十分くらいはこの状態だ。首とか左側だけ焼けそうだな。


「それでどこに行くんだ」

「服屋に行くわ」

「服屋?」

「えぇ、今日はあなたの服を作るの」

「作るのか?というか服ならたくさんあるが。家から持ってきたやつ」


いつも普段着なんだよな。俺も綾も。


「普段はあれでいいわ。外出るときもあまり貴族らしい服装にすると住民の反応がめんどうだから。でも来週から学校があるのよね」

「学校、行ってたんだな。将来とかお金に困らないし、てっきり行ってないと思ってた」

「一人暮らしする条件として、親から学校へ毎日行って成績も上位を取ることがあるのよね」


それならしょうがないな。


「でも、なんで俺の服なんだ?学校関係なくないか」

「本当は従者を一人連れてかないといけないのよ。もうそろそろ連れてかないと学校追い出されそうだし」

「制服を作るってわけか」


お嬢様の学校だからか、一般の高校といろいろ仕組みが違うらしい。

今更だけど、綾は高一だ。俺と同い年。


俺はもとから高校なんて行ってなかったからな。中学も一応在籍していたがほとんど行ってなかったな。


服屋に着いたので早速入る。涼しいぜ。特に俺の左半身がとても喜んでる。


「母さん、綾ちゃんが来たよ〜」


中には俺や綾と同年代らしき女子がいた。綾とは違ってクール系ではなく、可愛らしい感じの茶髪の子だ。


「君が新しく綾ちゃんの従者になった零都君だね。これからよろしくね。それにしても二人とも涼し気な感じだね。髪が青と銀だからかな」


まぁ、どちらも暑さを感じさせない髪色だな。俺も綾も髪は長いし、ぱっと見は爽やかだな。

髪は俺の方が長かったりするのだが。


「結城零都と申します。よろしくお願いいたします」

「零都、こいつにも敬語はいらないわ。学校が始まったらどうせ毎日会うんだし」


こいつって、言葉悪すぎだろ。お前本当にお嬢様か?


「そうか。あんたも同じ学校なのか?」

「そうだよ〜。私、谷井沙良っていうんだけど、綾ちゃんとは幼馴染みたいな感じ」

「綾、お前友達いたんだな」

「いいえ、こいつはただの知り合い、友達じゃないわ」


そんなに強がんなよ。俺は知ってるんだからな、綾が寂しがりやなの。




ーーーーーーーー




 それから沙良のお母さんに身長などもろもろ測ってもらった。結構いろんなとこ測られた。


「これならギリギリいけそうね。割と筋肉とかはあるけれど、多分、もとが細身だからなんとかなるわ」

「そうだね。身長もちょっと高いけどこれぐらいなら学校でも怪しまれない感じにはできると思う」

「なぁ、なんの話をしてるんだ?細身とか身長とか。これから作ってもらうんだから関係なくないか」


というか身長そんなに高くないし。百六十八センチって一般的な高校生くらいじゃないか、多分。


「あれ、話してないの?てっきり合意の上だと思ってた」

「逃げられそうだったから話してないわ。それにサプライズってしてみたかったのよね」


おい、一瞬怪しい笑みが見えたぞ。絶対に碌なことじゃない。あとサプライズってのはされて嬉しであろうことをするもんだぞ。


「学校はね、お嬢様学校なの。それで男子は入れないのよ。もちろん生徒だけじゃなくてその従者もね」

「……つまり?」

「学校ではメイド姿。女装するってことよ」


まじか。いや、やらないよ?というか俺が女装とかきつい。


「まぁ、とりあえず準備だけにして今日は帰ったら?また明日来て作るか作らないか決めればいいよ」




ーーーーーーーー



 帰り道にて。昼過ぎなので、来たときよりも暑さを感じるな。


「いやいやいや、無理だろ。女装して学校に通うって」

「なんとかなるわ」

「いや、ならん。絶対女装とか似合わないし、すぐにでも気づかれて俺もお前も終わりだ」

「なんで私もなのよ。それより、あなたに女装は似合うと思うわ。長くてきれいな銀髪に、小さめの顔、ちょっと筋肉質なのは服でわからないようにすればいいだけだし。確実に気づかれないようにできる自信があるわ」

「お前に自信があろうと俺にはないから無理だ」


嫌だろ、俺が女子の中に紛れ込んでたら。俺も嫌だし、他の生徒も絶対に嫌だろう。得なんて誰にもないのだ。


綾は俺が承諾しないと理解したのか口を閉じてしまった。俺も特に話すことはないので、気づいたらとても気まずい雰囲気に。どうすることも出来ないので歩く速度の上がった綾についていく。


そして、屋敷に着く直前。綾は突然歩くのをやめた。


「あなた何でも屋なんでしょ。女装して学校、ついてきてくれるわよね」


…………。

なんで知ってるんだ。俺が何でも屋ってこと。




ーーーーーーーー




 その日の夜、閉店後のカフェにて俺は親父と会っていた。


「それで、指名依頼の事なんだが」

「いや、その前にあんたは俺に謝る事があるはずだ」

「はて、なんのことやら」


しらばっくれるつもりか。俺が何でも屋であることを綾が知っていた理由。その心当たりはこいつしかいない。


「綾に何を話したんだ。あんたのせいでめんどくさいことになってんだぞ」




結局あの後、綾には


「私が従者ではなく何でも屋のあなたに依頼するわ。女装して、学校に来るのよ」

「依頼するなら他の奴にしてくれ。紹介するから」

「何でも屋として女装してくれたら月に五十万とかかしらね」

「この依頼受けるしかない、交渉成立だ」

「じゃあ決まりね。やっぱり嫌とか言っても聞かないから」

「えっ……」


と、いい感じ乗せられた。

金は正義だからしょうがない。




「お前の昔話をちょっとしただけだぞ。別に何も変なことは言ってない」

「いや、それでも何でも屋関連は言っちゃだめだろ」

「俺はそんなこと言ってないぞ。少なくとも依頼に支障が出るようなことは言ってない」


じゃあなんで綾は俺が何でも屋なのを知ってるんだ。


「どうせお前のことを事前に調べてたんだろ。お前のことを話したとき一部の内容は知ってそうな感じだった」


ちっ、まぁいい。どうやって調べたかは気になるが、何でも屋ということ自体を知られるのはそこまで俺にとっては痛くない。

重要なのは普段の俺と殺し屋としての俺が同一人物であることを悟らせないこと。

俺だって殺し屋としての動きは誰にも知られないようにしている。だが、どうしても誰かしらは俺の存在を感じてしまう。

だから俺は何でも屋をしている青年と殺し屋をしている謎の人物は一致しない、させないようにしてきた。


「もう、いいか。本題に入っても」

「あぁ、悪かった」


指名依頼は来週からだ。依頼者的には少しだけ情報をやるから準備しろよってことだろうな。


「お前への指名依頼、それに関わる人物が分かった」

「結構重要な情報をくれるんだな」


普通、依頼に関係する人物は直前まで知らされないんだけどな。

例えばだが、その人物を結果的に護衛する任務で、守らなきゃいけない。それがわかる前に情報がどっからか漏れて勝手に殺されでもしてました、とかあったら洒落にならんからな。


「それで誰なんだ、その人物は」

「聞いて驚け、夜桜綾だ」

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お嬢様の完璧メイド、実は何でも屋兼殺し屋の女装 テア @yuki514

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