第4話 クール系?
「私の従者はあなただけ」
「いや、二回も言わなくていいから」
大事なことだから二回言いましたってか。
まぁ、理解したわ。だから、車で迎えも来ないし、食材の買い出しも自分でやってるのか。
「親はどこに住んでるんだ?」
「さぁ、屋敷なんていくつもあるからわからないわ。この辺ではないかもしれないけれどそう遠くはない場所に住んでると思うわ」
「この屋敷は親のものなのか」
「いいえ、私が自分で業者に頼んで建ててもらったわ。もちろんお金も自分で出したわ」
「自分でかよ。どっから出てくるんだそんなお金」
「昔に起業したのよ、いくつか。起業してすぐに自分が働かなくてもいい仕組みを作って、後はもとからあったお金で仕事のない人でもその辺で見つけて雇えばいい。それだけよ」
「簡単に言ってるけどそんなに上手くいくもんなのか」
ずるいな。生涯遊び放題じゃね。
「全部自力で暮らしてるとはいえ、両親には何も言われなかったのか」
「最初は引き止められたわね」
「やっぱり。そりゃ娘が一人で暮らすなんて言い出したら止めるわな」
「けれど、起業して稼いだお金をたくさん渡したら許してくれたわ」
「……この世の中って結局金なんだな」
貴族なんだから金なんかたくさん持ってるだろ。金に目が眩んでんじゃねーよ。
ーーーーーーーー
この屋敷の家事は基本俺がすることになった。従者なのだから当然だ。料理は得意だし、洗濯も数が少ないのですぐ終わる。余談だが、下着の洗濯どうするか問題について、綾はそんなこと気にしないらしい。
しかし、得意不得意に関わらず不可能な事がある。
そう。掃除だ。この広い屋敷を毎日一人で掃除してたらこれだけで日が暮れちまう。どうするんだ。
「一週間に一回、業者を呼んでるから大丈夫よ」
「ちなみに一回いくらで?」
「確か十万くらいかしら」
まじか、金かけ過ぎだろ。俺が掃除するから俺にくれよ。
「リビングとかキッチンくらいは毎日掃除してね」
「一回一万で」
「いやよ」
ーーーーーーーー
「部屋はどこ使っていいんだ?」
「空いてる部屋ならどこでもいいわよ」
どこでもいいって困るよな。とても決めにくい。
「ちなみに綾はどこの部屋だ?」
今この話をするべきではないんだろうが、今まで夜桜って呼んでたのが、ついさっき名前呼びが許可されたので綾って呼ぶことにした。名前で呼ぶと一気に親しくなった感じでいいよね。
「一階の玄関から一番近い所よ」
じゃあ、二階と三階ほぼ使ってないじゃん。キッチンとか荷物置きとかも全部一階にあるし。
「それなら、俺はその部屋の隣にしようかな」
「えぇ、そう。夜に何かあったら、壁でも叩いて起こすわ」
「やめてくれ」
とても迷惑なことをする宣言がなされたが、顔が嬉しそうなのを俺は見逃さなかったぜ。この広い屋敷に一人で寂しかったんだな。敬語じゃなくて良かったり、名前で呼んだり、明らかに俺は従者っぽくないけど綾との距離は近くなってるよな。
それがお嬢様のお望みとあらば、そのとおりにしてしんぜよう。
ーーーーーーーー
いろいろ家事とか部屋とかのあれこれを決めて、それから荷物の整理をしていたらすでに夕方だった。なので、とりあえず夕食を作ることにした。まだ早い気もするが昼食を取っていなかったためちょうどいいだろう。今回は料理器具とか調味料の場所がわからないので、一緒に作ることに。
「流石に手際がいいな」
「何年も一人暮らししてれば料理くらい上手になるわ。もともと手先は器用な方だし」
「毎日自分で作ってるのか」
「そうね。シェフもいないし、誰だか知らない人の料理食べるくらいなら自分で作った方が美味しいわ。それでも、あなたの料理には敵わないけどね」
「カフェで働いていたから上手くなっただけだ。俺だって自分で食べる分だけだったらそこまで味にこだわらないさ。一人暮らしでの手料理にしたら十分じゃないか」
ちなみに今作ってるのはトマトパスタとコンソメスープだ。さっきまで忙しくてご飯は炊いていないのでパスタになった。もとは違うものを作る予定でいたのだが、思ったよりも荷物の整理に時間がかかってしまったな。
「苦手な食べ物とかあるのか?」
「ないわね。基本何でも食べれるわ。辛いものとかも辛すぎなければいけるわ」
ふーん。つまんないね。いや、何でも食べれるってのはいいことだよ?だけど、少しくらい苦手なものがあった方が可愛げがあるじゃん。
俺は辛いのも酸っぱいのも苦手だ。誰が好き好んで痛みを伴うものを食べるんだ。
「じゃあ好きな食べ物は」
「甘いの。よくココアとか飲んだりするわ」
甘党なのかこいつ。外見的にはよくコーヒー飲んでるイメージ。
というか、コーヒー飲んでたわ。今日の朝とか。
「今日の朝はコーヒー飲んでたよな。それ以前にもカフェに来たときはコーヒーだった。あそこにはココアもあったはずだ。なんでコーヒーなんだ?」
「……それはあれよ。……コーヒー飲んでたほうがかっこいいからよ。文句ある?」
「いえ、ありません」
こいつ、やっぱりクールぶってるだけだ。誰だよクール系お嬢様とか言ってたやつ。
ーーーーーーーー
さて、今日はいろいろ作業をして疲れた。そしてその疲れた体を癒すのが風呂だ。
屋敷が広いので風呂も広い。大浴場。一人で入るにはもったいないぜ。
貸し切り状態だな、これ。優越感を感じまくりだぜ。
そんなところに俺が気持ちよくなるのを阻止するかのような、扉が開く音が響く。
まさか、綾が入って来る気か?
「いや、入らないからね。寝る前に伝えておきたい事があって」
見えないところにいるはずの俺の動揺を感じ取ったのか知らんが、そう前置きを入れた。
それはともかく良かった。
よくよく考えたら、綾は先にお風呂済ませたんだったな。
「明日行きたいところあるから。用事は何もないと思うけど一応言っておこうかなって思ってね」
「了解。どこに行きたいんだ」
「それは明日のお楽しみよ」
これは嫌な予感。こういうのは大抵良いことはないんだよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます