第3話 従者
俺、結城零都は何でも屋だ。
何でも屋であるため本当に何でもすると思われがちだが、実際には違う。
いや、親父は割と何でもやってるし、人によるのかもしれない。まぁ、俺は少なくとも違う。
俺らは基本殺し関連の仕事しかしない。
それは殺し屋じゃないのかと思うだろう。…俺も最近はそう思ってる。
俺の所属する事務所は殺し関連に長けたやつが多い。昨日うるさかった瑛人、丹羽瑛人っていうんだが、あいつも同じ事務所で俺とペアを組めるくらいには優れた殺し屋(?)だ。あいつは割と何でもできて他のこともしてるので、俺とはまた違うけどな。まぁ、腐っても何でも屋であるので、何かと殺しついでに頼まれることもあるし、手が空いていたら雑用を任されることも案外あったりする。
それに表ではカフェの店員をしてるしな。カフェで店員をしている訳はおおまかには親父と同じだ。他には、従業員が多くいるため用事が急にできても融通が利くところとか、殺しの依頼は金が多くの発生するため貴族が多く、情報収集に役に立つというのもある。あのカフェ値段高いからな。そこら辺のやつらはこれん。
ちなみに何でも屋として動くときは別名義でしている。特に殺しに関わるやつらはみんなそうだ。本名で活動するとか無理。あの能天気そうな瑛人でさえ、本名とはまた違う名前で活動している。
ちなみに今までの自己紹介みたいなのは記憶の整理だ。俺は昔、事故かなんかで記憶障害を起こした。全ての記憶を失っていないものの、失った記憶はまだ思い出せいない。それどころか立て続けの任務で不規則な生活をしているせいで、記憶が曖昧になることがある。忘れてる事があったら困るからな、この作業は任務をするにあたってとても大事なことだ。
両手には日常生活で使う大量の荷物。そして、今向かっているのはカフェだ。というか、もう着いている。記憶の整理をしていたら目の前まで来ていた。まだ開店前なためもちろん誰もいないはずなのだが、窓から見たところ夜桜はすでにいるようだ。
ちらっとわからないように見たのに目があった気がしたんだよな。すごく入りにくい。
すぐに入らなかったら絶対に何か言われるのが目に見えているのでさっと入ってしまおう。
「ずいぶんと早く来たのですね」
「待たせてはいけないと思って。逆にあなたは時間ぴったりね」
良かった。目があったのは気のせいだったようだ。
というか、さりげなくコーヒーを飲んでるな。従業員は朝早く来ないから親父が入れたのか?
「ところで、店長と何か話しましたか」
「えぇ、少しね。あなたがどういう人間なのか少しくらい知っておいたほうがいいでしょ」
めんどくさいことをしてくれたな。親父はまだ寝とけば良かったんだ。後で俺が眠らせにいく。
「あなたも何か飲めば?まだもう少しゆっくりしていこうと思っているのだけど」
「そうですね。朝食はもう取られましたか。まだでしたら何か作りますよ」
「そうね。じゃあ作ってもらおうかしら。あなたの好きなものでいいわよ」
「かしこまりました」
伊達に何年もカフェの従業員をやってないからな。料理くらいお手の物だ。というか俺が一番歴が長くて上手いまである。親父が何度か機密情報その辺に置いといて従業員に見られたりっていうのを何回かしてるからな。親父や俺のことを詳しく知ってるやつ以外の従業員は入れ替わりが激しい。よくこれで、情報が拡散されてないもんだ。
さて、何を作るかな。あまり時間をかけんのも良くないし、シンプルにいくか。
料理し終えた俺は朝食を楽しく取っていた。
「ところで、あなた来るとき窓越しに目が合ったわよね」
前言撤回何も楽しくない。
「そして、さりげなく目を逸らしたわよね」
「いえ、近くに知り合いがいましたので」
「それならもっとゆっくり話していれば良かったのに。時間ぴったりに入ろうとせず」
チッ。バレバレの嘘なら素直に謝った方がよかったか。これはめんどくさいお嬢様の従者になったかもしれないな。
ーーーーーーーーー
朝食を取ったので、夜桜の屋敷に向かうことにした。
目を逸らした件は美味しい朝食のおかげでうやむやになった。料理上手くて良かった。
まだ十時前ではあるが真夏、そして快晴であるため外はとても暑い。
「こういう時って従者が車で迎えに来るんじゃないのか」
貴族って歩かないイメージなんだよな。学校帰りとかでも年配のダンディなおじいさんが黒くて長い車で迎えに来る。これは想像上の話?
「そんなものないわ。他の貴族とかは知らないけど私は歩いてる。ここから後三十分かかるから」
うへぇ。めんどくさ。荷物重いし。なんか知らないけど夜桜のも持ってるし。いや、従者だから当然なのか。
そういえば、敬語はやめた。夜桜が「二人の時は敬語じゃなくていいわ」って言ったから。敬語って疲れるんだよな。
「屋敷に戻る前に寄りたいところがあるんだけどいいかしら」
「えぇ〜。荷物重いんだけど」
「重いって言ってる割には普通に持ってるし、姿勢もいいわね」
「それは強がりだ。男は外だとかっこよく思われたいものなんだよ」
「そう、それでも寄り道するけどね」
「ちなみにどこへ」
「今日と明日の分の食材を買いにスーパーへ行くわ」
スーパー?お嬢様がそんなとこ行くんですか。というか買い出しとかってそれこそ従者の仕事だろ。こいつの従者は何してるんだ。
ーーーーーーーー
カフェを出て一時間。やっと夜桜の屋敷に着きました。ここまで長い道のりだった。
豪華な屋敷だね。一般庶民からしたら入るのも想像できない。何よりでけえ。
夜桜が目線で門を開けろと訴えてくる。両手がふさがってる俺に開けろと。追加で食材も持ってるのに。
そろそろキレられそうだったので、おとなしく開けた。つい癖で門を開けたついでに先に入りそうになったのは内緒だ。
そして、門をくぐり、屋敷の扉までの道を歩く。心なしか、前を歩く夜桜から圧を感じる。やっぱり先に入ろうとしたのバレてたか。
扉を開けて夜桜の後に続いて屋敷に入る。
外から見た屋敷の豪華さ以上に中もすごい。まじで広いし、部屋もかなりの数あるっぽい。何人住めるんだこれ。
屋敷の壮大さを感じつつも、違和感。何かが足りない。そう、従者だ。
「なぁ、従者いなくないか」
「えぇ、いないわ」
「二階とか三階にもか」
「私の従者はあなただけよ」
「……。」
え、ガチか。というか、ちょっとトキメキそうなセリフを吐くな。柄じゃないぞ。
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