第2話 スカウト

 夏休み序盤、俺はいつもどおりカフェでバイトをしていた。


ここは高級なカフェで、入ってくるのはいつも老人ばかり。若い奴がいたら嫌でも目立つくらいの所。しかし最近、そいつは傍からみたら老人とさほど変わらない雰囲気で、違和感なく店にいた。


年齢は俺とたいして変わらないだろうか。しかし、同年代とは思えないほどしっかりしていて、きれいな身なりをしている。


まぁ、あれだ。学校にいたらほとんどの全校生徒、女子も含めて好きな奴がたくさんいそうな感じの女性だ。身なりも含めたらクール系お嬢様ってところか。


まぁ、俺は興味ないがな。ガハハ。

向こうも当然俺なんかに興味ないだろうし。興味ないというよりかは眼中にないって感じか。


クール系少女はお会計か。カツカツ靴を鳴らせて歩いている。


まぁ、俺とは無縁の人って事で俺は仕事に戻りますかね。

さーてバリバリ働くかぁ。


「ねぇ、そこのあなた」


今日もいい天気だし、気持ちよく仕事ができるな〜。


「銀髪のあなたよ」


ハッハッハ、労働は楽しい。タノシイナ。


「歩幅六十三センチ、歩き姿が綺麗で音一つ無い。お辞儀も場面によって角度を使い分けられている。この一週間ずっとあなたを見ていたのだけど。」

「……。」


俺は観念して振り返り、そのお嬢様(?)と向かい合った。


「あなた気づいていたわよね。明らかに私を避けて目線を合わせようともしない。」

「ちょっと何をおっしゃっているのか分からないのですが」


まずいな。ここまで相手が見てるとは。ここ一週間こいつを避け続けて来た。関わったら確実にめんどくさいことになりそうだったから。それが、仇となっている。


「それでご用件はなんでしょうか」

「あなた、私の従者にならない?」


う〜ん、何だこいつ。こんなカフェのバイトを従者にするだってぇ〜。やめたほうがいいぜ。

というか本当にお嬢様か?


「えっと、ここでバイトしておりまして」

「やめれば?」


何だぁこいつぁ。


「…親の許可が必要でして」


こんなときは秘技、親を理由に断る。この世の中、未成年は親が全てなのだよ。


「夜桜綾か...いいじゃねぇか零都。ちょうどいいしその申し出、受けろよ」


しかし、その話を聞いていた店長、まぁ俺の親父がなんでか知らんがちょうどいいって許可しちまった。


何がちょうどいいんだか。何も良くないわ。あんたは出てくんな。


「じゃあ、明日からお願いね。朝八時になったらここに来るから。荷物とか持ってくるのよ。服とか」


明日からかよ。手続きとかないのか。



そんなこんなで俺をおいて話は進み、不本意ながらこのお嬢様の従者になることになってしまった。




ーーーーーーー




 その日の夜、俺は親父の家に来ていた。自宅兼仕事場みたいなとこだけどな。

ちなみに俺は別の家に住んでる。なんでも、親父の所有しているとこで、信頼してる奴に管理してほしいだとか。


「なぁ親父、なんであいつの名前知ってたんだ」

「夜桜綾のことか。知ってるも何もこの辺では有名な貴族の娘だぞ。それに零都も知ってたんじゃないか」

「……バレてたか」

「そりゃな。お前は物事をはっきり言うタイプだ。なのに今回は断ってはいたが歯切れが悪かった。さらにはいない親のことを話に出したんだからな。嘘をつくのはリスクが伴う。調べられたらすぐにわかることは普段なら言わないだろ。まぁ、どうせ俺に拾われる前に会ったことがあんだろ」


今更だが、親父と俺は血が繋がっていない。俺が小4のときに拾われた。俺が適当に親父って言ってるだけだ。


夜桜は、俺が親父に拾われる前に何回か会ったことがある。かなり夜桜の見た目が変わっていて最初は気づかなかったが、昔からの癖が直っていなかったのでわかった。


歩幅は六十一センチ、歩き姿は綺麗だが、音を立てて歩く。まぁこれはわざとだな。相手に自分を意識させるため、音を鳴らしていた。一番の癖は雰囲気を周りに合わせること。


まぁ、向こうは俺に気づいていないんだろうがな。昔に比べて、声も変わっているし、髪は銀色だが、銀髪なんて思ったよりもいるし、綺麗に髪を伸ばしたからわからないだろう。癖は親父に言われて直した。言動もかなり変えた。


数年前のことを細かく覚えているはずもないしな。むしろ覚えられているほうが困る。本職に影響が出るからな。


「まぁいい。それでどうするんだ、来月から長期の依頼があんだろ。さすがに貴族の従者やりながらじゃできねぇだろ」


俺は昼間のカフェでのバイトとは別に仕事をしている。親父は表ではカフェの店長をしているが、裏では何でも屋みたく、いろんな依頼を受けている。雑用のようなものから、殺人まで本当になんでもやる。俺はその手伝いだ。


裏とは言っても本業はこっちらしい。でもたしかに何でも屋って胡散臭すぎだし、職質されたら面倒くさそうだからあまり表には出せないもんな。


「いや、依頼はやってもらう。お前以外にできるやつはいないし、いてもやらせる気はない」

「いやなんでだよ。やるやらないじゃなくて、そもそもできねぇつってんだろ」


何いってんだこのおっさん。頭イカれてんのか


「いんや、お前ならできる。つーか、お前以上に適任はいない。何も心配することはねぇさ」


ーーーーーー


 親父との話が終わった俺は帰路についていた。


依頼内容の大事なことは直前までわからない。指名された本人でさえもおおまかなことしか伝えられない。まぁ、機密情報が多くて言えないことがあるのはわかるので、俺もこれ以上は踏み込まなかった。


まぁ、俺は受けた任務はほとんど失敗しないからな。それが、指名依頼であっても失敗したことはない。つまり、心配するだけ損ってことだ。


今日はもう何もないし早く帰って寝よう。

明日から大変そうだしな。


「零都ーーー。何かあったのかー」

「叫びながら背後から突っ込んでくるな。瑛人」

「お前なら避けるから良いじゃん」

「今の状態じゃ避けるので精一杯だ」


疲れてるんだよ。こっちは。それに俺の身体能力はこいつほど高くない。


「そういえばそうだったな」

「そうだ。お前に頼みたいことがあるんだが」

「なんだー?」


うきうきだなこいつ。そんなに俺といるのが楽しいか。


「明日から違うところに住むから一人で家の管理頼む」

「……俺もそこに住む」

「だめだ。お前は連れて行かん。それに任務があるだろ。そんな余裕はない」

「嫌だ!俺も一緒に住む」


うるさ。言わきゃよかった。

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