お嬢様の完璧メイド、実は何でも屋兼殺し屋の女装

テア

第1話 指名依頼

 スラム街にて、暗い闇夜を颯爽と駆け抜ける影が二つ。


「ハチ、止まれ。ここから別行動だ」


ターゲットを確認した俺はそう声をかけた。


「了解。じゃあゼロ、また後でな。ヘマすんなよ」

「んなことはしねぇよ」


俺達は今、スラムで好き勝手やってる輩の始末をするため動いていた。別にスラムの人々を助ける義理はないのだが、国に影響を与えそうな人物の暗殺など、一般の人々や警察などができないものは依頼として、俺の所属する事務所にまわってくる。


暗殺となると、一人での行動が基本となるのだが、今回はターゲットが複数いて、基本的に二つの集団で行動しているとのことだったため二人で任務をしている。


まぁ、すぐにターゲットが見つかったため別行動になったんだが。


集団といってもせいぜい十人なので、正面から戦って、すぐにでも終わらせ、帰りたいところだ。しかし、今回の任務はただの殺人ではなく、暗殺だ。他に仲間がいると思われるそうなのでそいつらに気取られないようにしなければならない。それに慢心はいけない。ターゲットが隙を見せるか少人数で動き出すのを待つのがいいだろう。そう思い、フードを深く被り直した。




しばらく待つと真夜中ということもあり、何人かが寝始めた。一応見張りはいるがそいつも眠そうだ。そして何より、野宿する場所が悪い。こんなひらけた場所、すぐに見つかってしまう。自分たちが狙われてることも知らないのだろうか。まぁ、それはそれで幸せだな。とりあえず見張りから殺してしまおう。


しかし、トイレしたかったのか知らんが森に入ってきたやつのでとりあえずそいつを殺る。そして、見張りの三人をそれぞれ声出される前に仕留める。まぁ、口を押さえて、ナイフで刺せば簡単だ。さて、問題はここからだ。残りの六、七人をどうするか。


「めんどくせぇし、正面から行くか」


結局、騒ぎになった。

まぁ、バレてないはずだしいいだろ。




その後は特に何事もなく暗殺が終わった。暗殺かはわからなくなったが。ハチとは別々に事務所に戻ることになっていたので、向こうが終わるのを待つ必要はない。なんなら、もう終わってるのではないだろうか。

明日も用事があるので早く帰ろう。





ーーーーー





 スラム街で生きる人々は毎日死に恐怖している。金がない人、権力がない人、誰かに貶められた人など様々な人がいる。お金を稼ぐ方法も食事もほとんどない中でも何千人もの人々が生きているわけなので当然トラブルは発生する。しょっちゅう起こってるのが殴り合いだ。酷いときは殺し合いになっているだろう。もちろんそれを止める組織もない。つまり無法地帯だ。


なので、俺はそこら辺で騒ぎが起こっていても気にもしない。他人の居場所を奪って、生きていく。それがスラムだ。


例えばあそこにいる女性に身長が2メートルくらいある男が殴りかかろうとしていても気にならない…


気になら…ない…いや、気にならないわけないだろ。あまりに自然に裏路地にいるもんだから見逃しそうになったわ。


あきらかにあれは異様だ。男の方はどうでもいいとして、よく見たらかなり身なりの綺麗で貴族っぽいやつがここにいんだよ。流石にあれは見過ごせない。


一昔前、貴族の間での権力争いがひどかった。今は安定しているが、いつ権力のバランス崩れるかわからない。一番政治に影響を及ぼしているのは貴族なので、そいつらが自分のための政策、民衆のためではない政治が行われる状態になるのは避けたいところだ。


つまり、あの女性がかなり身分の高い貴族の娘だったりしたら少々面倒くさい。


「まぁ、助けてやりますか」


早く帰りたいし、さっさと片付けよう。今回は、ナイフが支給されているので、巨体の男相手でも余裕だろう。

暗殺の際に正体がバレてしまわないようフード付きのものを羽織っていたが邪魔だから被らない。これは暗殺じゃないからな。普通に考えてフードは邪魔にしかならん。視界が狭くなっても別になんとかなるが見えるに越したことはない。


後ろから音もなく近づく。別に暗殺が目的でないのでナイフをもってるとはいえ、使う必要も殺す必要もないか。そう思った俺は、男の首を後ろからがっちり両腕で締める。相手が手練れの場合、奇襲であっても抜けられることもあるが、やる側が手際よくやれば基本はない。


何事もなく男を気絶させた俺は、女性に顔を見せることもなく、そこから離れる。別にお礼とかいらない。


何か言いたげだったがまぁいいだろう。

俺は疲れた。帰る。









_______________



 事務所に戻ると既にハチがいた。


「遅かったな。あんな雑魚相手に手こずったのか」

「そんなわけ無いだろ。ちょっと寄り道してただけだ。」

「ほんとかね。まぁいい、何か新しい情報はあったか」

「いんや、ほとんどなにもなかった。強いて言うなら、森の奥で動物ではない音がした。今回の任務とは関係ないから無視したが」

「つまり、森に入った奥にそいつらの仲間がいるかもしれないってことか」






「それに関連して依頼が入っている」


そう言いながら部屋に入ってきたのは事務長のイチだ。


「ハチが言った通りスラム近くの森に集団がここ最近居座っている。今回行った任務のターゲットとグルだろう」

「じゃあ、また依頼が入り次第行く感じですかね」


正直、暗殺は俺の専門ではないので、したくはないが上からの依頼だとすればしょうがない。


「いや、たぶんだが次はハチだけでの任務になると思う」

「まじっすか。一人とか心もとないんですけど」

「それに関しては問題ない。一人で無理そうな場合は他に人を呼ぶ。ちょうど新人が入ったんだ」

「え〜誰よりも強いゼロがいい〜ゼロ好き好き」

「わがまま言うな。そしてきもい」

「詳細はまた追って知らせる。今日は帰れ」

「うい〜」


そう気だるげな返事をしてハチは帰ってった。


「それで、俺は何をするんですか」

「お前に指名の依頼だ」


滅多に来ないタイプの依頼。国政にも関わるとされ、失敗すると物によっては、多くの人の命が失われる。大変重要であり、特定の個人にしか依頼は来ない。その重要性もあってか、受けるか受けないかは自由。そこまで強制力がない上に、危険な依頼のため他の同業者はやらない者が多いみたいだ。


「今回のは特に重要らしい。お前だからあまり心配していないが、受ける場合は油断はするなよ」

「そうとう危険らしいな。普段俺を気にもかけないくせに」


危険だろうがなんだろうが俺は受けるけどね。

だって、そんなに重要な依頼なんだから発生するお金とか多いに決まってる。こんなのやらない奴いんのって感じだ。



俺は、イチに受ける旨を伝え、その部屋をあとにした。

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