第5話
初クエストをこなし、宿で30日泊まる予定にした。
俺はリサと二人で一つの部屋で泊まり、ジンジャーは一人寂しそうに個室で寝ることになった。
一つのベッドに男女二人、教育上あまり良くはないがここは異世界だ。
※※※
時系列を遡るなら、初のクエストをこなした後アーサーの店でクエスト完了の報告書と埃の被った刀を渡された。
「ジョセフと言ったかな?今回の浮気調査は本当に感謝しているよ」
特に会話をしたとかの絡みはなかったんだけどな。
「冒険者だから当然のことをしただけだ」
「それでも、君の勇気のおかげで私も吹っ切れることができたんだ。そのお礼としてこの刀?を受け取って欲しいんだ。埃が被っているが、これはご先祖様が遺してくれたものなんだ。最初は店頭に置いていたんだが、誰も手に取ってくれなくてね……君にならこれを託しても大丈夫だろうとなんとなく確信したんだ」
「刀の銘とかはあるのか?」
俺は問うた。
するとアーサーは「確か、ムツノカミヨシユキという名の刀らしいです。ご覧の通り古い刀だから誰にも買われることなく放置されたままだから一度武具屋に状態を見てもらうといいよ」と言う。
ムツノカミヨシユキ、これ間違いなく陸奥守吉行だ。
それにしても何で坂本龍馬の刀がこの世界にあるんだ?
俺は一度刀を鞘から抜いて状態を確認する。
刀身には錆どころか刃こぼれ一つない。
アーサーの口ぶりからしてメンテナンスしていたとも思えないし何かしらの付与が施されてるのか?
一度見てもらう必要がありそうだ。
「ありがとう、とりあえずこの刀は武具屋に見てもらおうと思うがオススメの店はあるか?」
「少々お待ちを…」
アーサーは紙とペンを出し書き出す。
書き終えたのか、紙を折り畳み俺に手渡す。
「この紙に書いておいたからそこで『アーサーの紹介で来た』と伝えてくれれば見てもらえるはずだ」
俺はそのまま軽く頭を下げ店を出た。
冒険者ギルドにクエスト完了の報告書を受付嬢に渡し、クエスト完了が受理された。
「初のクエストおめでとうございます。今後の活躍に期待しています!」
典型的なやり取りを終え、報酬を渡される。
報酬の多さにジンジャーが驚いていた。
「嘘でしょ!浮気調査でこんなに貰えるの!?」
「どう言うこと?」
「あのね、ジョセフとリサっちは分からないだろうけどさ、高ランク冒険者が貰う額が入ってるんだよ!驚かないわけないじゃん!」
俺はこの世界の通貨の価値がよく分かってないから首を傾げる。
「1千万パウンドだよ!普通この手の調査って2〜3万パウンドが妥当だよ?」
「リサ、1千万パウンドて多い方なのか?」
「そうですね、一応王宮にいた頃は経済学も学んでいましたので多少は分かりますけど、平民が平均的に得られる一月に貰える給金が1〜20万パウンド程度だとするなら1千万パウンドもあればしばらくの間は働かなくても問題ない額です」
そこからリサは知識をひけらかすかのように「日常品、主に食料品は銅貨で基本購入が可能です。銀貨は主に武具や家具類に家畜、金貨ともなると家を建てたり購入したりすることが可能になってきます」と説明する。
「リサっち意外と頭いいじゃん……」
「ジンジャーさんこそ中身脳みそでできているとばかり思っていましたよ?」
ジンジャーは筋肉質で腹筋も引き締まっており、服装は肌の露出が多めだから目のやり場に困る。
童貞の俺からしたら性欲を抑えるだけでも精一杯だ。
「ジョセフ様、ジンジャーさんをいやらしい目で見ていますけど、妻である私の前で鼻の下を伸ばすようなことはしないで下さいね」
リサの目からハイライトが消えており、俺は冷や汗を掻きながら軽く頷く。
地雷系やヤンデレのように重いわけではないが、一度好感度が下がれば面倒なのは確実だろう。
ギルドを出た後、俺達はジンジャーが「私が泊まってる宿はお手頃価格で利用できるからおすすめだよ。お風呂だけでなくサウナもあるよ~」と目を光らせていた。
リサはジンジャーの目論見を理解していながらも承諾した。
「ジンジャーさんがジョセフ様を略奪しようとしているのは分かりましたけど、絶対に渡しませんから」
「リサっちはお子ちゃまだから私みたいなお姉さんの方がジョセフは好みなのよ」
お姉さんマウントを取りつつ、ジンジャーは自分が描く上であるかのようにプロポーションを自慢げに披露する。
公衆の面前で体のラインを強調するものだから周囲にいた男性陣はニヤつきながら股間を両手で押さえていた。
俺は視線を逸らそうと煙草とライターをポケットから取り出し、咥えた煙草に火を付け一服する。
するとリサから「ジョセフ様が口に咥えている煙草?は匂いが臭いのでメッ!です」と強引に取り上げ遠くへ投げ捨てる。
俺は唖然としながらそれを受け入れるしか道がなく、そのままジンジャーとリサの口論を横から聞いているだけだった。
石畳は地球のように綺麗に平面になっているわけではなく、微妙に傾きがあったりと凸凹が気になることもあったが、そこは文明の違いであることを割り切るしかなく、時々
その度にリサが「ジョセフ様は意外とおっちょこちょいところが可愛いです」とにやけていた。
「着いたよ」とジンジャーが声をあげ、建物を見渡す。
宿は思っていたよりも綺麗で、広さや大きさ的に宿屋と言うよりは銭湯に近い作りだ。
内装はゲームやアニメでよくある造形である。
カウンターには年季の入った人妻らしき女性が一人だってあり、「ジンジャーやっと帰ってきたかい!」と大声を上げ「実は今日この二人とパーティ組むことになったから空いてる部屋あるなら泊めて欲しいけどいいかな?」とジンジャーは問うた。
「遠出する冒険者が今朝宿を出て片付けも済ませてるから空いてるよ」
「一ヶ月泊まる予定だけど幾らする?」
俺は財布を取り出し料金を尋ねる。
「うちの宿は一名につき一晩1万パウンドだから二名で六十万パウンドあれば一月は泊まれるよ」
「ならそれで」
ワトソン王国の通貨は異世界では珍しく硬貨だけでなく紙幣もある。
文明レベルはほぼ中世ヨーロッパか日本だと江戸時代レベルの文明だってのに。
多分ここにきた日本人がその辺りの文化も教えたのだろう。
俺は六十万パウンドをカウンターに置くと宿のおばさんは「偽札じゃないよね?」と眉を顰める。
「さっき冒険者ギルドで受け取ったから偽札ではないよ」
「近頃この国では偽札問題が話題になっていてね、うちの客もギルドを介さず依頼受けたりで偽札掴まされてブタ箱に連行されたからちょっと疑り深くなっててね、ごめんね……」
「いやいや、仕方ないよそんなことがあったことを考えれば誰だって疑いたくなるよ」
俺は軽く苦笑すると「そうかい、あんたら二人が泊まる部屋は階段を登ってすぐだからそこ使いな」と階段の方を指差す。
「風呂はまだ使えるから荷物を部屋に置いたら入るといいよ」
俺は「ありがとう」と軽く会釈するとリサも「ありがとうございます」と真似をする。
階段を登ると木造建築特有の音が鳴り響く。
日本の建物は基本的に木造建築だ。
昔義理の家族と旅行に行った際に泊まった旅館を思い出す。
この宿はそんな懐かしさを感じる空気感が漂っていた。
階段を登り終えるとドアの開いてる部屋があり、そこが泊まる場所だとすぐに察した。
部屋の中に入り俺とリサは荷物を置きすぐさま風呂場へと向かう。
風呂場は混浴だ。
宿には俺たち以外の冒険者も寝泊まりしている。
風呂場には数多くの武勇伝を有している歴戦の冒険者の風格を持った男達が脱衣場で服を脱ぎカゴの中へ入れる。
俺はそのまま服を脱ぎ風呂へ入る。
「いい湯だぁ〜」
異世界に来ての初めての風呂だ。
ついうっかり日本にいた時の感覚が出てしまう。
「もうジョセフ様……私を一人にしないでください!」
リサは体を手で隠しながら近づき風呂へと浸かる。
年齢の割には胸も大きい方で、体のラインもはっきりしている。
普段している金髪のポニーテールはお風呂のお湯が髪の毛につかないようにお団子ヘアーにして髪の毛をまとめていた。
しかし、俺はリサに欲情することはなかった。
理由は年齢的に考えればリサは中一だ。
俺は中三だし、小学校卒業したての女の子に欲情する方がおかしい。
「ジョセフ様は年下はお嫌いでしょうか?」
わざとらしい質問だ。
「別に嫌いとは言っていない。ただ……俺は女を信用できない」
その言葉にリサの表情が曇る。
「ジョセフ様私は人の心が読めることはご存知ですよね?でも……だからこそ私はジョセフ様の口から直接聞きたいんです!心を読むのではなくジョセフ様の声を!」
俺はリサのその言葉に心が動かされたような気がし、躊躇いながらも口を開く。
「それはな……」
しかし、俺は過去を語ることはなかった。
「……リサはまだ知らなくていい」
俺はそのまま風呂から上がる。
リサも「待ってください!」とすぐさま足を滑らせないように追いかける。
****
タオルで体を拭いた後部屋に戻りベッドに横になる。
ベッドは一つしかないからリサと一緒に寝ることになる。
「何か言いたそうだね」
「……今は何も言わなくてもいいです、ジョセフ様がいつか……私に心を開いてもいいと判断した時に語ってください。あなたは私にとって大切な人ですから……」
軽く頷き背を向けるとリサがそっと抱きついた。
「いつでも待っていますから……」
オタク気質な不良と異世界王女(旧題、 神様の手違いで異世界転移させられた少年は異世界でハーレム生活充実になりました) JoJoROCK @jojorock
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