第4話
"潜伏"を使っているから周囲には見えていないはずだ。
だからアーサーを信じても良いのだろう。
アーサーの妻を尾行していると、宿屋にたどり着いた。
そこで屈強な体つきのスキンヘッドの男と何やらイチャイチャしている。
「もう、人前で恥ずかしい〜」
「いいじゃねぇか、早く部屋に入ってこの前の続きやろうぜ〜」
「そうね」
と言った様子で宿屋の中に入ろうとした時だ。
アーサーが"潜伏"を解除し、二人を追いかける。
「貴様〜、よくも私の妻を!」
興奮した状態で拳を大きく振り上げ、殴りかかろうとしている。
「アーサー、どうしてあんたが……」
「えっ、あれがあんたの旦那?」
「妙に艶やかだと思ったらこの男と関係を持っていたのか!」
アーサーは興奮状態だ。
止めたところでアーサーが落ち着くのは難しい。
「妻を惑わせた代償は払ってもらうぞ〜!」
大振りに拳を振るうが、浮気相手の男にアッパーカットされる。
当然だ。
興奮すると拳ではなく、感情を振りまくからだ。
殴られた衝撃で床に這いつくばり、歯を食いしばり涙を堪えているアーサーを見下ろす男は不敵な笑みを浮かべる。
「この女はもう、お前なんかいらないってよ〜」
「くぅっ、どうしてなんだよ……私が何をしたと言うんだ!」
「あんたみたいな優しいだけの男に飽きただけよ」
とても惨めに思えた。
それだけの為に浮気をされ、自尊心をズタボロにされているのだ。
俺はそんなアーサーを見ていて我慢ができなかった。
「おっさん、どんな理由があろうと人の女奪うのはダメなんじゃないの?」
「なんだぁ、このガキは?」
「この人に雇われた冒険者だ、このハゲ!」
一度言ってみたかったセリフだ。
「このガキが、俺がハゲだと?どうやら殺されたいようだな?」
男は顔を真っ赤に染め、拳を大きく振り上げる。
振り上げた拳で俺に殴りかかるが軽くあしらう。
ここまでは予想通りだ。
興奮していると拳ではなく感情を振り回す。
戦いにおいて興奮は天敵だ。
男の左ふくらはぎの下部にカーフキックを入れる。
「なんだぁ、そのへぼい蹴りは?そんな細い足で蹴られても痛くないぞ」
男は不敵な笑みを浮かべ、攻撃態勢に戻る。
連続でパンチを繰り出すもどれも大振り。
格闘技を習っている人間の動きではない。
避けられないときは額を突き出し、痛みを緩和させながら対処する。
それを繰り返すと男の拳は赤く腫れ上がり、左ふくらはぎを引きずっていた。
「なんなんだ!さっきまで痛くなかったのに……」
「お前が興奮しすぎていたからだよ」
男が怯んだ隙に、渾身のオーバーハンドフックを顔面に食らわせノックアウトだ。
そのまま勢いよく吹き飛び、アーサーの嫁は膝から崩れ落ち気が抜けていた。
「ちょっとした出来心だったのよ……」
女は続けて「あなたが仕事熱心で構ってくれないから……」と言い訳を始める。
アーサーは目を閉じ「そうだったのか……」と頷く。
「私も心を入れ替えるからまたやり直そう……」
女は声を振るわせながら許しをこう。
「やり直す、か……。ってはいそうですかと言うわけないだろ!」
アーサーは鬼の形相で女に中指を突き立てる。
「妻の浮気調査も完了したしこれでなんか吹っ切れたよ」
スカッとした様子で女を置いて後ろを振り向く。
俺たちはアーサーに付き従うようについて行く。
初めてのクエストはそんな感じであっさりと完了した。
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