俺はあと3分でゾンビになるから。

土蛇 尚

僕はなりたかった。

 半ゾンビには三分以内にやらなければならないことがあった


 別の仲間が噛まれた時もそうだった。ゾンビに噛まれた奴には最後にやらなければならない事がある。噛まれた理由は関係ない。食糧調達の時に群れに囲まれた宮内も、ルールを無視して一人で外に出た剛田も最後はちゃんとやり遂げた。俺もこれから同じ事をやる。


 俺は腕の噛み跡を押さえながらのそのそと歩いていく。仲間達は無事都市を脱出できただろうか。噛まれた時真希は貴重な包帯を巻こうとしてくれたけど断った。俺もみんな分かってる。一度噛まれたらもう発症は避けられない。腕ごと切り落としても無駄だ。血管を流れる血は凄まじい速さで流れてる。手術の準備してる間、適当な刃物を構える間にはもうウイルスは広がってるから。


 だからせめて最後に。


 俺はゾンビの群れの中を突き進んでいく。俺ももうすぐこいつらと同じようになる。もうこいつらにとっては俺は人間じゃないらしい。ゾンビが肩に次々とぶつかってくる。周りには50体、60体はいるだろうか。


 もうそろそろ良いだろう。


 首にじゃらじゃらとかけている子ども用の防犯ブザーを次々に鳴らしていく。その音に反応してゾンビが密集してくる。

 

『ピイイイイイイイイイイイイ!」


 別々になるブザーのうるさい音が何故か一つのリズムを持ってる様に聞こえ始めた。共鳴なんてするわけがないのに不思議だ。


 小学生の頃防犯ブザーを初めて渡された時、ピンを引くのが好きだった。家の中で鳴らせば家の外にまで聞こえて迷惑になる。だから母にはひどく怒られた。


「これで遊んだら悪い人がいて、あなたが危なくなった時、別のお友達が危なくなった時『あぁまたか』って大人が思うかもしれないのよ。だからこれで遊んじゃダメ。信用を切り売りしちゃいけないの」


 視界が揺らぎ体がとても重くなる。もう3分をすぎた。半ゾンビのリミットだ。


 あぁ弟が小学一年生になった時、いたずらでブザーを鳴らしてお母さんに見つかって、それで確かえっと僕が鳴らしたんだ!って言ったんだ。怒られると思って小さくなる弟を背中に隠してそう言うとお母さんは優しくて、また同じ話をしてくれた。

 

 手から火種がポロッと落ちてガソリンに引火する。集まったゾンビと僕が燃える。燃えていく。ちゃんとできた。

 

『みんながちゃんとすることはちゃんと自分もしなさい』


 お母さん僕ちゃんとできた。


 僕は弟を守るヒーローになりたかった。僕はみんなのヒーローになりたかった。


 終わり。


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俺はあと3分でゾンビになるから。 土蛇 尚 @tutihebi_nao

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