1,おい幼馴染。なんだその反応。

 ということで、完全に男子の格好になじんだ俺は、腐れ縁で小学校から大学まで同じ幼馴染と大学に行くことになった。ちなみに、入学式は自由参加だったからさぼった。

 え?心の一人称?こいつも直すのは大変だったよ……。

 ともあれ、幼馴染が家に迎えに来るので、一緒に行く予定だ。


 ピンポーン

 ほら、きたきた。


「おはよう、カナちゃん!今日から同じ大学だね!楽しみだね!!」


 朝からテンションの高いこのチビ巨乳こそ、俺の幼馴染の南セイカだ。大学に入るにあたり、俺みたいなイメチェンを目指して髪を染めたらしい。


「ああ、はいはいおはよう。

 毎回言ってるけどカナ『ちゃん』はやめような。俺の名前はカナデだし。あと、今日からも何もずっと俺らは一緒だろ?」


 俺が家のドアを開けながらリアクションすると、


「……いとこさん?はじめまして?」


 セイカはきょとんとしている。


「いや、そういうのいいから、イメチェン成功おめでとう、でいいから。」


 俺はそう返しながら、靴のかかとをはめた。


「ふぇっ?いや、イケメンさんはうれしいけど、私のカナちゃんはどこ?」


 あれ、こいつガチでわかってない?


「俺だよ、俺。何年幼馴染やってんだ。見て分かれ。」

「……?」


 あ、フリーズした。こりゃしばらく戻ってこなそうなので、戸締りだけしてセイカの腕をつかみ、引きずって歩くことにした。




「バンドサークルです!新入生募集してます!」

「将棋サークル入りませんか!特に女子!」

「大学生と言えばテニスサークル!見学だけでもいいよ!」

「新興宗教サークル……ぐへへへ」

「体育会で本気でラクロスやりませんか!!」


 大学につくと、サークル勧誘活動期間らしく、あちこちで大声で呼びかけが聞こえてきた。

 ……なんか途中変なのいなかった?今のご時世うるさいんだから変なサークル作るなよ。


「はッ!?ここはッ!?」


 およそ一時間に及ぶフリーズを経たセイカは、サークル勧誘の喧騒によって目が覚めたらしい。


「おはよう。一時間あんたのことをおんぶして大学まで連れてきてあげた幼馴染に一言どうぞ?」


 俺が促すと、セイカはまたフリーズ……


「させるかッ!」


 セイカがフリーズする前に、バッグに入っていたパソコンをセイカの脳天に向けて振り下ろす。

 パシッ!!


「お見事。」


 セイカはこう見えて空手の達人だ。それも、全国大会の常連レベルの。

 だから、パソコンの振り下ろしも真剣白刃取りしてくれる。


「もう、この殺気、ほんとにカナちゃんなの!?」


 セイカはびっくりした顔で、真剣白刃取りの向こうから覗いてくる。


「だからさっきからそういってるじゃん。」

「マジかぁ……どんどん理想になってくじゃん。」

「え?なんかいった?」


 セイカが最後に言った言葉だけ、周りの喧騒によってかき消されたが、セイカに「んーん」とはぐらかされてしまった。


「ちょっとそこの君!」


 後ろから声をかけられる。道着を着た男子だ。


「その動き、もしかして、『殺戮の違法ロリ』!?」


 おそらく空手サークルか何かの勧誘だろう。だが、南無三。誰にだってタブーはある。


「私の、ことを、その、名前で、呼ぶな……」


 さっきまで俺をピュアピュアに見ていたセイカの目がうつろになっていく。

 六年前、どこをどう間違えたらそうなるのかはわからないが、セイカが空手の大会の会場を間違えたことがあった。


 行きついた先は大人の大会。そこで迷子の子供扱いをしてきた大人を全員ぼこぼこにしたという伝説を持つ。

 重傷5名、軽傷29名、本人無傷。

 地域の新聞に例のあだ名が付けられた。いや、新聞社、倫理終わってるだろ。

 俺は殺戮劇が始まることを察知して全速力でそこから逃げる。


「クラァァァッ!」


 セイカの怒声と阿鼻叫喚の声が背中の方から聞こえてきた気がしたが、全力でなかったことにした。

 奴はとにかく人の多いところで暴れる性質がある。ああなったらもう誰も手を付けられないし、逃げるしかない。

 一応、俺が子守唄を歌えば寝付くのだが、そのためには危険を犯して近づく必要がある。どっかの緑色のアメコミヒーローかな?


 時折飛んでくる人やがれき、肉片……じゃないか。ないよな?さすがにないよな?を避けながら全力で逃げる。

 クッソあのバカ、12年来の幼馴染の俺まで巻き込むつもりかっつーの。

 校舎と校舎の間の狭い空間に走り込み、陰になっている道を突き進む。人気がないから危ないとか言っている場合じゃない。

 俺は普通の人間だっつーの。


「はぁ、はぁ、もう無理だ……」


 へたり込もうとして、地面に何か転がっているのを見つけた。

 吸い殻だ。タバコの。

 高校までは当然そんなものなかったから、いきなり触れる「大学ならでは」に少しだけ心が警戒音を放つ。

 意識をすると、ふと、タバコのにおいがあたりに立ち込めていることに気が付く。


 ってことは……


「ポイ捨てしちゃって……」


 タバコの影響だろうか、少しがさついたような、どこか疲れたようなアルトボイスが聞こえた。

 顔を上げる。

 厚底の靴にダメージジーンズ。革ジャンといういかにもないでたちのお姉さんがいた。


「かっこよ……」

 俺は思わずつぶやいた。

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JDですが、モテたくて男装をしたら女子にばっかりモテる件 怪物mercury @mercury0614

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